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争乱の神人  作者: 富井トミー
第10話 楽観が招く再会
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053 sideA

「シルバさん、申し訳ないけれど……総本部からの命令ですの。黙って受諾して下さらないかしら?」

「冒険者ギルドも同様です。王国本部を飛び越え、総本部と話がついているようなのですよ……」


 要するに、ギルドマスターより偉い人たちからの命令という事らしい。よって、断るというのは……俺だけでなく、ハイランドさんやジゼルさんにも累が及ぶ。なので、引き受けると答えようとした時だった――


「納得出来ないのです! 依頼を受けるかどうかはメリたちの自由なはずなのです! それに、活性化への対処を後回しにするほどの用件じゃないのです!」


 これまで、声を荒げる事が無かったメリちゃんが、素直に怒りの声を上げていた。これには、俺だけじゃなくハイランドさんも、驚いた表情を浮かべている。通信用魔具を挟んでいるから確証は無いけど、きっとジゼルさんも驚いている事だろう。そんな、誰もが言葉を失っている事をいいことに、メリちゃんの怒りの声はなおも続く。


「なんのために騎士様がいるのです? 魔術師も冒険者も、貴族様のお()りをするのが仕事ではないのです!」


 俺もそう思うし、ハイランドさんやジゼルさんも思っている事だろう。二人の言葉を借りるなら、馬鹿馬鹿しい依頼(クエスト)だ。だけど、メリちゃん以外の誰もが理解している事がある。それは、正論が常に正しい訳では無いという事を……。


 国は勿論、キャンベル家やその他の貴族であっても、それぞれに騎士団や軍隊を持っている。軍を護衛に使うのは向いていないかもしれないけど、騎士というのは要人警護向きの人員だ。だから、ギルドに護衛依頼を出すよりも、自前の騎士団に護衛を任せれば事足りる。そんな事は……みんな分かっている。でも、ギルドの上層部からの命令があり、貴族という特権階級からの願いがある。だから、誰もがノーと言えずにいるのだ。


「メリちゃん、みんな同じ事を考えているよ。でもね、ここで断ってしまえば……ハイランドさんたちが困っちゃうんだよ」

「それは……そうなのです。でも! お気楽な貴族様を護るより、多くの人を護る選択をしたいのです!」


 やっぱりと言うべきか、メリちゃんの心の奥底には……貴族に対する不信がある。レイナ様へ興味を持ってみたり、口では貴族を恨んでいないと言っているけど、実際は違う。ご先祖様から受け継いだ森を捨てさせたのは貴族の思惑であり、そう簡単に許せるような事じゃない。それに、俺が許してあげてと言えるような問題でもない。今回の依頼だって、レイナ様絡みという事は……俺が問題の発端な訳だし、メリちゃんはまたしても巻き込まれた被害者。ハイランドさんやジゼルさんについても、だ。


「ハイランドさんとジゼルさん。今回の依頼、メリちゃんを外すというのは……可能ですか? その分、俺が頑張りますから!」


 罪滅ぼしとは言わないけど、せめてメリちゃんだけは……。そんな俺の想いも、ハイランドさんの険しい表情から難しいのだと悟る。そして、無情な宣告。


「いえ、メリサンド君も必須です。先方のご指名は、大氾濫(オーバーフロー)を防いだ英雄たちとの事なので……」

「ええ。『小鬼の巣窟』で戦った者たちで固めろとの指示ですわ。マナ散らし組は、やっと帰ってきたばかりですのに……」


 俺を名指しで指名しないあたり、なお厄介だ。このようなやり方という事は、直情的なレイナ様じゃなくて、計算高い領主様が段取りを整えたのだろう。という事は、レイナ様が暴走した「薬物混入既成事実捏造未遂事件」とは違い、逃げ道も丁寧に潰してくれてある事だろう……。なら、引き受ける以外の道は無いじゃないか……。


「メリちゃん、ごめんけど……付き合ってくれない? それに、ハイランドさんたちが忙しいのって……?」

「ええ、お察しの通り。くだらない依頼に回される冒険者の穴埋めのため、他のギルド支部へと応援要請を行っております」

「こっちも似たようなものよ。普段、研究班専従の魔術師に、迷宮(ダンジョン)関係の仕事を割り振る算段をしていますわ」


 ハイランドさんもジゼルさんも、出来うる限りの事はしてくれている。王都周辺に住む人たちの安全を守るために。だから、それを信じて任せるしかない。


 メリちゃんは……納得はしないまでも理解したようで、本当に渋々といった様子だけど頷いてくれた。そして、あっという間に依頼受注処理が行われ、俺たちを含む護衛団は出発させられたのだった……。



 護衛団だというのに、俺・メリちゃん・ディンガ・ドーリスの四人には、専用の馬車が用意されての移動だった。護る側ではなく、護られる側の扱いだ。そんな扱いだからか、早くもメリちゃんの怒りが再燃していた。


「なんでメリたちは、こんな待遇で護衛に向かうのです! おかしいのです!」


 ディンガとドーリスは、そんなメリちゃんの様子に苦笑しながら答える。


「まあ、いいじゃねぇか。俺たちは、S級魔獣を倒したパーティって事になってんだから。実際は、シルバ一人のお手柄に近いがな」

「悪い環境よりは良い。だが、むず痒いのは否定せん」


 流石はベテラン冒険者だと思ってしまう。明らかにおかしな状況であっても、すぐさま適応しようとする(したた)かさは見習うべきなのだろう。だが、この状況を不審には思っているようで、ディンガは俺とメリちゃんを交互に見遣りながら問い掛けてくる。


「で、どっち絡みの案件だ?」


 再び、流石はベテランだと思ってしまう。俺は挙手して原因であると名乗り出て、レイナ様との関係を白状していった。流石にレイナ様の尊厳もあるため、薬を使った夜這いの部分だけは伏せてだけど……。すると、ディンガは腹を抱えて笑いながら言う。


「ガハハハッ! 痴情のもつれってやつかよ! モテる男は違うねぇ」

「ちょ、ディンガ! そこまでドロドロしてないって! ……してないよね?」


 言っていて自信が無くなる。あながち、ディンガの言葉も間違っていない気さえしてくる。レイナ様からの行き過ぎた好意に、キャンベル家としての思惑。様々な事情が絡み合っている以上、ドロドロしてるのは否定できないのかもしれない。それに、レイナ様がどのような思惑で以って王都に来るのかが謎であり、俺がどう対応すべきか分からないというのも困った事だ。そもそも、俺との結婚が目的のままなのだろうか。負神からの刺客として送り込まれ、俺の命を狙っているという可能性も充分に考えられる。


 とにかく、だ。レイナ様の突飛な行動は、仕えていた当時から予想出来ないものばかりだった。なら、なるようにしかならない! 俺は考える事を放棄したのだった。



 俺たち一行は、指示された地点に到着していた。そこは、北部と中部を区切る、街道上の簡易な関所。ここで、護衛の引継ぎが行われる手筈になっている。


「ここまで騎士が護衛するなら、王都までそのまま向かえばいいのです!」


 まったくもってその通りである。そうしてくれれば、俺たちは今頃迷宮調査に赴いていたはずだ。そんな事を考えていると、キャンベル家の無駄に豪勢な馬車と、その周囲を堅く守る騎士の姿が見えてくる。そして、俺たちが出迎えるように待ち構えている前で停車し、馬車の扉が開け放たれた。そこから姿を現したのは、当然だがよく知った顔だった。


「冒険者と魔術師の皆様、出迎えご苦労ですわ。そして、しばらくの間の……」


 レイナ様の視線が俺を捉えた。そして、演説のようだった話は中断され、レイナ様が俺のもとへと走り寄ってくる。俺が身構えると、なんの邪心も感じない白い心で俺に飛びついてきていた。……そんな訳で、俺の楽観が招いてしまったであろう再会は果たされた。いや、果たされてしまった……。

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