表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
争乱の神人  作者: 富井トミー
第12話 現実へと昇華する不安
65/149

064 sideB

 メリは馬車に揺られながら……もどかしい気持ちを必死に抑え込んでいました。


 王都出発直前、ギルドの通信用魔具に届いた知らせは、「国境城壁、未だ健在。然れど、至急の来援を請う」というものだったそうです。城壁が抜かれていない事には安堵しつつも、国境守備軍が劣勢である事は明白で、今この瞬間にも戦線が崩壊してしまうのではないかと、焦る気持ちが膨らんでいっています。


 徒歩で向かうよりは確かに速い馬車ですが、国境までは二日から三日ほど掛かってしまいます。なので、まだ着かないのかと……落ち着きなく身体を揺らして、大層険しい表情を浮かべていたのだと思います。……シルバさんに心配されるほどに。


「メリちゃん。気持ちは分かるけど……今は、我慢だよ」

「は、はいなのです……。ですけど、この瞬間にも――」

「駄目だよ。それ以上言っちゃ。不安を口にしたら……現実になっちゃうって言うじゃん?」


 優しく諭されて、メリは口を(つぐ)みました。言霊という(まじな)い、(ある)いは(のろ)いがあるなんて話を聞いた事があります。学術的に解明されている話ではないにしても、経験則のようなものと考えると……確かに、不用意に口にしないのがいいように思います。


 なにより、シルバさんが伝えたいのは、「必死に戦ってくれている守備兵さんたちを信じてあげよう」って事なのだとも……。それなら、メリも信じてみようと思います。きっと、耐え抜いてくれるって。



 急ぐ行軍であっても、休憩は必須です。馬さんを速く走らせては休憩を挟み、また走らせる。その馬さんの休憩の時間に、ハイランド様やジゼル様から、小まめに追加情報がもたらされます。出発を早めるため、事前に伝えきれなかった様々な情報という事です。そして、先ほど共有された情報が――


「敵魔獣(モンスター)は、ゴブリンとオーガか……。たちが悪ぃな」

「うむ。数で押すゴブリン。質で圧倒するオーガ。厄介だ」


 ベテラン二人が、明らかに嫌な顔をして話し合っていました。ゴブリンが厄介なのは……以前の迷宮攻略(ダンジョンアタック)で理解しています。様々な変異種がおり、個々の弱さを数と多様性で補う。……なにより、見飽きるほどに見た魔獣なので、しばらくは見たくはない相手でしたが。


 ですが、オーガという魔獣は図鑑でしか知りません。確か……ゴブリンが小鬼と表現されるのに対して、オーガは大鬼と表現される魔獣で、基本種でもD級に分類される大型魔獣だとか。ただ、マジシャンなどの変異種は確認されておらず、個体数も少ないと書かれていました。


 ゴブリンを厄介と表現するのは分かりますが、オーガに対しても厄介と表現するのは何故なのでしょうか?


「オーガは、なにが嫌なのです? 個々の強さなのです?」


 メリの問い掛けに、ディンガさんとドーリスさんは互いの顔を見合わせて、少し困ったように言います。


「強ぇのは否定しねぇが……なんつうか、戦い辛いんだよな」

「然り。魔獣の知恵が実証された今だから言う。あれは、こちらの動きを読んで動く知恵がある」


 これまでは、魔獣に知性は無いと言われてきました。なので、なんとなくやり辛い相手程度の認識だったのでしょう。ですが、魔獣の知性が認められた今……ドーリスさんの見立てでは、オーガは高い知性を有しているという考えに至った。だから、厄介だと……。


「大きくて強い上に、狡賢(ずるがしこ)いって事なのです?」

「そうそう。こっちの連携を切ろうと動きやがるし、個体によっちゃあ武器まで持ってやがる」

「うむ。基本のオーガでそれだ。上位種になれば、更に厄介だろう」


 ゴブリンと同様の法則が働くなら、ハイやグレートと格が上がるにつれて、より強くより賢くなる事が予想されます。更に言えば……図鑑で見たハイオーガの級はC。グレートに至っては……A級です。単純なマナ量や戦闘能力で級別けが為される事を考えれば、高い知性を持ち合わせる以上、級相応とは言えないほどの強敵となります。これは……厄介です!


「でも、戦い慣れしてるベテラン冒険者さんたちなら……」

「いやな、この国の冒険者で戦い慣れてる奴は少ねぇ」

「オーガは、この国の迷宮(ダンジョン)には出現せぬ」

「あっ……」


 そうでした。メリが書物上の知識しか持ち合わせていない、それも……頭の片隅にある程度だったのは、それが理由です。王都近辺は勿論、中部にも南部にも……オーガが出現する迷宮は無いのです。なので、王国でしか活動していない冒険者からすれば……未知の敵。メリのように魔獣図鑑に目を通す冒険者は少ないでしょうし、オーガという名前すら理解していない人も多くいそうです。


「でも、ハイランドさんなら、その辺も上手い事やるんじゃない?」


 シルバさんがそう言うと、ディンガさんたちが微笑みを浮かべました。そして、こう返します。


「違ぇねぇな。旦那の事だから、次の休憩のタイミングで……”オーガへの必勝法”とか話してくれそうだぜ」

「然り。私たちは、ハイランド殿の指示通り動けば良い。それだけで充分」


 ディンガさんの言葉は、本気だったのか冗談だったのか分かりませんが……実際に、次の休憩ではオーガについての解説や対処法が共有されました。流石に必勝法とまでは言えませんが、不安を抱えていた人たちに自信を持たせるに充分な、適切かつ的確なものばかりでした。



 そして、王都を発って二日目。まだ目視で国境城壁は確認できませんが……空気が変わったのを感じました。より明確に言うならば、マナ濃度が上がったと言うべきでしょう。いよいよ戦いが近付いてきたのだと、馬車の中の空気まで重さと緊張感が漂い始めます。


 そんな中、今回もこのパーティのリーダーとなったディンガさんが、努めて明るく言い放ちます。


「今回の依頼(クエスト)は楽勝だな! だってよぉ、この前の大氾濫(オーバーフロー)と違って、大量に味方がいるんだぜ?」


 本心から言っている訳ではない。それはメリにも分かります。決して楽な依頼ではなく……多くの死者も出るんだと思います。沢山の味方と言っても、手の空いている冒険者と魔術師の全員が動員されている事から、下級冒険者も多く、実戦経験の浅い魔術師も多いのです。


 ですが……だからこそ、ディンガさんは言ったのだと思います。不安が現実になるように、期待や希望もまた……現実になると信じて。だから、メリは答えます。


「そうなのです! さくっと魔獣をやっつけて、さっさと王都に凱旋するのです!」


 そうなって欲しいと期待しながら、自身を奮い立たせるよう言いました。そんなメリの言葉に続くように、ドーリスさんやシルバさんも口を開きます。


「うむ。狩って、勝って、帰る。普段通りだ」

「そうだね! 守備軍の人たちも頑張ってくれてるだろうし、俺たち魔獣討伐のプロが合流するんだし……楽勝だよ!」


 重苦しい空気は払拭されました。不安材料が無くなった訳でも無いのに、とても不思議です。そんな心地よい高揚感に包まれながら、城壁が見えてくるであろう方角を見つめ続けるのでした。



 しばらくして、遂に目視で国境城壁が確認されました。幸いな事に、城壁のこちら側に魔獣の姿は見当たりません。……持ち堪えてくれたんだ。そう安堵したのも束の間、近付くにつれて大きくなっていく戦闘音。怒号のように飛び交う指揮官の声と、それに応じる兵たちの声も聞こえてきます。それらの激しさから、予断を許さない状況なのは疑いようもありません。なので、メリは催促しました。


「ディンガさん! 到着前に指示をお願いなのです!」

「ああ! 指示は単純。……全員、到着次第城壁上へ! 手当たり次第に魔獣を屠れ!」

「「「了解!」」」


 こうして、この後に世界規模へと広がっていく大事件の一幕に、メリやシルバさんも巻き込まれていくのでした。いえ……この時にはすでに、主要人物(メインキャスト)だったのでしょう。それに気づいていなかっただけで……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ