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争乱の神人  作者: 富井トミー
第10話 楽観が招く再会
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051 sideA

 俺とメリちゃんは、王都近郊のE級迷宮(ダンジョン)「大猪の森林」に来ていた。出現魔獣(モンスター)は、E級魔獣マッドボアがほとんど。二人パーティであっても、苦戦するような事は無い相手だ。そんな迷宮で、俺たちは魔獣の間引きもそこそこに、とある目的のために迷宮内を探索している。


 その目的とは、魔獣の活性化の調査。「小鬼の巣窟」の時と同様の依頼(クエスト)だ。でも、あの時とは色々違う。まずは、ディンガとドーリスがいない事。彼らは彼らで、別の迷宮へと調査に向かっている。とは言っても、俺たちも彼らも、ハイランドさんからのお願いを聞き入れての事だ。曰く、信頼できる冒険者である貴方方(あなたがた)には少しでも多くの迷宮を調査して欲しい、との事。だから、別行動。


 そして、魔獣の質と量も全然違う。元々、群れを形成しないマッドボアが主要な敵という事もあるが、大規模な敵集団と会敵する機会はゼロ。変異種や上位種が混ざる事もない。とは言っても、これが普通の迷宮攻略(ダンジョンアタック)。「小鬼の巣窟」が異常だっただけなのだ。……それもそうか。毎回、あんな命懸けの戦いをしていては、冒険者を続ける人なんていなくなってしまう。だからこそ、俺たちの調査が重要だとも思う。あんな異常事態にまで進展させないよう、早期発見、迅速対処だ。


 最後にもう一つ。この迷宮や依頼とは直接関係は無いのだけど――


「シルバさん! 猪さんがそっちに向かったのです!」


 少し考え事をしていたせいで、索敵や初動が後手に回ってしまったようだ。でも、大丈夫。俺は剣を一振りし、マッドボアを切り伏せた。そんな俺に、メリちゃんが再び声を掛けてくる。


「流石、E級冒険者は違うのです」

「メリちゃんこそ、E級に相応しい反応と声掛けだったね」


 そう。俺たちは昇級した。F級という駆け出しの中の駆け出しから、E級という初級冒険者へと。ついでに言うと、魔術師としての級もE級へ上げてもらえたのだ。まあ、言ってもE級だし、まだまだ下級と括られる級なんだけどね……。それでも、功績を認められて昇級するというのは、とても嬉しい事だと思う。だって、多くの人が俺たちに期待してくれているって事だから。


 ちなみに、ディンガとドーリスも昇級している。なんと、B級冒険者様だ。括りで言えば、中級から上級へ。冒険者タグも、綺麗な銀色の輝きだ。補足すると、中級であるC・D級は銅色。下級であるE・F級は、光沢の無い鉄色。そして、幻の存在である最上級のS級は、キラキラの金色らしい。見た目にも分かり易く、より上の色を目指そうという意欲にも繋がるやり方だ。ただ、ディンガたちは……昇級を辞退しようとしたそうだけど。


 なんでも、実力が不足している、と言ったらしい。そして、その言葉には正しさもある。確かに、B級と呼ばれるほどの戦闘力は、彼らには……無い。だけど、ハイランドさんが押し切った。実力主義に偏重した冒険者ギルドを変えたい、と……。その一声で、本人たちの意志とは関係なく昇級が決定したようだ。まあ、ディンガたちには悪いけど、俺もハイランドさんと同意見。実力も確かに大事だけど、実績をコツコツ積み重ねる事のほうが大事だと思う。まるで、信頼関係を築き上げていくようだから……。


「シールーバさん! また、敵さんが向かったのです!」


 また思索に耽りすぎていたようで、今度はメリちゃんもご機嫌斜めのご様子。突っ込んでくるマッドボアに対処した後、慌てて弁解の言葉を返す。


「ごめんね、メリちゃん。ちょっと考え事を……」

「不注意なのです! 大氾濫(オーバーフロー)の時のようにピリピリしてとは言わないのですが、楽観が過ぎるのです……」

「そうだね。ここからは、集中して依頼に当たるよ」


 これ以上、メリちゃんに迷惑を掛けてはいけない。俺は心を入れ替えて、今受けている依頼に集中するのだった。



 何日かを掛けて、「大猪の森林」内をくまなく調査し終えた。所々に設置されているマナ濃度計も、正常範囲の数値。森林型迷宮だから心配はしていなかったけど、マナの循環を阻害するような異変も見当たらなかった。これにて調査と間引き依頼は完了だ。いや、ギルドの受付で報告するまでが依頼だった……。すぐに気を抜いてしまう癖は直さないとな、などと考えていると、メリちゃんがギルドのレンタル馬車から手招きをしているのが見える。


「シルバさん、早く王都に帰るのです! 詰め所の固いベッドより、宿のふかふかベッドなのです」


 俺もそう思う。寝具というのは大事だと、つくづく実感させられる。そんな風に考えながら、さも当たり前のように馬車へと乗り込む。しかしだ。この馬車、実は特例中の特例。俺たちの冒険者級では、本来借りられないはずの物。中級冒険者からの特権であり、E級二人の俺たちでは駄目なはずなのだ。だが、そこにはちゃんとした理由があった。走り出した馬車に揺られながら、「小鬼の巣窟」からの帰還翌日の出来事を思い出していた――



 ゴブリンキングとの激闘の反動からか、少し遅めに目を覚ました俺とメリちゃんは、昼も近づいてきた時間帯に冒険者ギルドへと顔を出した。なんとなく、迷宮に残って掃討とマナ散らしをしてくれている人たちの戦況が知りたかったからなのだが、俺たちを見つけた受付嬢キサラさんから、「遅いですよ!」と文句を言いわれながら呼び止められた。そして、依頼達成の手続きが行われたのだ。


「これで依頼は達成です。お疲れさまでしたと言いたいところですが、マスターがお呼びです。昇級についてですね」


 まず、この時初めて知った事が、依頼は正式に報告と手続きを終えなければならない事。現地でハイランドさんから労いの言葉はもらったけど、あれでは依頼完了とはならないらしい。それと、ハイランドさんからの呼び出し。この意味は、本来なら昇級に関する事がほとんどらしい事も。……あまりにも何度も呼び出されていたから知らなかった。


「ええと……もう昇級ですか?」

「はい。もう昇級です」

「早すぎませんか?」

「早すぎますね」


 あくまで受付嬢であるキサラさんは、淡々と事実を述べるだけだった。今思うと、詳しい話を受付嬢が知っているはずもなく、あの反応しか出来なかったのだろう。そんな訳で、数えるのも面倒になってきたギルドマスターの部屋への呼び出しに応え、向かった。そして、入室と同時にハイランドさんが口を開いた。


「君たち二人は、E級冒険者となりました。では、新しいタグを」


 詳しい説明も無く唐突に、それでいて当たり前の事のようにタグを手渡された。俺たちは受け取ったタグを首に掛け、F級と刻まれたタグを返却した。そして、先ほどキサラさんに掛けた問いを口にした。


「もう昇級ですか?」

「そうですね、早すぎる昇級です。ですが、それでも足りないほどの功績を上げてもいます」

「ゴブリンキングやその配下の討伐、それによる大氾濫の拡大防止あたりですか?」

「その通りです。私としては、D級までの昇級を考えたのですが……総本部から待ったが掛かりました」


 総本部とは各国に存在する本部を統括する、冒険者ギルドの中心であり頂点。確か……結構遠くにあるはずだけど、通信用の魔具でもあるのだろう。昨日の今日でやり取りが行われているのだから。


「いえ、E級に上がっただけで充分ですよ」

「いいえ、駄目です。功績は正しく評価されるべき。これが私の持論なのですから」

「では、昇級以外でなにかもらえるんですか?」

「はい。特例をいくつか認めてもらえました。特に重要なのは、みなし級でしょう」


 みなし級? それは一体なんなのだろうか……。

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