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争乱の神人  作者: 富井トミー
第13話 怒り狂う争乱の前奏曲
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067 sideC

 吹っ切れた様子のメリサンドを見送り、この魔獣(モンスター)の攻勢は切り抜けられると確信しました。ですが、あくまでこれは一時的。第二、第三の攻勢が来るであろう事は必至です。


 誰もがあえて言及していませんが、間違いなく言い切れる事があります。この大氾濫(オーバーフロー)は、”世界”とやらの意志だと……。ですから、今の攻勢はただの様子見。徐々に魔獣の質と量が増えていき、その背後にはキングのような存在が控えている事でしょう。更に言えば、”世界”の意志の真なる執行者……私たち神々的に言えば神人のような存在が、この大氾濫を引き起こしているのではと考えています。


 ゴブリンキングは言いました。”世界”の(しもべ)にして、意志の執行者だと。ですが、あの魔獣は加護を授かった程度の存在だと考えています。真の執行者は別にいて、その過程で生まれた超上位種に、多少の力……加護のようなものを与えているのだと思います。ゆえに、この一連の騒動を収めるために必要なのは、真の執行者を捕捉、撃退する事。そうしなければ、これ以降も大氾濫が起き続けるのだろうと考えられます。


 なので今、ハイランドを探して歩いています。救援軍の指揮を執り、多くの情報を持っているであろう人物。そんな彼と、情報のすり合わせをしておかねばならないのです。これ以上、主様を余計な事に巻き込まないために……。



 しばらくして、ハイランドが見つかりました。主様の活躍のお陰か、攻勢は勢いを失くしているようで、彼も指示出しに手一杯といった様子ではありません。これは、話をするチャンスだと考え、彼の足元で力一杯の鳴き声を上げます。


「ニャアァァァ!」

「……シロ様?」


 まあ、伝わらないでしょうね。ですが、こちらに視線は向きました。なので、ついてこいと、城壁の下へと続く階段へ向けて歩き、ついてきているかと確認して振り返ったのですが……。


「……?」


 伝わらない! 人語を発する事が出来ない以上、仕方がない事ではありますが……もどかしい。


 再度鳴き声を上げ、尻尾を手招きでもするように動かします。そこでやっと気付いたようで、ハイランドは隣にいたゴンツに声を掛けます。


「ゴンツ。しばらくの間、指揮の代行をお願いします」


 こうして、ついてきたハイランドを城壁下まで連れていき、人の気配がない事を確認した後、やっと人語を発しました。


「ハイランド、情報の共有がしたいにゃ」

「ええ。私も、シロ様の考えを伺いたいと思っていました」


 了承したのを確認し、私は考えを述べていきました。所々で同意する言葉が返ってきて、互いの考えがほぼ一致している事が確認できました。ですが、最後の最後だけは……きっぱりと否定の言葉が返ってきたのです。


「それは困ります。シルバ君は主力中の主力。これからも、最前線に立って頂きたい」


 主様をこれ以上巻き込みたくない。その言葉に対する返答は、予想通りのものでした。当然でしょうね。中ボスだと考えているキング格の魔獣であっても、S級相当。現状の冒険者ギルドでは、討伐が困難を極めます。その上、より上位存在が黒幕ともなれば……主様の力を頼りにするほかないでしょう。


 ですが、私とて……容易に退く訳にはいきません。主様を信じる者から得られる神力より、正体不明の敵と相対して消費する神力……これが上回る可能性が高いのです。主様は、まだ万全の状態ではありません。今は雌伏の時なのです!


「一介のE級冒険者でしかない主様を、どれだけ酷使するつもりにゃ?」

「それは……。ですが、本人……シルバ君もやる気を見せてくれています! 無理強いをしている訳ではありません!」

「それはそうにゃ。主様は……頼ってきた相手を無下にはしないにゃ。だからといって、全てを主様に背負わせるつもりにゃ?」


 返す言葉が見当たらないのか、ハイランドは黙り込んでしまいました。


 私とて分かっています。彼が悪い訳ではない事を。冒険者ギルドマスターとして、最善を尽くそうとしている事も。ですが、私とて最善を尽くそうと必死なのです。制約によって語る事も考える事すらも出来ない事情を乗り越え、主様が今一度、全てを取り戻した暁には……多くの問題に(かた)が付くのです。大争乱の時代にも、”世界”とやらの怒りにも……。


「貴方に正義があるように、私にも正義があります。……私の言葉、忘れないで下さいね。それが、全ての解決に繋がるのです」

「待って下さい、シロ様――」


 呼び止めるハイランドを無視し、私は城壁の上へと戻っていきました。


 果たして……約束ともいえない一方的な通告は、守られるのかどうか。きっと、破られるでしょう。それも、ハイランドの意志を無視した形で。ギルド上層部からの指示が下り、主様が自ら望む事によって……。そうなった場合、私はどうすればいいのでしょう。引きずってでも、主様を連れ去るべきでしょうか? ……無理でしょうね。黙って連れ去られてくれるほど、主様は物分かりが良くはありません。


「はぁ……」


 猫らしからぬため息を吐き、城壁上から戦場を眺めます。そして、目に入ったのは……主様が大活躍している姿。


「はぁ……」


 再びため息を吐いてしまいます。どれだけ主様の事を想って行動しても、当の本人があれでは……。ままならぬものです。



 その後、主様たちの活躍によって、第一陣と目される魔獣の群れは、夜を迎える前までにその(ことごと)くが掃討されました。城壁上では、守備兵たちが久々の睡眠や食事にありついており、救援の冒険者・魔術師が形ばかりの警戒を続けています。


 そんな中、私は主様に近付いていき、周囲の耳目が無い事を確認してから告げます。


「主様。これ以上の深入りは……やめて下さいにゃ」

「……えっ? 深入りってなんの事?」

「最前線で戦い続ける事ですにゃ。これ以降、魔獣の攻勢は強まるはずですにゃ。ですから――」

「なら、尚更頑張らなきゃでしょ!」


 言って聞いてくれるとは思っていません。より一層、やる気を滾らせるであろう事も……。ですが……。


「駄目ですにゃ! このような些事(さじ)、主様が頑張る必要ないのですにゃ!」

「シロ? これのどこが些事だって言うんだよ! 未曽有の危機だよ!」


 主様の言葉には、珍しく怒りに近い感情が含まれていました。新たな感情を取り戻した事を嬉しく思う反面、取り付く島もない事に落胆します。何故、主様を想う気持ちを理解してくれないのか、と。


 それでも、私は退きません。どれだけ主様に煙たがられたとしても、言い続けましょう。


「駄目なものは駄目ですにゃ! これは、主様の事を想っての忠言ですにゃ!」

「なら、余計にだよ! 俺は俺のために、この大氾濫を収束させたい! みんなを護りたいから、戦う!」

「ですが――」

「シロ! 俺の事を想っての言葉だってのは、心の色を視れば分かる。でもさ、それは聞き入れられない。……ごめん」


 私は……主様に謝らせたかったのではありません。その謝罪の言葉と下げられた頭は、どのような言葉よりも……私の心を(えぐ)りました。


 先ほど、私自身が言った言葉を思い出します。「貴方に正義があるように、私にも正義があります」と……。それは即ち、主様にも貫くべき正義があるという事。主様の気持ちを無視し、私の正義ばかりを主張した上、あろう事か……主様に下げる必要のない頭を下げさせる。主様を愛し敬う私としては、最低最悪の愚行だったと恥じ入るばかりです……。


 主様が求めているのは、争いの渦中を避けて生きていく事では無く、自身が傷付いたとしても……多くの人々を護って生きていく事。主様を一番に考えるならば、その想いを汲むしかないのでしょう……。ままならぬものですね。

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