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争乱の神人  作者: 富井トミー
第13話 怒り狂う争乱の前奏曲
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065 sideA

 城壁に到着した! 俺たちは馬車から飛び出し、城壁上に上る階段を駆け上がる。そして……目に入った光景に驚愕した。


 城壁上では戦闘が起こっていた。身軽なゴブリンが城壁をよじ登り、守備兵たちに襲い掛かっていたのだ!


「加勢します!」


 次々に現れるゴブリンを、次々に斬り捨てていく。十、二十と斬った頃には、他の冒険者も追いついてきていて、城壁上からゴブリンは一掃されたのだが……。


「おい、シルバ! どんどん登って来てやがる! 城壁に取り付いてるゴブを落とす事を優先しろ!」

「了解!」


 ディンガさんの指示を受け、城壁の(へり)に向かい、眼下へと視線を向けると……。


 城壁に沿うように、魔獣(モンスター)の群れがひしめき合っていた。城壁を登ろうとするゴブリン、魔術を放つゴブリンマジシャン、矢を射かけるゴブリンアーチャー、そして……城壁を殴り続けているオーガ。上位種らしき姿が見当たらないのがせめてもの救いだが、それでも状況はかなり悪い。なにより、ハイランドさんの読みが外れたのが……最も痛いところだった――


 ハイランドさんは、街道を遮る門へと魔獣が殺到していると予想していた。限定的ながら知性を持つ魔獣であれば、最も強度に劣る部分……門を集中的に狙ってくるだろう、と。しかし、現実は違っていた。長大な城壁の至る所からの攻撃。あまりにも無秩序に見えるが、こちらとしては……最も対処に困る攻撃方法だ。……こちらの人数は少なく、長く伸びる城壁全域に展開するには不足。一点に集中して攻撃をしてくれていれば、どれだけ楽だった事か……。


 これは、狙っての事だろうか? 中立国であるこの国の、国境守備軍の兵数が少ないと知って……飽和攻撃を仕掛けた? はたまた偶然か? 本能のままに攻め寄せた結果が、ちょうどこちらの弱点を突いただけなのか? ……どちらだったにせよ、やるべき事もやれる事も、今は一つか――


 城壁に取り付くゴブリンへと魔術を放っていく。とりあえず当たればいいと、威力の低い魔術を速く正確に連射する。魔術の威力で倒せなくとも、地面に落下衝突したダメージで、ゴブリンはマナとなって消えていく。場合によっては、落下地点に他のゴブリンがおり、それらを巻き込みながら絶命していくのだ。しかし……キリがない!


「ディンガ、俺……下に降りて戦う!」

「はっ? 直接斬り込むって事か?」

「そう! じゃないと、数が減る気がしない!」


 近接職の冒険者は、剣や槍で登りくるゴブリンを突き落としている。遠距離職の冒険者も、武器が弓に変わっただけで同様だ。そして、広範囲を殲滅出来るはずの魔術師も、本領を発揮できていない。それはひとえに、魔獣の攻め寄せ方が厄介だからだ。薄く横に伸びる形では、中級・上級魔術でも……一気に殲滅する事が出来ないのだ。結果、下級魔術による細々とした攻撃に終始してしまっている。


 これでは……戦線が崩壊する。攻め寄せる魔獣は、不眠不休で活動できるようだが……守るこちら側は、人間だ。食事に睡眠、排泄だって必要なのだが、それらが満足に行えていない。現に、守備兵の多くは……すでに限界が近い。魔獣が攻めてきてからの数日、まともに睡眠も取れず、まともな食事も摂れていないはずだ。だから、敵の早期殲滅が必要なのだ!


「ちょっと待て! 旦那に確認を――」

「待ってられないよ! 時間を掛ければ掛けるほど……こっちは追い込まれてく!」


 そう言うと、ディンガは周囲を確認してから、困ったように頭を掻いた。彼も気付いているはずだ。この状況では、拙速こそ尊ぶべきだと。それに、だ。俺なら……多少の無茶でもなんとかなるって。だから言う。


「俺たちは軍人じゃないじゃん? 上官の指示を待つんじゃなくて、現場で最善を判断するのが……冒険者だろ?」

「シルバ……お前。分かった、分かったよ! 好きに突っ込んでこい!」

「了解! じゃあ、行ってくる」


 俺は、身体強化(ブースト)を全開にして跳んだ。二階建ての建物の屋根より遥かに高い城壁から、魔獣の群がる地面へと。そして、着地の瞬間から剣を振り、魔術を放って戦闘を開始する。


 そんな、突然の俺の出現に、魔獣は俺へと群がり始めた。その動きは連鎖していき、城壁を攻めていた多くの魔獣も、俺のもとに殺到し始める。とても大きな包囲網が完成した頃、俺は戦闘の合間に叫ぶ。


「メリちゃん! 聞こえてたら返事して!」

「はいなのです!」


 城壁上から返事が返ってきた。これなら……いける!


「上級魔術の詠唱を始めて! 目標は、今俺がいるあたり!」

「えっ? それではシルバさんが危ないのです!」

「大丈夫! 上手い事離脱するから! だから、よろしく!」


 一瞬の間の後、メリちゃんがいるであろう場所に、マナが集まっていくのを感じた。きっと、詠唱を開始してくれたのだろう。ならば――


 大きく一薙ぎ。数匹のゴブリンとオーガを斬り飛ばし、若干のスペースを作る。そして、短い助走からジャンプ!


 流石の俺でも、分厚い包囲をひとっ飛びとはいかず、魔獣の頭を踏みつけながら数度、跳躍を繰り返し……離脱を完了する。そして、聞こえてきたメリちゃんの声。


「『無慈悲な暴風(サイクロン)』!」


 ぶわっと城壁上から吹き降ろした風が、俺のもとへも届いた。その直後、身を切り刻む容赦無い風の刃が、集まっていた魔獣へと襲い掛かった。


 千に届きそうだった魔獣は、一瞬にしてマナとなって消えていた。改めて、魔術が戦争に多用される理由を垣間見た気分だ。そして、このやり方なら……殲滅速度が上がる!


 そう確信した俺は、ある程度まで城壁に近付くように疾走し、跳んだ。そして、城壁上に着地。


「ただいま」


 狙った訳ではないけど、着地点周辺にいたメリちゃんたちパーティメンバーに、とりあえずの帰還の挨拶をした。ところが、返ってきた言葉は「おかえり」では無かった。


「シルバさん! 無茶が過ぎるのです!」

「そうだぜ! なんちゅう無謀な作戦だよ!」

「うむ。だが、見事な戦い振りだった。そして、城壁が意味を為さぬ跳躍力も……見事」


 ドーリスだけは褒めてくれたようだけど、他二人は若干お怒りのご様子。……でも、これを繰り返していけば、戦線崩壊も免れるはずだ。


「無茶でも無謀でも……やらなきゃでしょ? それで、メリちゃん。『無慈悲な暴風(サイクロン)』はまだ打てそう?」


 呆れ顔のディンガは放置して、メリちゃんへと顔を向けるが……。


「少し休憩が必要なのです……。やっぱり、上級魔術は消耗が激しいのです」


 メリちゃんは、極力表情には出さないように気を張っていたようだ。オドの消費が思った以上に大きいらしく、連発をさせる事は出来ない。これは困った……。


 この殲滅方法の肝は、囮役である俺と上級魔術を放つメリちゃん。どちらかが欠けては、成立しない。俺であれば、上級魔術の連発は可能だが……今度は、囮役を任せられる人がいなくなってしまう。囮役がいない状態で上級魔術を連発するのも手ではあるが、薄く伸びた魔獣の群れでは……一撃で数十匹程度が関の山。それに、連発出来ると言っても、無尽蔵に打てる自信は無い。きっと、どこかで限界が訪れるはずだ。


 さて、どうすべきか……。悩む俺に、ディンガは言う。


「なあ、この作戦……続けたいんだろ? だったら、『黒炎』を探せばいいじゃねぇか」

「ジゼルさん……? あっ、そうか! あの人も上級魔術を使えるって言ってたね」


 そうだった! 上級魔術はなにも、俺たちだけに与えられた力じゃない! かなり限定はされるけど、メリちゃんの代役はいる。その確実な候補が、ジゼルさんだ。


 俺たちは敵の攻勢が緩んだ区画を守備兵に任せ、ジゼルさんを探すために移動を開始するのだった。

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