表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
争乱の神人  作者: 富井トミー
第11話 王都に咲く恥辱の名花
58/149

057 sideD

 数年ぶりに来た王都は、残念ながら我が領都メティカよりも一歩先を行っておりました。交易の中心地として整えられた町割り、そこを行き交う人々の活気……。貴族としての仕事をこなし、様々な知識と経験を積んだ今だからこそ、素直に敗北を認められます。いえ、敗北を認める事による恥辱を、(わたくし)は求めてしまっているのかもしれません。……(わたくし)も、随分変わってしまったものですわね。


 (わたくし)がそう考えて苦笑すると、微笑むように見つめているシルバと視線が交錯しました。


「シルバ、言わなくても分かっているわ。(わたくし)が変わったと思っているのでしょう?」


 シルバが仕えていた頃の(わたくし)なら、メティカが劣っているなどと認める事はなかったでしょう。意地でも、王都に勝る部分を探していたはずです。だから、(わたくし)は問い掛けたのです。ですが、返ってきた言葉は、思ってもいない言葉でした。


「いえ、変わらないなぁって思っちゃいましたよ。しっかり貴族をしてるんだな、と……」


 正直、シルバの言いたい事が理解できませんでした。(わたくし)自身、貴族であろうとはしていますが、先ほどの呟きに貴族らしさは無かった。(わたくし)としては、そう思うのです。なぜならば、貴族とは至高なる者。その所有物に至るまで、一番でありたいと願うものです。なので、敗北宣言をするなんて……キャンベル家の人間として失格だと思うのです。


「何故、そう思うのかしら?」

「えっ? だって……王都の良い所を観察して、メティカにも取り入れようって考えてますよね?」

「えぇ……まぁ、そうですけど」

「それって、立派な貴族的な見方だと思いますよ。あの頃も、文句は言いつつも……公務には真剣だったレイナ様らしいですよ」


 そう言われて、(わたくし)は驚きました。てっきり、シルバは(わたくし)の事など眼中に無かったのだと思っていましたが、そこまで見抜かれていたとは……。


 (わたくし)は、一番という言葉を大切にしています。一番の美女、一番の血統、そして……一番の貴族。そうなる事、そうである事を望み、実現や実践しております。それが、大貴族キャンベル家の一人娘である(わたくし)の、矜持であり責務だからです。なので、貴族としての仕事に手は抜きません。視察(家出)だって、領内の生の声や生活を知るために行っておりました。少しだけ……羽を伸ばす意味もあった事は認めますが。


 だからでしょうか。(わたくし)は、(わたくし)が思っていた以上に追い詰められていたとも思います。高い理想を追い求める内に、(わたくし)は高慢になっていました。弱いところを見せないために虚勢を張り、他者を褒める事より貶す事を選ぶ。そうする事で、(わたくし)(わたくし)の心を守り、同時に……隠していたのです。優雅であろうともがき続ける、泥臭い(わたくし)の心を……。


 そんな心を、あろう事か……一番知られたくない相手に知られていたとは。恥ずかしさと、それによって(もたら)される加護の力の流入に、身震いを必死に抑えながら言います。


「シルバ。真剣なんていう、優雅と対極に位置する言葉……(わたくし)とは無縁ですわ」

「そうやって意地を張るところも、変わっていませんね」


 (わたくし)は、(わたくし)が思っている以上に変わってはいないのかもしれません。そして、不思議とそう思わされてしまうシルバに対しては、より一層の恋慕の情が湧いてくるのでした。



 ほどなくして、馬車はキャンベル家の王都別邸へと到着しました。(わたくし)やお父様が王都を訪れる事は稀なのにも関わらず、手入れを怠っていないのがよく分かるほどに整えられております。邸内は塵一つないほどに磨き上げられ、メティカの屋敷にも引けを取らないでしょう。そんな、素晴らしい仕事を行っている使用人たちが、(わたくし)の到着に合わせて勢揃いし、見事な所作での出迎えをしております。


「皆、ご苦労様。これから一週間少々、ここに滞在します。(わたくし)や護衛の皆様に不便が無いよう、しっかり励みなさい」


 最低限の労いと、これ以上を求める激励。もし、ここにいるのが(わたくし)だけであれば、素晴らしい仕事への労いへの分量が多かった事でしょう。ですが、護衛の冒険者や魔術師たちがいる手前、貴族の威厳を見せなければなりません。貴族らしく在るというのは、こういった細かな事の積み重ねでもあるのです。敬意を集め、それを維持する。そのためには、妥協があってはいけないという事ですわ!


 そして、効果は絶大だったようです。シルバを除く護衛の皆様は、すっかり萎縮している様子。キャンベル家の威光は、彼らがしっかりと語り広げてくれる事でしょう。ですが、萎縮してばかりいられても困ります。邸内に忍び込む賊はいないでしょうが、護衛の任は全うして頂かなければなりません。なので……そういった事は、セバスに丸投げしてしまいましょう。


「セバス、護衛の皆様に指示を。(わたくし)は長旅で疲れてしまったので、後の事は任せますわ」


 そう言って、(わたくし)は自室へと引きこもりました。疲れたというのは嘘ではありませんが、これから為すべき事が詰まっているというのが現実。華やかに見せながら、自室で行う事は地味な物ばかりなのです。


 王都滞在中の行動計画を頭に叩き込み、対面するであろう人物の情報をおさらいする。そういった情報を押さえておかねば、貴族の世界では足を掬われてしまいます。特に王家との面会では、穏やかな雰囲気の裏で、激しくやり合う事になると思われます。(わたくし)の発言一つが、キャンベル家を窮地に陥らせる事に繋がるかもしれません。なので、徹底的に準備するのです。……シルバを連れ戻すのが目的とはいえ、貴族の責務を果たさない訳にはいきませんから。



 翌日、(わたくし)を乗せた馬車は、王城へ向けてゆっくり走っていました。昨日の今日であっても、(わたくし)の到着は噂として広まっていたらしく、多くの民衆が見物に訪れています。そんな、道の両脇で手を振る者たちに、時折優雅に手を振り返したりしていると、シルバは興奮気味に言います。


「やっぱり凄いですね! これだけの人が、レイナ様見たさに集まるなんて!」

「あら? (わたくし)と結婚して、神人であると公表すれば……シルバも手を振られる側になりますわよ?」

「えっ……それは、遠慮させて頂きます」


 王都滞在の期間は、とても短い。なので、どんどん押していこうと思っております。ですが、薄々感じてもいます。……どれだけアピールしようとも、シルバの心を掴む事は出来ないだろうと。昔の(わたくし)なら、頑なに認めなかったでしょう。なにがなんでも手に入れようと、躍起にもなっていたでしょう。そして、力尽くでも連れ帰った事でしょう。


「では、無理やりにでも連れ戻す事に致しますわ」

「レイナ様? 言葉に気持ちがこもっていませんよ」


 シルバが指摘するように、(わたくし)はそれを実行しようとは思えませんでした。シルバへと寄せる恋慕の情は深まっていると思うのに、です。キャンベル家の繁栄を考えても、シルバを手に入れるのが最良手なのに、です。あれだけ意気込んで、領地から遠く離れたここまで足を運んだのに、です……。


「そんな事ありませんわ! 絶対に、貴方を連れ戻します!」


 そう言葉にしてみても、(わたくし)は踏ん切りがつかぬままでした。実は……お父様が手を回してくれているのです。無理やりにでもシルバを連れ帰る算段を。それに、恥辱の神シェイム様も望んでいるはず。理由は知りませんが、シルバの身柄を確保する事を。神の意を得ており、手段まで持ち合わせていても……何故か、決断出来ずにいるのです。(わたくし)(わたくし)の心が分かりません。あれだけ欲しいと願っていたはずなのに……。


 悶々とする心を振り払えぬまま、馬車は王城へと到着していました。そんな胸中であっても、(わたくし)は優雅な貴族の仮面を被る事を忘れないのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ