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争乱の神人  作者: 富井トミー
第14話 希望を打ち消す反抗の刃
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073 sideA

 結果から言おう。完勝であると。


 迷宮(ダンジョン)内での初接敵。現れた魔獣(モンスター)は、ハイオーガが指揮する通常種オーガの一団。この時点で、数は二十を超えている。時間を掛けてしまえば、続々と増援が集まってくるかもしれない。そんなディンガの考えのもと、俺たちは速攻を仕掛けた。温存よりも早期の殲滅を選び、その選択通りに事が運んだ訳だ。それにしても……。


「思ってた以上に、手応えが無かったような?」

「シルバ、お前も感じたか?」

「うん。他のみんなも?」


 みんなの顔を見渡すと、返ってくるのは頷きばかり。その事から、俺の思い過ごしという事でも無さそうだ。なんとも不思議である。ゴブリンより魔獣としての級付けが上のオーガが、何故こうもすんなり倒せてしまうのだろうかと。


 俺が不思議がっていると、ハイランドさんが意見を口にする。


「オーガには、遠距離攻撃が無い。マジシャンやアーチャーが居ないというのが大きいように感じます」

「うむ。対してこちらは、優秀な援護がある。その差だろう」


 俺と一緒に前衛に立つ二人の意見に、俺も同意するよう頷く。確かに、それもあっただろうと。


 オーガの攻撃は素手、或いはお手製の不格好な武器類での打撃。時折、投石してくる個体もいる程度。ゴブリンに比べて攻撃は早くて重いが、それだけだ。いや、並みのパーティであれば……それだけで、充分過ぎる程の脅威ではあるだろう。ただ、俺たちにとっては、魔術も矢も飛んでこない戦闘では、特別脅威とは感じないだけだろう。


 それに、狡賢いと聞いていた戦術面も、こっちの後衛が上手く潰してくれている。回り込む、連携を断ち切る。そういった動きを、魔術や矢で阻害してくれるお陰で、前衛である俺たちは……非常に戦いやすかった。戦術的優位を保てたのも、脅威を感じなかった一因だと思う。


 ただ、それにしても楽勝過ぎた気がするのだ。魔獣が手加減でもしていたんじゃないかと、あり得ないような事を考えてしまうほどに。……迷宮外の魔獣の掃討を含め、こっちに都合がいいように事が運び過ぎている。そんな、確証の無い違和感を感じている。


 しかし、だ。どのような理由があれ、魔獣を苦労なく倒せるのなら……今は、気にするべきではないのだと思う。作戦遂行が優先だ。得体の知れない違和感を完全に頭から追い出す必要は無いけど、考え過ぎる必要もない。最低限の警戒だけに留め、迷宮を進んで行く事にしよう。



 その後も、単調な戦闘が続いた。戦闘回数こそ多いものの、みんなの消耗は軽微。それゆえか、奥へ奥へと突き進んでいった。そして、目の前に現れたのは――


「やはり、ここの迷宮でも……」

「ああ。落盤に偽装した封鎖跡だな」

「後々、調査隊を送る必要は……ありませんわね」


 ディンガと二人のギルドマスターが、大氾濫(オーバーフロー)の原因となった封鎖跡地前で話し合っていた。


 その封鎖はすでに解かれていて、大氾濫発生時の姿は窺い知れない。だけど、人為的に封鎖が行われたのは間違いない。同時期に、同様の落盤が、これほど巨大な通路を埋め尽くした。そんな奇跡的な偶然、ある訳ないのだから……。きっと、怒王国の「小鬼の巣窟」でも、同様の封鎖跡が見つかる事だろう。


 話し合いの結果、この場での調査すら不要と判断したディンガたちは、攻略再開の指示を出す。


「よし! んじゃ、再出発だ!」


 そう口にしたディンガに、俺は反射的に待ったを掛けていた。そう、本当に……なんの根拠もないのに、口を衝いて出た言葉だった。


「待って! ここらで少し、休憩にしとこうよ」

「ん? シルバ……? ここまで順調だったし、どんどん進んどきたいだが?」

「そうかもだけど……休憩にしようよ。洞窟の中だから気付かないけど、外はきっと夜だしさ」

「そりゃ、分かってるが……大して疲れてもねぇしよぉ」


 渋るディンガは、簡単に首を縦に振らない。そんな時、思いも掛けない援護射撃が行われた。


「メリも、シルバさんの意見に賛成なのです。……根拠はないのですが」

「私もですにゃ。勘でしかないですが、主様の意見を信じるべきにゃ」

「メリサンドに分神様までか。神様関係者が揃いも揃ってってなると……こりゃ、なんかありそうか。分かった、休憩にしようぜ!」


 援護射撃の効果は絶大で、ディンガは休憩をいれる事を了承してくれた。封鎖跡の岩に軽く身を隠すように全員で腰を下ろすと、後回しになっていた食事を開始する。とても美味しくないギルド特製携行食だけど、お腹にさえ入ってしまえば……それなりの満足感を感じた。昼夜同様忘れていたけど、なんだかんだでお腹も空いていたのだろう。


 簡単な食事を摂り終えると、みんなが思い思いに身体を休め始めた。俺もそれに倣ってくつろいでいると、ハイランドさんが隣にやってきて問うてくる。


「シルバ君、水を差してまで休憩を望んだ理由……聞かせてもらっても?」


 受け取り方次第では、俺の意見を批判しているようにも聞こえる。だが、その意図は無いようで、純粋に興味があるといった様子だ。


 ただ、返答に困る。自分の中でも、明確にこれだと指し示せる根拠などない。だから、思っている事をそのまま口にする。


「休憩を入れたほうがいい……いえ、入れなければいけない、そう思ったんです。それに……」

「明確な理由は無く、第六感ですか……。それに?」

「それに、見られている……いえ、視られている気がしたんです。どっちも、俺の感覚だけが理由で申し訳ないんですけど……」


 こうやって口にしてみて、本当に申し訳なさが募ってきた。作戦行動を中断してまで入れた休憩の理由が、俺の主観的判断。主観的と言っても、下手すれば……思い込みや思い込みの(たぐい)かもしれない物ばかり。


 俺が俯いてしまっていると、ハイランドさんは微笑みながら言う。


「いえ、順調な時ほど慎重になるべきですし、第六感というのは侮れない物でもありますから。ですが……みられているとは?」

「説明が難しいですが、監視されているような気がするんです。周りに魔獣や人がいない時でも……」


 いつ頃からかは覚えていない。ただ、この迷宮に近付いてからは、視られている感覚が強くなった気がする。とてもねっとりとしていて、全身くまなく視られているような……そんな感覚が。


「神々には遠見の力があるそうなので、いずれかの神の仕業では?」


 俺もそれは考えた。だけど、違う。何故断言できるのか、その理由すら分からない。でも……俺の忘れているはずの記憶が、遠見の術では無いと伝えてきている。だから、違う。


「違うはずです。……とりあえず、この休憩は俺の我が儘みたいなものだと思ってもらえれば」

「そうですか。ですが、休憩してみて気付きました。この休憩は必要だったと」

「そうですね。思っていた以上にお腹も減ってましたし、自分でも気付かない内に疲れてもいましたよね」


 ハイランドさんは頷いた。彼のような上級のベテラン冒険者であっても、俺と同じだったようだ。そして、気付く。俺の第六感は、この先には万全な状態で進めと、そう伝えてきていたのだと……。



 短いながらも充実した休憩を終えた俺たちは、再び作戦へと戻っていった。迷宮を奥へ奥へと、まるで……誘いこまれるかのように進んで行く。そして、何度かの戦闘を経て、遂に最深部目前に到達したのだが――


「やっぱ、ありやがったな」

「ここでも扉なのです!」


 ディンガが言う通り、やっぱりだ。「小鬼の巣窟」にもあった、王の間にでも繋がっていそうな巨大な扉。そんな物が、ここでも目の前にそびえているのだった。

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