表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
争乱の神人  作者: 富井トミー
第10話 楽観が招く再会
50/149

049 sideB

「あの……グレイさんは直接会った、というか戦ったので分かるのです。ですが、レイナ様というのはどんな人なのです?」


 グレイさんは……とても怖い獣人(セリアン)さんでした。加護の力を近接戦闘に特化しているであろう身体能力は、魔術特化のメリにとって……最悪の相性。もし、シルバさんがいない状態で攻めてきていたら、メリでは撃退できなかったと思います。それに、奴隷狩りの首魁という事で苦手意識があるのも、より怖いと感じる一因なのです。更に言えば、自身が村長を務めていた村を自身で壊滅させたなんて話を聞いたので……出来れば二度と関わり合いになりたくない。そんな印象です。


 そんな訳で、グレイさんの事は多少なりとも知っています。ですが、レイナ様についてはあまり知らないのです。シルバさんが一年仕えていた女性で、王国北部まで逃げるきっかけになった人。人柄などの情報はありません。でも、中部にある森の集落であっても、名前が伝わってくるほどの大貴族である事は理解しています。キャンベル家のお嬢様というのは、それほどの有名人なのです。


 なので、メリの問いには好奇心が強く含まれていました。純粋に気になったのです。大貴族のお嬢様がどんな人なのかが。そんなメリの考えを汲んでか、シルバさんは近しい位置にいたからこその情報を提供してくれました。


「ちょっと我が儘で、思い込んだら突っ走っちゃう人かな。今思うと、最後まで俺と結婚出来ると信じ切っていたようだしね……」

「主様……あれは、ちょっとじゃなく我が儘にゃ。どれだけ主様が振り回された事か……」


 我が儘なのは貴族らしいですが、軽率な行動をするのは……貴族らしくないですね。それに、シルバさんと結婚? 大貴族の一人娘のはずのレイナ様が、仕えているだけのシルバさんと……?


「もしかして……シルバさんは、レイナ様との結婚から逃げてきたのです?」


 その問いかけに、シルバさんもシロ様も困ったような声で応えます。


「色々と省略するなら……その通り?」

「主様、詳細は伏せて正解にゃ。踏み込んだ話をするには、メリサンドはお子様すぎますにゃ」


 シロ様の言葉に少しムッとしますが、まだまだ子供である事は否定できません。ただ、子供だから話せないというのは……メリが踏み込むべき内容でない事は理解出来ました。とてもドロドロした愛憎劇、あるいは……大人な行為に関するお話でしょうから。


 なので、メリは気付いていない風を装い、話をシルバさんへの追っ手についてに戻します。


「レイナ様、追いかけてくると思うのです」

「えっ? メリちゃんもそう思うの?」


 逆に、なんで来ないと思うのかが謎です。グレイさんなら、賊として追われる立場なので王都に来るのは難しいでしょう。ですが、レイナ様はこの国の貴族。王都に来ても、なにも不思議ではありません。社交界への参加、王族への挨拶……商談なんて理由だって作れます。それに、加護を授けた神様からの言葉があれば、理由すら不要だと思います。王都に来るの一択です。


「思うのです。シルバさんが神人だという事を知っているのも大きいのです」

「俺が神人だから? そんなに重要?」

「重要なのです!」「重要ですにゃ!」


 シロ様と同時に叫んでしまいました。どうもシルバさんは……認識が甘くて困ります。どれだけ神人が希少で、加護持ちとは大きな隔たりがあるかという事を――


 神人として力を与えられるのは、一柱の神様に対して一人のみ。対して加護は、神様の神力の許す限り増やす事が出来ます。そして、加護は下級神でも与えられますが、神人指名を行えるのは中級神以上のみ。数多くいらっしゃるとされる神様のほとんどは下級神なので、確認されている中級以上の神様は……たったの三十二柱だけ。ですから、神人も最大で三十二人のみ。この広い世界の中で、です。


 ここトラディス王国も、南北に縦断するとなれば一月ほどの時間を要します。ですが、この世界にはそのような国が五十以上あるのです。それぞれに大小の差はありますが、それだけ世界は広いのです。この国の東西に存在する二大内海、トラスト内海とディスガスト内海の先を見れば、数多の国々がひしめき合っています。そんな中での三十二人。そんな希少で貴重な神人が重要でないのなら、一体何が重要だというのでしょう……?


 メリとシロ様は、一生懸命説明しました。国の頂点に君臨する王様や指導者の数より、神人のほうがまだ少ないと。シルバさん以外の神人のほとんどは、いずれかの国で超高位の役職についている人ばかりだと。そんな神人の言葉は、時に王様の言葉よりも優先されるという事を……。


 ですが……シルバさんには響かなかったようです。だって……。


「うぅん……そうなんだ。でもさ、俺はただの冒険者兼魔術師だし、神人だって公表してないし」

「今はそうなのです。だからこそ、レイナ様はシルバさんを欲するのです!」

「なんで?」


 本気で分かっていないという顔で返されると、メリであっても困ってしまいます……。権力欲に、物欲やその他さまざまな欲望。謀略や政略などの、他人を出し抜く手段や考え。そういったものがシルバさんには皆無なので、どう伝えるべきか迷うのです。それでも……なんとか理解してもらわなければ困ります!


「通常、神人が現れたとなれば……国や貴族が取り合いを開始するのです」

「そうなの?」

「そうなのです! でも、シルバさんは知られざる神人。誰からの妨害も横槍も無く手に入れられる、珍しい神人なのです」

「珍しい存在の神人の中でも、更に珍しいのかぁ」


 どこか他人事のように言うシルバさんは、どこまでも能天気。……少し言葉が悪いので、楽観的と言い換えるべきですね。そんな様子で、自分とは関係ないという姿勢のままです。だったらと、メリは切り口を変えてみるのです。


「レイナ様は結婚を望んでいるのです。レイナ様自身の欲望もあると思いますが、キャンベル家の都合もあるのです」

「神人である俺を、しっかり囲い込むため?」

「そうなのです。神人を迎えた家ともなれば、絶大な権力を手に入れるのです。でも、結婚したシルバさんに訪れるのはなんなのです?」


 話の本筋からは逸れますが、まずは事の重大さを理解してもらわなければいけません。そして、レイナ様に仕えていたシルバ様ですから、貴族の生活というのは知っているはずです。なので、ここで期待する返答は、自由の無い暮らしとか堅苦しい生活という言葉です。ですが、シルバさんから返ってきた言葉は、予想の斜め上をいくものでした。


「幸せな家庭?」

「違うのです! ん? 違わないのです? あれ?」


 否定しなければならないのに、否定してはいけない気になります。本人が納得しているのなら、結婚は幸せな事でしょう。うん。


 何故か納得してしまったメリに代わり、シロ様が呆れながら口を挟みます。


「メリサンド、しっかりするにゃ。それと、主様。貴族になるという事は……自由に冒険者を続ける事も、様々な地に赴く事も出来なくなるにゃ」

「それは困る!」

「なら、真剣に考えて欲しいですにゃ。レイナ嬢が王都へとやってくる可能性を……」


 その言葉で、やっとシルバさんは楽観的な考えを思い直し始めました。


 ですが、すでに遅いかもしれません。魔法という神力行使の後ですし、今回の大氾濫(オーバーフロー)解決でシルバさんの名前も広まります。天界の神様からも、南部のレイナ様からも……シルバさんの存在に気付き易い状態になっているはずです。なら、来るか来ないかよりも……来るという前提で考えるべきなのかもしれませんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ