075 sideX
俺はダスター。最年少でS級まで駆け上がった、天才冒険者。その活躍が目に留まったのか、反抗と反骨の神からも加護を……後に、神人にまで取り立てられた。
だが、そんな俺には敵が多かった。妬み嫉みを向けてくる同業者。過激すぎる言動に顔をしかめる上役ども。そして、俺が敵視しているがゆえに、敵意を返してくる貴族や王族。全部、敵だ。……いいや、違うな。踏み台だ。踏みにじり、俺が更に飛翔するための足場かなにかだ。
俺は高く飛び上がりたかった。S級という肩書では不足。もっと、もっと上。そうさ、一国の王あたりが妥当だろう。……この世の最底辺である奴隷出身の俺が、力で最頂点である王にまで登り詰める。そんな事を、当時は本気で考えてたもんだ……。
「ダスター! こんな提案……通る訳がないだろう!」
「なんでだ? てめえらだって、分かってんだろ? このままじゃ、冒険者ギルドは限界だってよ」
S級という肩書は、俺の心を満足させるためには不足だったが、俺の望みを叶えるためには最適だった。冒険者ギルド内は敵だらけであったが、それ以上に発言力を持っていたのだ。だから、提案した。冒険者たちで国を作ればいい、と。世界中に争乱が広がりつつある情勢なんだから、手頃な国を攻め落としちまやいい、と。そうすりゃ、貴族や王族との駆け引きなんていらねえ、ギルドが望んでる自治が叶うだろ?
「ふざけているのか! 民を守る組織の我々が、民を苦しめる争乱に加担する訳にはいかん!」
「そんなに吠えんなよ。一時の苦しみを乗り越えりゃ、崇高なギルド様が治める国が出来上がるんだ。民も喜ぶだろうぜ?」
その国を治めるのは、王侯貴族じゃねえ。色々な種類があるギルドが、分担して国を治める。きっと、イイ感じに国も回るだろ。そんでもって、最も重要な部分……その国の頂点は、最も力がある存在が君臨する。要するにだ。完全な実力主義の国! 貴い血筋? そんなの関係ねえ。穢れた血筋でも頂点に立てる……そんな国だ。
「喜ぶ訳がない! ギルドは、国家という形態を超越しているからこそ、民に頼りにされているんだ」
「全世界に支部の根を張り巡らせてるからだろ? だったら、世界をくまなく手中に収めりゃいいじゃねえか」
国で分けるから争乱が起こるんだし、まとめちゃえば争乱なんて無くなる。世界に国は一つ。その王の座には俺という天才が座り、各ギルドが上手い事運営していく。貴族みたいなクソどもが居ない分、民も安らかに暮らせる。完璧じゃねえの?
「そんな事……出来るはずが無いだろう! 世界征服なんて馬鹿げた考え……今すぐに捨て去れ!」
顔を真っ赤にして怒るグランドマスターと、それに追随するように俺を批判する幹部連中。いつもの事であり、普段なら俺が不貞腐れながら部屋を退室していた事だろう。
だが、今日の俺は違う。いい加減、頷いてもらわにゃあ困る。だから、言い放つ。
「じゃあよ、とりあえずこの国の王の首……獲ってきてやるよ。そうすりゃ、世界を獲れるって信じられるだろ?」
俺のその言葉は、部屋を静まり返らせるに充分だった。グランドマスターも幹部連中も、言葉が無いといった様子で黙り込む。
おいおい、返事の一つもしやがれよ。無言は肯定なんて言葉を聞いた事があるし、これは実行の許可なんじゃねえか?
そんな風に、俺が納得して頷いていた時……グランドマスターが口を開いた。
「待て。必要ない。そこまでの決意だという事は理解した。お前の提案は受理するから、早まった行動だけは……控えてくれ」
「おお! やっと、理解してくれたのか! じゃあ、細かい計画立案はよろしくな」
そう言い残して、俺は部屋を退室したのだった。
これは後に聞いた事だが……この部屋に残ったクソどもは、この時に俺の暗殺を決めたらしい。大規模依頼と称して誘い出した迷宮で、俺を葬り去る。そんな計画を……。
暗殺計画が進行しているとは知る由もなかった俺は、まんまと依頼名目の罠に飛び込んでいた。B級迷宮で、魔獣活性化の兆候在り。俺にとってはよくある出来事で、なんの疑いも持たず……急遽集められた(とされる)、そこそこの冒険者たちと即興パーティを組み、迷宮攻略を開始していたのだ。
俺は、獅子奮迅の活躍を見せていた。上級魔獣であろうと一刀で斬り伏せつつ、被弾はゼロ。いつもの無双状態。正直なところ、パーティを組む必要すらない。一人でも楽勝。
ただ、それでもパーティメンバーを同行させたのは……俺の強さを見せつけるためだった。……そんな俺の性格まで利用され、罠が仕掛けられているなんて、夢にも思っていなかったもんだ。
だからだろう。俺は……あっさりと危機を迎えた。
――最深部突入直前、最後の休憩中。へらへらとした笑顔と言葉、それらと共に手渡されたスープ。
「『反抗の刃』殿。迷宮ボスの討伐も、貴方が居ればあっという間ですね」
「おう。お前ら、俺様の活躍……よく見とけよ?」
そう言って、スープに口をつける。完全に油断していた。他の奴らも飲んでいるスープだ。毒なんて仕込まれていないだろう、と。
しかし、俺の身体は痺れだした。持っていたスープが、器ごと床に落ちる。……そう。器に毒が塗り込まれていたのだ。
「お前ら……なにを?」
身体の自由が失われていく中、捻り出した言葉。返事の代わりに返ってきたのは、奴らの汚い嗤い顔。そして、振り下ろされる刃――
ドスッ。そんな音と共に、俺の身体からは血が流れ出ていた……気がする。すでに意識も朦朧で、自分の身体の事ですら……夢の中のように曖昧だった。だが、奴らの吐き捨てた言葉だけは……鮮明に覚えている。
「貴方がいけないんですよ。なんでもかんでも噛みついて、反抗だなんだと宣う。だから、捨てられるのですよ……」
俺は、捨てられた。裏切られた。その時やっと、状況を理解出来た気がする。そして、思った。クソが! たったそれだけ。だが、それが全てでもあった。
クソみたいな奴隷生活。クソみたいな努力の日々。クソみたいな奴らを足蹴にし、クソみたいな組織でのし上がる。……ああ、クソだ!
クソみたいな奴らは、せめてもの慈悲か……はたまた、苦痛を長引かせようとする嫌がらせか。俺にとどめを刺す事なく、優雅に立ち去って行った。その様子を、動かぬ身体で見送る。そして、クソどもの足音すら聞こえなくなった頃、俺の頭に声が響いた。
(お前、案外使えない奴だったな。がっかりだよ。じゃあな)
反抗と反骨の神デファイの声だった。声だけで、表情は見えなかったのだが……俺には分かった。玩具に興味を失くした子供のような顔だったのだろう、と。
そして、俺の身体から……神から与えられた力が失われた。……神からも、捨てられたのだ。
「ク、ソ、が……」
多分、これで最期だろうと、全ての力を込めて発した言葉。俺らしい最期だ。急速に熱を失っていく身体に、死の到来を予感した瞬間だった――
(生きる事を望むか?)
クソ神とは別。聞き覚えの無い声が、頭に響く。だが、返事をしたくとも……もう、声すら出ない。だから、強く願った。
(生きたい! 人も神も……クソどもが作った物も全て、殺し壊し尽くしたい!)
(よかろう。その望み、叶えさせてやろう。ただし、お前は只人ではなくなる。よいか?)
(いい! どんな存在に成り下がろうが、生きてさえいれば……)
ドクンと、俺の身体になにかが流れ込んできた。……それは、マナだった。魔獣のようにマナを取り込み、人の形をした俺の身体が癒えていったのだ。
その時、俺は思った。魔獣でもなく、ましてや……ただの人でもない。なら俺は、魔人とでも名乗ろうか、と……。




