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争乱の神人  作者: 富井トミー
第14話 希望を打ち消す反抗の刃
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071 sideB

 これは、メリたち魔術組の出番でしょう。森なのかオーガなのか分からないような塊を眺め、メリは気合いを入れています。


 遮る物のない平原、高いマナ濃度、高密度に密集した敵……。大規模な魔術を撃ち込んで下さいと言いたげな、最高の条件が整っています。あまりに整いすぎていて、罠なのではと疑ってしまうレベルです。……流石に、罠って事はないですよね?


「誘われているような……そんな、お(あつら)え向きな状況ですわ」


 同じ事を考えていたようで、ジゼル様が呟きました。メリは頷いてから、聞き返します。


「ジゼル様もそう思うのです? でも……」

「ええ。あえて、上級魔術を撃たせる利点が無いですわね」


 しいて挙げるとすれば、オドの消耗でしょう。ですが、大氾濫(オーバーフロー)を起こした迷宮(ダンジョン)に近い事で、オドをあまり消費する事なく、上級魔術のような大規模なマナ行使は可能。利点として挙げるには、少々説得力が弱いように感じます。他にあるとすれば……慢心させる事でしょうか。いえ、流石にそれは無いでしょう。メリたちを調子付かせるためだけに、これほどの数の魔獣(モンスター)たちを生け贄に捧げるなんて……合理性の欠片もありませんから。


「そうなのです。なので、撃つべきだと思うのです。上級魔術を!」

「そうですわね。敵方にどのような思惑があるとしても、はたまた無いにしても……この好機を逃す手はありませんわ」


 メリとジゼル様が意気込むのを見て、ハイランド様が頷いていました。そして、ディンガさんに促します。


「ディンガ、魔術による先制攻撃が良いと思いますよ?」

「ああ。きな臭さはあるが、それがベストだよな。シルバ、お前も混ざってくれるか?」

「了解。それじゃあ、とっておきの魔術を使っちゃうよ!」


 シルバさんのとっておき。魔法って事はないでしょうけど、それに負けないくらい凄い魔術を使うのではと……メリは、不覚にも期待と好奇心に心奪われてしまいました。ワクワクしているような状況では、決してないはずなのに、です。


 そして、敵方の動きがない事をいい事に、それぞれがどこを狙うかをゆっくり話し合い、役割分担を決めました。そこで決まったのが、メリが左側の敵、ジゼル様が右側の敵、そして……シルバさんが狙うのは――


「迷宮前方と後方を同時? それは……危険だと思いますわ」

「そうなのです! 迷宮入り口まで巻き込んでしまうのは、突入に影響があるのです」


 ハイオーガの森は、迷宮を中心にした円形に広がっています。左右と前方だけを狙い撃つだけでは、後方部分が残ってはしまいます。ですが、敵の殲滅を優先した結果、迷宮入り口まで崩落では……今後の作戦行動に支障をきたしてしまいます。


「大丈夫だと思うよ。俺が今から使う魔術はきっと……迷宮入り口には、被害を与えないはずだから」

「シルバさん? ”きっと”や”はず”では、色々とまずいと思いますわ」

「そうなのです。それに、そんな魔術……あるのです?」


 メリが使う「無慈悲な暴風(サイクロン)」やジゼル様が使う「終末の業火(インフェルノ)」といった上級魔術は、威力・範囲共に桁違い。ですが、欠点として……細かい範囲の指定は出来ないはずなのです。なので、迷宮だけに被害を与えないというのは、魔術というよりも魔法の領分。……実は魔法でした、なんてオチでは無いですよね?


「あるよ。それと……ちゃんと魔術だから!」


 多分、顔に出てしまっていたのでしょう。シルバさんは、魔術だと宣言しました。ですが……その言葉を鵜呑みにすると、色々と後が怖いのです。メリは、シロ様に伺いを立てます。


「シロ様。シルバさんはああ言っていますが……大丈夫なのです?」

「大丈夫なはずにゃ。私が知っている魔術の中にも、該当する魔術があるにゃ」

「そうなのです? なら、大丈夫なのです。あと、シロ様も参加するのです?」

「主様が”あれ”を撃つつもりなら、私の力は必要ないにゃ」


 シロ様がそこまで言う魔術……気になって仕方がありません。ですが、そろそろ攻撃を始めたほうがいいでしょうし、攻撃を始めれば……嫌でも目の当たりにするのですから、今考えるのはやめておきます。


 こうして、準備を整えた魔術組は、ディンガさんへと合図を送ります。そして、下される攻撃指示。


「それじゃ、詠唱開始!」


 ディンガさんの声に合わせ、メリたち三人が詠唱を始めます。


「――吹き(すさ)ぶ暴風、我が敵を切り裂き給え!」

「――猛き災いの炎、顕現し焦土を成せ!」

「――いと高きところには栄光、地には平和。魔を滅する裁きを下せ!」


 とても長く、そして……未知。そんな詠唱が混ざっていましたが、メリは集中を途切れさせませんでした。聞きたい事は山ほどありますが……質問は後です。


 全員の詠唱が終わったと理解して、ディンガさんは手を突き出しながら叫びました。


「放て!」


 その声に反応し、三人は最後の言葉を口にしました。


「『無慈悲な暴風(サイクロン)!』」「『終末の業火(インフェルノ)!』」「『断罪の神光(ジャッジメント)!』」


 それぞれの身体から、暴風が、業火が……そして、眩い光が溢れ出しました。メリから吹き出す風は、左方の敵集団を切り刻んでいます。ジゼル様から放たれた炎は、右方の敵集団を燃やし尽くしています。シルバさんから溢れ出ていた光は、帯状に広がり……迷宮入り口周辺の魔獣を通り過ぎていました。そして……音もなく、消し去っていました。


 驚愕。その一言に尽きます。上級魔術という括りにありながら、シルバさんの魔術だけは……そもそもがおかしい。切り裂く旋風でも、身を焼く猛火でもなく……光です。ただ眩しいだけの光が、魔獣だけを消滅させています。訳が分かりません。痛いでも、熱いでもないはずなのに……何故、魔獣が?


「シルバさん! 今の魔術はなんなのです!」

「そうですわ! 光を扱う以上、神属性魔術でしょうけど……あのような魔術、知りませんわ!」


 正側での呼称は、神聖属性。負側や中立での呼称は、神属性。その他にも、精神に影響を与える魔術が存在する事から、精神属性とも。そんな、神聖属性魔術には……上級魔術は無かったはずです。少なくとも、メリの愛読書である魔術書には、一切の記述がありませんでした。


 ですが、現に……目の当たりにしました。という事は、失伝魔術なのでしょうか。継承者が存在せず、歴史から消えていった魔術。それらの多くは、現存の上級魔術を更に凌ぐ威力を誇りますが……それ相応のマナ・オド消費量と難易度であったとか。要するに、扱えるほどの技量や知識、そして……オドを持つ魔術師が存在せず、継承が不可能だったという事です。


 そんな、現代に残っていないはずの魔術を扱えるのは、何故? そんなメリの疑問に、シルバさんの返答は……なにも答えてくれません。


「上級神聖属性魔術『断罪の神光(ジャッジメント)』だけど、なにか不味かった?」

「不味くはないのです……。迷宮も無事ですし、魔獣も綺麗さっぱりなのです。でも……」

「ええ……。間違いなく失伝魔術ですわね」


 魔術師ギルドマスターが言うのですから、失伝魔術で確定です。……扱える人が目の前にいるので、失伝では無くなった訳ですが。


「そっか。みんなが知らない魔術だったのか。あまり使わないほうがいい奴だね?」

「そうなのです! 大騒ぎになる奴なのです……」


 そうは言いましたが、実は……また見たいとも思っています。失伝魔術自体に興味が湧いているのもありますが、なにより……綺麗でした。人にとっては神々しい光であり、魔獣にとっては無慈悲な断罪の光。なので、メリからすれば……希望の光に見えたのです。特に、この後の迷宮への突入を考えれば、尚更に……。

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