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争乱の神人  作者: 富井トミー
第12話 現実へと昇華する不安
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062 sideD

 なんの脈絡もなく謝られてしまいました。これ、なんなのでしょう?


 魔術師ギルドへと向かう馬車の中、(わたくし)は首を傾げております。メリサンドという森人(アールヴ)の少女の事は、シルバを狙う泥棒猫だと推測していましたので、出会いの時点で最悪の印象を与えたと思っています。その証明に、そこそこの暴言も頂きましたし、睨みつけられる事もしばしばありました。恥辱の加護を授かった(わたくし)としては、そのままでも別に構わない。そう思って、関係修復に動く事もありませんでした。


 しかし、ある時突然……この少女の態度が激変したのです。妙に話しかけてくる上に、(わたくし)を見定めようという真剣な表情。あまりの変化に、(わたくし)であっても引いてしまうほどでした。


 ですが、その変化に慣れてきて……気付くのです。この少女、かなりの逸材だと。問いは鋭く、速い。まるで、矢継ぎ早に精度の高い矢を放つ、熟練の弓士のような舌鋒。それでいて、聞くべき時には素直に耳を傾ける。……語尾の「なのです」さえなければ、すでに一角(ひとかど)の論客として通用しそうなものです。


 だからでしょう。語る必要のない事まで、(わたくし)の口から零れてしまったのは――


 (わたくし)は、お父様の名代として王都に滞在しております。ある程度の裁量権は与えられていますが、基本方針自体を覆すほどのものではありません。なので、王家と話をするにしても、行うべきは友好関係の構築や支援の表明のみ。争乱の予兆を伝え、王家に危機感を持たせるというのは、(わたくし)の判断では決められない事なのです。なにより、平和ボケした王家を動かせるほどの根拠を、(わたくし)は持ち合わせておりませんし……。


 それに、王都を防波堤と考えるのにも、お父様や(わたくし)なりの考えがあっての事。というよりも、そう考えるしかない事情があるとも申します。なぜならば、王都を中心とした北部の大多数は、我がキャンベル家の影響力の範囲外。我が領兵を駐留させるなど、出来ようはずもありません。ですので、争乱という大波を一時でも食い止めて頂く防波堤として、王都には抗戦の役割を。その間に、キャンベル家が諸侯をまとめ上げて、救援の軍を送る。これが、この国の体制での限界なのです。


 そして、ギルドからの人材引き抜き。これについては、当初……(わたくし)もお父様に真意を問い質しました。「何故そのような条件を」と。その時のお父様は、「先を見据えての事だよ」と言っておりました。正直、その時は理解出来ませんでしたが、今なら分かります。何故、経験豊富な中高年のみを引き抜くのかを……。


 お父様は戦の気配が近いとは考えつつも、それなりに猶予があると考えているのでしょう。なので、即戦力の人材を連れてくるのではなく、人材を育てられる人材を求めた。その考えを各ギルドの総本部へと伝え、利害が一致した、といったところでしょう。ギルド側からすれば、寄る年波で衰えたギルド員や職員を、実力主義のギルド内に残しておくのは不憫。ならば、貴族のもとでセカンドライフを、と――


 本当に……余分な事まで話してしまいました。(わたくし)の無力さに、この国の限界という欠陥。キャンベル家の長期戦略までも……。なので、それに対する謝罪だったのかもしれませんわね。貴族として、その意味を理解せずとも受け入れましょう。


 (わたくし)はいまいちよく分からないままに頷いて、謝罪を受け入れたのでした。



 そして、(わたくし)たち一行は、魔術師ギルドに到着しました。入り口をくぐると、ギルドマスターであるジゼル氏からの形ばかりの歓迎を受け、執務室へと案内されます。ジゼル氏の表情は取り繕った笑顔で、内心では歓迎されていない事が伝わってきます。……まあ、忙しいであろうタイミングで、護衛の供出を指示したのですから当然ですわね。


 あまり好意的ではない雰囲気の中、互いに簡単な自己紹介を終えると、同席する事を申し出た二人と一匹が、不安そうな声で話し合っているのが聞こえてきます。


「シルバさん、視察とは関係ないのですが……聞いちゃって大丈夫なのです?」

「大丈夫でしょ? だって、あの調査結果なら、レイナ様も興味があるだろうし……」

「そうですにゃ。結果次第では、南部でも警戒が必要なんですにゃ」


 なんの話でしょうと(わたくし)が首を傾げていると、ジゼル氏が困った様子で話し掛けてきます。


「ああ、それはですね……先日の大氾濫(オーバーフロー)についてですわ。つい先ほど、予定通りに調査隊が帰ってきましたの」

「調査? なんのためですの?」

「……事件か事故か、その他様々な調査ですわ」


 とても重大な案件のようです。要するに……何者かが起こしたのか、自然発生なのかという事でしょう。もし前者であれば、第二第三の類似事件が起こる可能性も……。そして、ジゼル氏の様子から察するに――


「何者かの手によるもの……だったのですわね?」

「……はい。大氾濫の原因となった落盤は、何者かによって引き起こされた可能性が高いと」


 (わたくし)はある程度予感していましたので平常心を保ちましたが、メリサンドは血相を変えてジゼル氏に訊ねます。


「そんな! 誰なのです? そんな馬鹿な事をしたのは!」

「落ち着いて、メリサンドさん。犯人は不明ですし、なにより”誰”なのかも不明です」

「どういう事なのです?」


 頭に血が上っているのか、メリサンドは大事な部分に気付いていません。ジゼル氏も言いました。何者かと。それは、人であるか魔獣(モンスター)であるかも分からないという事。


 ですが、ジゼル氏の中でもほぼ結論が出ているようで、不安を打ち消したいという願いを込めるように言います。


「魔獣がなにかの間違いで、迷宮(ダンジョン)を損壊させた。そういった可能性もゼロではないという事ですわ」

「でも、普通に考えれば……」

「ええ。人が起こした事件の線が濃厚ですわね……」


 この場にいる全員、その結論で間違いないだろうと考えているでしょう。そして、このまま終わるとも思えない事も……。


 不安という目に見えないものが、この場を支配した時でした。この部屋に置かれている通信用魔具から、突如として声が……それも、非常事態である事をありありと感じさせる、切迫したものが聞こえてきたのは……。


「ジゼルさん! こちら、ハイランド! 至急応答を!」


 ハイランド氏……明日、訪問するはずだった冒険者ギルドマスター。そんな彼が、ここまで慌てているという事は……並々ならぬ事態とみるべきでしょう。冒険者ギルド単独では対処しきれない……それほどの。


「はい! こちら、ジゼル! どうなさいましたの?」

「簡潔に伝えます。大氾濫が発生しました!」


 この場の全員が凍り付きました。何故、大氾濫が? シルバたちの活躍で、抑え込めたはずでは?


 言葉を失くした(わたくし)たちを捲し立てるように、ハイランド氏は更に続けます。


「発生地点は神聖国と怒王国の二か所! どちらも王国国境とほど近い洞窟型迷宮です!」


 シルバたちが対応した迷宮とは別の場所、それも隣国。ですが、国境付近という事は――


「こちら、レイナ・キャンベルですわ! 国境の城壁は抜かれましたの?」

「いえ、なんとか防いでいるらしいですが……時間の問題でしょう。国軍は動きが遅く、救援が間に合うかどうか……」


 これだから、この国の平和ボケたちは……。そう嘆いていても仕方がありません。(わたくし)は、通信先とこの場の二人のギルドマスターに申し出ます。


「冒険者も魔術師も、救援に向かわせますわね? でしたら、(わたくし)の護衛依頼は即座に中止して構いませんわ」

「レイナ様? その申し出は助かりますが、貴女の身に危険が……」

「そうですわ! 王都を出て南部へ向かうとしても、最低限の護衛は必要ですわ!」

「不要ですの。護衛人員にはあてがありますので」


 そう言ってから、(わたくし)はセバスを呼びつけました。そして、シルバ拉致部隊を呼び寄せなさいと伝えると、すでに参集済みですと返されたのでした。

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