061 sideB
メリは、レイナ様の判断が許せませんでした。その、あまりにも貴族的な判断が――
やる前から無駄と決めつけ、この国の偉い人への説得を諦める姿勢は……許せません。だって、王様や宰相様と話す事が出来る地位にあって、王様や宰相様に働きかけられる影響力を持っている……唯一に近いほど数少ない存在。それがレイナ様なんです。だったら、無駄だと決めつける前に、行動に移して欲しいのです! それによって、多くの人が救われる未来があるかもしれないんですから……。
それに、キャンベル家の領地を優先する考えも……許せません。だって、この王都を中心とした北部にも、多くの人が住んでいます。それを……防波堤? 領民ではない人の命は、ただの時間稼ぎでしかない。そう言っているようなものです。あまりにも身勝手! あまりにも冷酷! ……自分の生まれ育った南部を優先する気持ちは分かりますが、その他を切り捨てる判断は理解できませんし受け入れられません。
そして、王都のギルドから人材を引き抜くのも……許せません。そもそも、冒険者ギルドは貴族と距離を置く組織。そこから人材を引っ張ろうとは、烏滸がましいにもほどがあります。そして、魔術師ギルド。ここに所属する魔術師のみんなは、メリが考える王都防衛の要。大挙すると考えている敵の大船団を撃退する、必要不可欠の戦力なんです! だから、引き抜かれては困ります――
なので、仲良くするつもりは毛頭ありません。仲良くできるとも到底思えません。それぐらい、メリの考え方とは隔たりがあると思います。そんな心中を見透かしてなのか、シロ様は心配してくれているようですが……この問題は、メリ自身が解決すべき事。シルバさんにも、シロ様にも、レイナ様にも……それぞれの考えや想いがあり、そのそれぞれとどう折り合いをつけていくのか。これは、メリにしか決められない事なんですから……。
その翌日から、レイナ様はギルドへの訪問を始めました。手始めに訪れたのは、商人ギルド。ギラギラと輝く外観は、豪華ではあるのですが嫌味ったらしさを感じます。そんな外観からも想像できたように、内部に入ると……成金趣味全開です。実際は歴史も功績もあるギルドなので、成金という訳ではありません。高価な物品で飾り立てるのも、メリには理解できない心理が働いての事だと思います。ですが……。
「気色悪いのです……」
言わずにはいられませんでした。せめてもの配慮……というか遠慮によって、呟く程度の声量ではありましたが。ですが、隣にいたディンガさんには聞こえてしまったようで、苦笑しながら言葉を掛けられます。
「森人のメリサンドにゃあ、わかんねぇもんかねぇ」
「ディンガさん? この無駄な豪華さと森人、関係あるのです?」
つい無駄と言ってしまいましたが、ディンガさんは特に咎める様子もありません。ですが、より苦笑を深くした顔で言いました。
「あるな。だってよお、この名品の数々が理解できねぇなんて……森の外の事、なんも知らねぇって事だろ?」
「むっ! 馬鹿にしないでなのです! 名品というか高そうって事は、メリにだって分かるのです」
「そうかいそうかい。だがよぉ、一つ一つの品は……職人が丹精込めて作り上げた名品ばかり。それを、気色悪いの一言だろ?」
……そうでした。メリは上っ面しか見ていませんでした。金に物を言わせて集めた品々を、財力を誇示するように見せつける。だから、気色悪い、と……。一つ一つの品をつぶさに観察する訳でも無く、遠目で眺めた感想だけで決めつけていました。それでは、なにも理解できないのも当然です。というか、作った職人さんに失礼ですらあります。
「そ、それは……ごめんなさいなのです。魔術師ギルドのエントランスと比べて、あまりにもギラギラしてたので、つい……」
ここと魔術師ギルドのエントランスは、どちらも気合が入った造りになっています。主に、金銭的な意味で。ただ、方向性が全く違うのです。
ここは、とにかく豪華。キラキラピカピカで……気が休まりません。一方の魔術師ギルドは、整った美しさ。落着きがある高級感なのです。なので、より顕著に、卑しいとか汚らわしいと感じての発言でした。
ただ、ディンガさんは魔術師ギルドと縁が無いようで、いまいちピンときていない様子。
「俺はあのギルドの事はよく知らねぇ。それに、謝罪されたくて言った訳でもねぇしな」
「え? 小人は職人気質だって聞いていたので、メリが馬鹿にしたのが許せなかったんじゃないのです?」
「違ぇよ。物を見てどう感じるかなんてのは、個々人の自由。それを咎めるつもりはねぇよ」
「じゃあ、なんでなのです?」
小人は細工師、土人は鍛冶師。職人の多い種族なだけに、”良いものは良く悪いものは悪い”とはっきりさせたいと聞いています。ですから、機嫌を損ねての苦言だと思い込んでいました。ですが、違ったようです。なので……尚更分かりません。ディンガさんが伝えたい事が。
首を傾げるメリに、ディンガさんは微笑みながら言います。あまりにも当たり前ですが、今のメリには必要な事を……。
「決めつけんなって事だ。これは、冒険者としても必須だぜ? あえて視界を狭めるなんて、どんだけ腕がいい奴でも……死ぬぞ」
最後の部分だけは、微笑みも消え失せ……忠告というよりも警告に聞こえました。とても真剣な眼差しでした。
そして、メリは考えました。生き死にという重いテーマではなく、人との関わり方についてです。というか、現在商人ギルドマスターと面会をしている、メリとどこまでも考えが合わないあの人……レイナ様について、です――
やる前から決めつけてと、勝手に決めつけているのはメリのほう。レイナ様から聞いた訳ではないのに、憶測と勘繰りで決めつけたのもメリのほう。そして、仲良くなれそうもないと決めつけ、真意を伺う事を放棄したのもメリのほう……。
ここに飾られている品々も、近くで見てみると……とても洗練された技術の結晶体である事が分かります。しっかり見て聞いて触って……知ったからこそ理解出来る。それって、レイナ様との関係にも言える事だと思います。知る前から距離を取っていては、いつまで経っても嫌いなままでしょう。……まあ、知った事がきっかけで、より仲が悪くなるって事もあるでしょうけど――
なので、メリは決めました。レイナ様と話してみようと。その機会は豊富にあります。馬車での移動中は、レイナ様と同乗させてもらっていますしね!
その後、ギルドマスターとの面会を終えたレイナ様は、商業ギルド内を視察しました。時折、職員やギルド員に話しかけては、勧誘活動も忘れていない様子。てっきり、戦闘要員だけを集めるものだと思っていましたが、それだけではないようです。……嫌って目を背けていたら、こんな事にも気付かなかったと思います。メリは……まだまだ未熟ですね。
丸一日掛けて、商業ギルドの視察兼勧誘を終えました。そして、次の日には職人ギルド。そのまた次の日には医薬師ギルド……と、精力的に各ギルドへと赴きます。なので、移動中の時間は、積極的にレイナ様と言葉を交わしました。どのような考えや想いを抱き、どこを目指しているのか。メリの考えと共存は可能なのか。それらを、それとなく聞き出していくのでした。
そして、レイナ様の王都滞在期限が迫ってきた頃、ついにメリのホームグラウンドである魔術師ギルドへの訪問の番がやってきました。そんな場所へ向かう最中、メリは唐突に伝えました。
「レイナ様、ごめんなさいなのです。メリが浅はかでした……」
きょとんとするレイナ様は、曖昧な頷きを返してくるだけでした。




