052 sideA
「みなし級ってなんですか?」
言葉通りに受け取るのなら、E級だけどそれ以上の級として扱われるって事だろう。ただ……なんのために?
「言葉通りですよ。貴方方は、D級待遇で扱われます。昇級条件を満たすまでの間、ずっとです」
「昇級条件……?」
「はい。中級であるD級に上がるためには、避けては通れない条件が存在します」
俺たちはその条件をクリアしていない。だから、みなし級という特例を認めさせた、という事らしい。きっと、D級以上限定の依頼を受注できるようにという考えがあるのだろう。ただ、その条件というのはなんなのだろうか?
「不都合がなければ、D級への昇級条件を聞いてもいいでしょうか?」
「不都合もなにも、本来であればE級に昇級した段階で説明する内容。当然、伝えさせてもらいますよ」
「俺たちが、早くに功績を上げすぎたんですね……」
俺がそう言うと、ハイランドさんが苦笑した。なかなか無い事だろうし、ハイランドさんとしても苦慮したんだろう。
「そういう事です。では、条件を伝えます。それは……対人戦経験。当然ですが、依頼として受けた上での、です」
「ああ、だから俺に加減の訓練を?」
「そうです。シルバ君なら、早々に昇級すると考えていましたから。……若干、早過ぎはしましたが」
困ったように、だけど嬉しそうにも見える風に、ハイランドさんは言った。なので、俺はこう返した。
「色々と手間をかけてすいません。じゃあ、俺とメリちゃんが次に受けるべき依頼は、野盗の取り締まりあたりですか?」
「いえ、申し訳ないのですが……先にこなしてもらいたいお願いがあるのです」
「えっ? もしかして、以前にお願いされた事の延長ですか?」
迷宮関係の依頼を優先して欲しい。「小鬼の巣窟」へ向かう前に伝えられた、ハイランドさんのお願い事。その時は、魔獣活性化の予兆の段階だった。だけど、今は……。
「ええ。神聖国と怒王国の戦いが始まっているので、活性化はしばらく続くはずです。なので、引き続きそちらをお願いしたい」
「俺は構いませんが、メリちゃんは?」
「メリもそれでいいのです。というか、そっちのほうがいいのです!」
聞く前から分かってはいたけど、メリちゃんは正式な昇級よりも明確な脅威を取り除く事を優先した。そんな反応に、ハイランドさんは微笑みながら件の言葉を口にした。
「やはり、信頼できる冒険者である貴方方には、少しでも多くの迷宮を調査して欲しい。冒険者の本質を忘れていない、貴方方に……」
ハイランドさんの言う冒険者の本質というのを、俺は分かってはいない。ただ、俺もメリちゃんも願いは一つだ。多くの人が安全に暮らして欲しい。だから、ハイランドさんのお願い事は、俺たちの願う事と重なっている。ゆえに、引き受けた。たったそれだけの事なんだけど……ハイランドさんが嬉しそうだから、まあいっか。
その後、ディンガたちも別口で動いている事を聞かされ、俺たちにも向かって欲しい迷宮が提示された。そして、今に至るという訳だ――
大した距離でもなかったため、馬車は王都へと到着していた。ギルド門を通る際、守衛を務める職員に冒険者タグを提示すると、驚いたような表情で見つめられる。どうやら、俺やメリちゃんの噂は、ずいぶん広がっているようだ。特例扱いのE級冒険者、推定S級魔獣の討伐者など……色々な噂が流れているとは聞いていたけど、毎度毎度驚かれるのは勘弁して欲しいところだ。
実際、依頼へと向かう時も似たような反応をされた。「大猪の森林」の詰め所の職員にもだ。もっと言うと、この依頼は提示された二件目の依頼で、一件目の時も同様の反応ばかりだった。……実を言うと、俺は残念に思っている。この驚きを納得に、実力を疑われるのではなく信頼に。それが出来ていない俺自身に……だけど。だから、みんなの心が白くなるよう、俺ももっと頑張らないといけないんだとも思う。
そう心に刻んだ俺は、今回の依頼の報告のために冒険者ギルド前で馬車を降りる。そして、ギルドの受付でキサラさんへと報告を行うと……。
「今回もお疲れさまでした。それと、またマスターがお呼びです」
「またですか? 用件は……聞いてないですよね?」
「申し訳ありませんが、聞かされておりません……」
困り顔のキサラさんから目を離し、メリちゃんへと視線を向ける。しかし、返ってくるのは分からないという首振りのみ。当然、俺にも呼び出しの心当たりは無い。提示された迷宮調査依頼は三か所であり、今は二か所目を終えたところ。全てが完了したタイミングでも無く、だからといって失敗をした訳でも無い。本当に思い当たる節がないため、少し警戒しながらギルドマスターの部屋へと向かった。そして、少し後に……警戒していたのが正しかったと知る事になる。
入室すると、見慣れぬ魔具の存在が目についた。見慣れぬと思うほどにこの部屋に来ているのかと思いつつ、俺は早速ハイランドさんに尋ねる。
「その魔具は?」
「これは、通信用の魔具。容易に持ち運べないサイズという事以外は、大変便利な代物です。その分、お高いですが……」
三大ギルドのギルドマスターが高いというのだから、相当なお値段なんだろう。一体いくらするのかが気になるけど、そんな話をしに来た訳ではない。なにより、ハイランドさんの執務机には書類の山が出来上がっており、忙しい合間を縫ってでも伝えなければいけない用件があると察せられる。なので、手短に問う。
「用件は?」
「この忙しさの原因からの要望が届いたんですよ。それも……冒険者と魔術師のギルド宛てに。なので、ジゼルさんにも通信を繋げますね」
忙しさの原因? それに、二つのギルドへ要望? よく分からないので、通信先と繋がるのを待つ。しばらくするとジゼルさんの声が聞こえてきて、あちらも辟易している様子が伝わってくる。
「ハイランドさん? こちらジゼルですわ。お互い、余計な仕事を押し付けられたものですわね……」
「ええ、本当に……。それで、シルバ君とメリサンド君が到着したので、話を進めませんか?」
互いのギルドハウスは隣あっている訳ではないが、数軒先という近距離。わざわざ高価な通信用魔具を使うまでもない距離である。……それほど忙しく、行き来する時間も勿体ないという事だろう。それほどの仕事という事で、俺とメリちゃんは思わず身構える。
「そうですわね。馬鹿馬鹿しいので、用件だけ先に伝えますわ。二人には、とある貴族の護衛依頼を受けて欲しいのです」
「馬鹿馬鹿しいとは……まったくその通り。ですが、この依頼は正式なものであり、冒険者・魔術師両ギルド連名のものでもあります」
とある貴族と聞いて、とある貴族のご令嬢の顔が思い浮かんだ。そして、まさかと思考を振り払おうとするけど、振り払えない。ならばと、俺は問いかける。
「まさかとは思いますが……キャンベル家のレイナ様ではありませんよね?」
その言葉に、ハイランドさんは感心したような表情を浮かべ、通信用魔具からは望んでいない言葉が返ってきた。
「あら? すでにご存じだったのかしら? その通りよ」
「貴方方は優秀ですね。不思議な事に、キャンベル家のご令嬢が王都へ向かっていると、市井では噂が出回り始めていますからね」
それを聞いて、俺はメリちゃんとシロに視線を送る。そして、そのどちらからも、やっぱりと言いたげな視線が返ってきた。そんな意図は無いのかもしれないけど、俺を責めているようにすら感じる。……自ら蒔いてしまった種だ。ここはきっちり断って――
「その依頼、断らせて……」
「「あげられません!」」
二人のギルドマスターから断る事を断られた俺は、項垂れるしかなかったのだった……。




