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争乱の神人  作者: 富井トミー
第13話 怒り狂う争乱の前奏曲
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069 sideA

「たったの四人でですか?」


 俺たちは今、国境守備軍の隊長と話をしている。俺たちというのは、突入作戦に参加する四人と、作戦の発案者である二人のギルドマスターだ。そして、何故隊長と話しているのかというと……。


「そうです。このままでは……四人での作戦決行となってしまいます」

「なので、魔術師と冒険者の指揮権限、受けとって頂きたいのですわ」


 ハイランドさんとジゼルさんは、発案した責任感からか、或いはギルドマスターとしての覚悟なのか……作戦への参加を希望していた。そこで、足枷となったのはギルドマスターとしての責任。要するに、指揮官としての役割だ。


 なので、出した結論がさっきの提案。指揮権を移譲するという荒業。指揮権を譲るに相応しいと考えた相手が、寡兵で城壁を守り抜いた実績のある守備軍隊長という訳だ。


 この提案は、荒業ではあるが利の多い提案でもある。ハイランドさんとジゼルさんという大戦力が、自由に動く事が出来るようになる。守備軍としても、指揮系統の一本化はなにかと都合が良い。俺としても、A級二人が同行してくれるのは……本当にありがたい。よって、誰からしても有益。なので……。


「分かりました。指揮権限をしばらく預かります」


 隊長は、即座に了承した。これに、ギルドマスター二人も感謝の意を表すのだが、隊長さんは続けてこう言う。


「ですが、私は一時的に預かるだけです。……指揮権の返還は、またここで行いましょう」


 借りた物を返す。だから、無事に帰ってこい。隊長の素直ではないエールに、二人のギルドマスターは微笑みながら頷いた。そして、後ろで控えていた俺たちへと振り向き、手を差し出してくる。


「また、パーティメンバーとして……よろしくお願いします」

「私の魔術、あてにして下さいな」


 俺たちは、差し出された手をしっかりと握りしめた。六人の手が、入り乱れながら結ばれている。


 その様子は、なんだか……俺たちの関係性のように思えた。それぞれの立場や役割はバラバラ。本来ならば、パーティを組むなんて事はないはず。それなのに、再び集結した。


 それに、想いだって様々だと思う。俺やメリちゃんは、多くの人々を護りたい一心で。ディンガとドーリスは、冒険者としてのプライドが大きそうだ。そして、ギルドマスター二人は、その立場ゆえの責任感だろうか。……それでも、目指すゴールは同じ。大氾濫(オーバーフロー)を収束させる。


 だからだろう。無秩序に交差しながらも、それぞれの手が固く結ばれているのは……。だからだろう。俺たちならやり遂げられると思えるのは……。



 その後、俺たちは国境警備の任務から外れ、城壁上にある警備軍の詰め所に部屋を与えられ、休息と作戦会議が行われていた。ほとんどの人員が敵の第二陣への警戒に充てられる中、かなりの特別待遇だ。だが、誰の口からも不満は出てこなかった。……きっと、ほとんどの人は、”最期くらいは”と考えているのだろう。生還できる見込みがないのだから、出発までは、と……。


 実際、警備任務の休憩時間を使って、冒険者や魔術師が俺たちのもとへと訪れ、今生の別れとでも言いたげな表情と言葉を残していっていた。人によっては、「行かないで下さい」と泣き縋るなんて事も。それほどに、この作戦は危険だと認識されている。それは、俺だって理解しているし、パーティメンバーのみんなも同様だろう。だけど、みんなの口から出る言葉は、前向きなものばかりだ。誰も……諦めていなかった。生きる事を。作戦の完遂を。だから、作戦会議は粛々と行われている。


「旦那、最初は神聖国側の迷宮(ダンジョン)、『大鬼の巣窟』に向かうって事でいいんですよね?」

「ええ。同時に二か所を攻略する戦力はありませんし、なにより……選ぶとしたら、神聖国側が先でしょう」


 作戦の全体像はハイランドさんが、開始後の指揮を執るのはディンガが。そう決まっていたため、二人が作戦についての話し合いを進めている。そんな様子に相槌を打ちながら、俺はハイランドさんの言葉の意味を考えているところだ――


 同時攻略は不可能。そこは理解出来る。ただ、何故……神聖国側が先だと、あたかも決まり切っているように話すのだろうか?


 大氾濫を起こした迷宮は、神聖国側の「大鬼の巣窟」と怒王国側の「小鬼の巣窟」。それぞれの本来の迷宮級付けはCとDで、ここからの距離はどちらもほぼ同じ。ならば、より上級の迷宮を先にするより、同種の迷宮攻略(ダンジョンアタック)経験のある「小鬼の巣窟」を優先するほうが、成功確率は上がるように感じる。出現魔獣(モンスター)的にも、城壁を打ち崩そうと叩き続けるオーガより、城壁に取り付いて登ってくるゴブリンのほうが厄介だと思う。


 それでも、神聖国側を優先すべきという事は……政治的・軍事的判断だろうか?


 この事態を招いている大きな要因は、怒王国の大規模侵攻。攻める怒王国に守る神聖国という構図だ。仕方なく迎え撃つ神聖国としては、攻め手がいなければ、すぐにでも大氾濫収束に動いてくれる事だろう。逆に言えば、怒王国が戦争継続を考え続ける限り、神聖国は動けない。だから、怒王国側を後回しにする。大氾濫で溢れた魔獣が、怒王国軍や怒王国内に被害を与えれば……戦争継続を考え直すかもしれないから。


 そういう判断なのだろう。俺としては……怒王国上層部には苛立ちを感じるけど、罪無き国民には……同情を禁じ得ない。怒りに任せて争乱を加速させる上層部のせいで割を食うのは、いつの時代も国民なのだから――


 結局、誰からの反対意見も出ない事で、「大鬼の巣窟」を先に攻略する事が決まった。そして、その先は未定。すぐにでも怒王国側の迷宮へも向かいたいところだけど、こればかりはその時の状況次第。続けて攻略へと向かえる戦力や余力が残っているかどうか、だ……。


「それでは、この計画でいきましょう。それぞれの国のギルドへ連絡をしておきます」


 ハイランドさんは作戦会議を締めくくり、守備軍所有の通信用魔具へと向かった。残された俺たちは、パーティ戦術の確認をしながら、ハイランドさんの帰りを待つのだった。



 連絡を終えたハイランドさんが帰ってくるのとほぼ同時刻、増援の貴族軍の一部が到着した。主力である国軍の到着はまだ先だけど、少なくない人数が増員された事で、ある程度の安心感がある。だって、俺たちが迷宮攻略を成功させても、国境城壁が破られてたら……。そういった懸念が後退した事で、俺は心安らかにベッドに横になる事が出来た。


 作戦開始は、明日の早朝。日の出と共に出発だ。しばらくは訪れないであろう穏やかな睡眠を、噛みしめるように堪能するのだった……。



 そして、翌朝。日が昇り始め、俺たちは出発しようとしたのだが――


「ハイランドさん、ジゼルさん! 急ぎ通信機のところへ!」


 隊長が、血相を変えながら出発を遮った。こんな時にと思いながらも、俺たちは通信用魔具へと向かう。そして……唖然とする。


「こちら、黒森人(ダールヴ)怒王国第一軍司令部。通達する。神聖国『大鬼の巣窟』への突入を中止し、我が国の『小鬼の巣窟』への突入を敢行せよ」


 あまりにも唐突で、あまりにも身勝手。怒王国のギルドから情報を得たであろう軍の司令官らしき人は、一方的な要求を突き付けてきた。当然のように、ハイランドさんはこう答える。


「従えません。ギルドと国の関係は対等。命令される(いわ)れは存在しませんから」

「ならば、警告する。我々の敵に利するという事は、我々の敵となるという事。我々の怒りは、お前たちにも――」

「くどい! こちらはこちらの考えで動きます!」


 そう言って、通信を打ち切るハイランドさん。この言動は正しい処置であったにも関わらず、この一件は新たな火種を生み出す事になっていく。怒り狂う争乱へと続く、まるで前奏曲(プレリュード)のように……。

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