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争乱の神人  作者: 富井トミー
第8話 寄せる希望に振り回されて
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041 sideB

「おい、どうした? なにがないってんだ?」


 メリの声に反応して、濃度計周辺で話し合っていたディンガさんたちが、こちらにやってきました。シルバさんとメリは、マナの流入が途絶えている事を伝えます。すると、ジゼル様は驚いた様子で奥へ続く道へと向かい、ハイランド様はそれを護衛するように付き従いました。そして、ジゼル様が声を上げます。


「本当に……マナが流れていませんわ! そんな事って……?」


 メリ同様、ジゼル様も驚きを素直に表現していました。だって、あってはならない事なんですから……。


 迷宮(ダンジョン)から生まれるマナは、場合によって量が増減します。ですが、途絶える事はありません。なぜなら、神様や世界そのものに定義された(ことわり)だから。迷宮とは、マナの生産のためにあると決まっているのです。だから、流出が止まるなんて事は……あり得ません!


 ジゼル様やメリの様子から、ハイランド様も事態の深刻さを理解したようで、ディンガさんへ指示を仰ぎます。


「大問題発生のようですが、ディンガ……どうしますか?」

「ああ、マナ濃度が激減した理由は分かった。なら次は、この迷宮に起こってる異変の解明だよな」


 そう言って頷き合った二人は、メリたちに出発の指示を出しました。遂に、迷宮深層へと足を踏み込むのです。一体なにが待ち受けているのでしょうか……?



 深層を進み始めてすぐに、本日最初の魔獣(モンスター)と出会いました。敵の構成は、メイジとアーチャーを含む集団。数は三十ほど。昨日、嫌というほどに戦った相手ですから、必勝パターンで迎え撃ちます。土壁を構築し待ち受ける、あの戦術です。ただ、昨日と違うのは、こちらの戦力が拡充された事でしょう。前衛と後衛が一人ずつ増えていますので、接近前に魔術と弓で殲滅が完了してしまいました。


「違う」


 戦闘が終わるや否や、ドーリスさんが呟きました。違うというのは、殲滅速度でしょうか。確かに、昨日と違って前衛の出番はほぼありませんでしたから。


「やっぱり、ドーリスも思ったか?」

「うむ。只の群れだ」


 どうやら、メリの考えは違ったようです。ディンガさんとドーリスさんは、なにかしらの敵集団の変化を感じ取ったようです。そこへ、ハイランド様が話に加わります。


「只の群れ? ゴブリンなんて……こんなものじゃないですか?」

「いや、昨日は違ったんだ。もっとこう……狡猾? 組織立ってた?」

「うむ。ここまで阿呆では無かった」


 二人の言葉で、メリも気付きました。明らかに統率が取れていない事に――


 昨日の集団は、壁を迂回する一般ゴブリンを左右で同数に分割していました。壁の両端に同時同数で攻めかかり、数の利で押し切ろうとしてきたのです。そして、後衛のメイジやアーチャーは、後方から戦況を観察しながら援護射撃を行ってきました。こちらに戦術があるように、あちらにも戦術があった。そう思わせる行動選択だったのです。


 ですが、今回は違いました。壁を迂回しようとするゴブリンは、好き勝手に動いていました。それどころか、壁を打ち崩そうと壁にまで向かってくる始末。そして、後衛のはずのメイジやアーチャーも、前衛ゴブリンたちと共に接近し、遠距離攻撃という長所を生かす事無くマナとなって消え去りました。


 きっと、この差がベテラン二人の言いたい事でしょう。これが、マナ濃度が激減した事と関わりがあるかは不明ですが、良い予感がしない事だけは確かです。だって、近い未来を見通すとされる期待と予期の女神様の加護が、メリに危険だと(ささや)いているように感じるのですから……。


「シルバさん……アンティス様の加護が、危ないって警鐘を鳴らしているのです」


 シルバさんへと、他の人に聞こえないように耳打ちしました。正直、こんな事は今までなかったので、不安を少しでも和らげたいという一念で、です。森が賊に襲われていた時も、神聖国へと逃れる最中の戦闘前にも……これほどの胸のざわつきはありませんでしたから。


 メリは一体……どんな顔をしていたのでしょうか? 不安と恐怖が溢れていたのかもしれません。そんなメリの頭にシルバさんの手が優しく置かれ、落ち着くようにと撫でながらシルバさんは言います。


「大丈夫! どんな危険が待ってようと、俺がなんとかしてみせるから! だって俺、最強らしいし?」


 そう言いながら笑うシルバさんを見て、メリの心は一瞬で軽くなりました。それは……シルバさんが強い力を持っているからではありません。他者の寄せる希望の心を一身に背負って、未来を切り開いてくれそうな光を見たからなのだと……そう思います。そしてそれは、メリには出来なかった事でもあるのです……。


 メリは……みんなに生まれ育った集落を捨て、逃げる選択を迫りました。生き残る事に期待する選択と言いつつ、メリの考えは他にもありました。それは、重責からの解放。加護持ちのメリは、みんなから寄せられる希望に……疲れてしまったのだと思います。だから、メリは神聖国へと同行しませんでした。シルバさんというより上位の存在の隣にいれば、メリが寄せられる希望に振り回されなくてもいいのだと……。


 だからでしょうか。いつも背負う立場だったメリが、初めて背負ってもらう側になって……本当にほっとしました。迷宮で起こっている問題が解決した訳では無いのにです。でも……寄りかかってばかりというのも、メリの性分ではありません。だから、こう言います。


「じゃあ、メリはシルバさんの背中を護るのです! 支援は任せてくださいなのです!」

「そっか。だったら、任せた! それじゃあ、さくっとこの迷宮を正常化しちゃおっか」


 シルバさんに笑顔で頷き返し、メリたちは迷宮を進んでいくのでした。



 その後、散発的な敵の襲撃を退けながら、深層の中頃まで到達しました。そして、そこで……異変の一端を目にする事になったのです。


「崩落か? いや、人為的に封鎖されてやがるのか?」


 ディンガさんが言うように、最深部へと向かう道は岩と土で遮られていました。一見すると崩れ落ちたように見えますが、近付いて確認していたハイランド様が、その考えを否定します。


「これは、塞ぎ直した跡がありますね。落盤があったのは確かなようですが、今の状態は……何者かの仕業でしょう」

「じゃあ、人為的って事か?」

「そういう事ですね。岩と岩の間に、ここの地質とは違う土砂が混ざっていますので、魔術によって生み出された土だと思います」


 ハイランド様の言葉を聞いて、みんなが封鎖地点へと近付きました。岩や土を触って確認し、ハイランド様の言葉が正しい事を理解します。そして、全員が確信を持ったと思います。グレートゴブリンを越える存在……”なにか”が居るという事を。だって、マナの流出を物理的にせき止め、最深部のマナ濃度を高めようと画策する知性があるという事ですから。グレートゴブリンでは、そこまでの考えには至らないでしょう。だから……居るのです。


 誰もが緊迫した表情を浮かべ、次の行動へと移せずにいました。当然、メリも同様です。ですが、一人だけ……事も無げに声を発する人がいたのです。それは、シルバさんでした。


「とりあえず、この封鎖を解除しちゃいませんか? このままじゃ、この先のマナ濃度が上がる一方ですよね?」


 それは、みんな分かっています。だけど……躊躇(ちゅうちょ)してしまうのが、人の(さが)。本来、迷宮外にまで広がるはずのマナが、深層深部に凝縮されているのです。きっと、昨日の大空洞を越えるほどの魔獣がひしめき合っていると、容易に想像出来てしまいます。なので、誰もがすぐに返事をする事が出来なかったのでした。

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