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争乱の神人  作者: 富井トミー
第8話 寄せる希望に振り回されて
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038 sideA

 翌日早朝。俺は目を覚ました。「酒飲み猫」の寝心地の良いベッドではなく、詰め所のお世辞にも上等と言えないベッドで。うっすらとだが朝日が昇り始め、その光で目を覚ましたようだ。


「シルバ、起きたんならさっさと支度をしろよ」


 先に起きていたディンガとドーリスに急かされ、俺は最低限の身支度を整える。別室で寝ていたはずのメリちゃんも合流すると、いよいよ緊急依頼(クエスト)の始まりだ。少し眠気が残りながらも、俺たちは詰め所を後にするのだった。


 そして、迷宮(ダンジョン)前。そこには二人のギルドマスターが待ち構えていた。一人は当然、ハイランドさん。そして、もう一人というのが……。


「メリサンドさん、シルバさん! 待ちくたびれてしまいましたわ。さあ早速、迷宮へ入りましょう!」


 魔術師ギルドマスターのジゼルさんだった。妙に張り切っている様子なのは、とりあえず置いておこう。そして、その傍らには数人の魔術師がいた。その人たちはメリちゃんの姿を認めると、一目散に駆け寄ってきて声を掛ける。


「メリサンドちゃん! 大丈夫だった?」

「グレートゴブリンまで居たって聞いて……俺たち、心配してたんだよ!」


 心から心配するような言葉の数々に、メリちゃんは胸を張りながら「全然余裕なのです」と言い放っていた。とても親し気な様子から、俺が訓練を続けていた間に出来た友達かなにかなのだろう。メリちゃんはメリちゃんで、しっかり居場所を作り上げていたようで一安心だ。そんな、まるで父親のような気持ちで見守っていると、ハイランドさんが俺やメリちゃんに向けて口を開く。


貴方方(あなたがた)のお陰で、魔術師ギルドが動いてくれたようです。そうですよね、ジゼルさん?」


 そう話を振られ、ジゼルさんは先ほどと打って変わって、お堅いギルドマスター然とした態度で答える。


「ええ、そうですわ。うちの期待の新人に万が一でもあれば、我がギルドにとって大損害ですので」

「おや? 彼らは冒険者ギルドにとっても期待の新人。うちのなどと、独占欲を出さないで頂きたい」

「ハイランドさん? 折角出向いてあげましたのに、そんな態度でよろしいと思って?」

「そちらこそ、大氾濫(オーバーフロー)という緊急事態で……初動が遅すぎるんじゃないですか?」


 治めるべき立場の二人が、率先して火花を散らしていた。周囲はまたかと、呆れている様子だ。それもそのはず。冒険者と魔術師の両ギルドは、互いに好感情を持っていない事で有名だ。その現実を目の前で見せつけられては、俺だって苦笑するしかない。



 この二つのギルドは、性質的に近しいものがある。どちらも巨大な戦闘力……軍事力を持つ組織。発足のきっかけも、国や貴族に頼らない治安維持が目的だった。それは多くの争いの中、騎士や軍は民衆を後回しにし始めたから。なので、独立した中立組織が必要だったという訳だ。出来たばかりの頃の両ギルドは、手を取り合ってよく支え合っていたようであった。しかし突然……転機が訪れた。


 それは、魔術師ギルドの方針転換。各国や貴族へ相互不干渉を決め込んでいたそれまでから、積極的に干渉する方針へと考えを(ひるがえ)したのである。当然、冒険者ギルドは抗議したようだが、魔術師ギルドが考えを戻す事は無かった。……当時から今までの魔術師ギルド上層部には、それなりの理由や根拠があっての行動だろう。しかし、冒険者ギルドとしては……信頼を裏切られたのも同然。禍根は今も残り続けているのだ……。



 流石に、苦笑してばかりもいられないだろう。俺とメリちゃんは、どちらにも顔が利く珍しい存在なんだから。二人のマスターの間へと割り入った俺は、毅然とした態度で苦言を呈する。


「互いを信頼しろとは言いませんが、今は協力し合いませんか? 無辜(むこ)の人々の命が懸かっているんですから」

「それもそうね……。まあ、冒険者の皆さんがちゃんと間引きをしていれば、ここまでの大事にならなかったと思いますが」

「それは魔術師の皆さんもと言いたいところですが、シルバ君の(げん)が正しいので……ここは退きましょう」


 とりあえず、協力し合う空気にはなった……はず。言い争いの続きは、大氾濫が解消できた後にでもお願いします。そう心の中で呟いた後、この場の最高責任者たちに計画を尋ねる。


「それで、計画はどうなっているんですか?」


 俺の問いに、ハイランドさんが説明を始めた。この場の冒険者と魔術師を、二つの役割に分割すると。


 一つ目の役割は、増えている魔獣(モンスター)の掃討とマナ散らし。主に、深部へと進む道から逸れた脇道へと向かいながらの仕事だ。その担当は、迷宮入り口を固める人員以外のほぼ全員。それ以外の数人のみが、もう一つの役割を担う。その数人というのが、俺たちのパーティとハイランドさん、そしてジゼルさん。この場の最高戦力が集って行うのが、迷宮最深部への到達だ。要するに、最も濃いマナの中へと進み、血路を開く。最重要にして、最高難度の役割なのだ。


 その話を聞いて……ドーリスは恐縮したように、ディンガは畏れ多いと声を上げる。


「ハイランド殿、私では足手まとい。再考を」

「そうだぜ! この役割、戦闘能力が必要なんですぜ? 俺やドーリスよりも適任がいるはずだ!」


 二人の言うように、増援としてやってきた冒険者の中には、B級のタグを身に着けている人が少ないながら……いる。単純に戦力としてならば、その人たちのほうがいいだろう。しかし、ハイランドさんは首を横に振る。


「いいえ、この六人で行います。ですが……危険であるのは当然。命が惜しいと言うのなら、辞退を認めますが?」


 ハイランドさんは、あえて挑発するかの如く聞いた。それが二人を乗せるためのものだと知りながらも、二人は食って掛かるように吠えた。


「ハイランド殿! 流石に聞き捨てならん! 辞退などあり得ぬ!」

「ふざけんな! 命を惜しむぐらいなら、冒険者なんてやってねぇぜ!」


 こうして、ディンガとドーリスの参加も決まった。ハイランドさんは狙い通りと薄く笑い、その様子を冷めた目でジゼルさんが眺めているのだった。



 そしてその後、魔術師一人に冒険者複数人の即興パーティがいくつも組まれ、順次迷宮へと入っていく。俺たちの突入は最後。中層のある程度までは、先行のパーティに魔獣を狩ってもらうためだ。……深層にどれほどの魔獣が蔓延(はびこ)っているか分からないのだから、道中での消耗は避けなければいけない。A級冒険者であるハイランドさんやA級魔術師のジゼルさんであっても、他より強い只の人間。無理をすれば……簡単に命を落とす。だから、万全を期すのだ。


 だからこそ、疑問が残った。ハイランドさんは何故、ドーリスとディンガに(こだわ)ったのかが。俺は先行パーティの突入指揮を行っているハイランドさんに近付き、そして尋ねた。


「なんで……あの二人を?」


 唐突に、それも端的に聞いた。普通なら伝わらないのかもしれないけど、それでも充分だという確信があった。その確信は正しかったようで、ハイランドさんは静かに答えを返してきた。


「華々しい功績を与えたくて。……私のエゴだとは思いますけどね」

「それは、この緊急依頼だけではなく?」

「バレていましたか……。そうです。先の依頼も含めて、です」


 やっぱり。俺はそう思った。手際の良すぎる増援の到着は、この迷宮が危険な状況である事を察していたから。俺とメリちゃんと共に二人を送り込んだのは、俺たちの戦闘力であれば切り抜けられると踏んでいたから。きっと、俺たちを育てたいという言葉も嘘では無かったのだろうけど、それ以上に望んだ事があったという事だ。


 俺は再び、同じ文句で問いかけるのだった。

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