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争乱の神人  作者: 富井トミー
第5話 好奇の心に従って
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024 sideB

 扉を開けた瞬間、目の前に広がった光景に、メリの好奇心は刺激されまくりました。それはもう徹底的に。


 冒険者ギルドに比べこぢんまりとしたエントランス部分は、(実物を知らないけど)貴族の邸宅を思わせる洗練された造りになっています。それに、待合席も最低限しか用意されておらず、限られた人しか訪れない事を予感させます。そもそも、冒険者ギルドは広く依頼を受け付け冒険者に斡旋する組織ですが、魔術師ギルドはどのような業務を行っているのかすら不明です。なので、受付の先から伸びる通路の向こう側では、その答えとなる事が行われているのでしょう。気になって仕方ありません!


 ですが、受付を済ます事無く奥へと踏み込めば、それはただの不法侵入者です。メリは好奇心をぐっと堪えて、受付へと向かいました。そして――


「魔術師ギルドへようこそ。その格好……冒険者ギルドからの使いの(かた)たちでしょうか?」


 さすが、あのおじいちゃんが選んだ装備なだけあります。シルバさんはともかくとして、メリまで冒険者と認識されました。そんな些細な事に喜んでいるうちに、シルバさんは受付嬢さんに対して否定するように首を振っています。


「いえ、俺たちは魔術師ギルドに登録したくて来ました。ここで手続きが出来るのでしょうか?」

「はい、ここで承っておりますが……ここは魔術師のためのギルドです。お二人は魔術の心得は?」

「メリは見ての通り森人(アールヴ)だから、魔術は得意なのです!」

「俺も一通りの魔術は扱えます」


 メリたちの返事を聞くと、受付嬢さんは手を差し出してきました。手のひらに何かを乗せて欲しそうに見えますが、これは噂の……賄賂の要求でしょうか?


「師事された(かた)からの紹介状をお願いします」


 どうも賄賂では無いようです。ですが、紹介状という物をメリは知りません。シルバさんも首を傾げているので知らないのでしょう。


「あの……メリは、集落のじいちゃんたちから魔術を教えてもらったのです。なので、紹介状なんてシステムは知らないのです」

「ええと、俺も独学なんで……誰かを師に仰いだ事はないんですよ」


 受付嬢さんは手を引っ込めながら、驚きと呆れが()()ぜになったような表情を浮かべました。


「当ギルド会員より魔術を学んだ訳では無いという事でしょうか?」

「そうなりますね。俺もメリちゃんも。……なにか問題があるのでしょうか?」

「い、いえ。問題はありませんが……私が受付を任されて数年になりますが、なにぶん初めての事なので上に確認してまいります」


 そう言うと、受付嬢さんは受付を離れてどこかへと消えていきました。ただ、これまでのやり取りで、一部の謎が解明されました――


 まずは、魔術師ギルドのお仕事。それは、魔術師の派遣業務でしょう。多くのお仕事の中の一つではあるでしょうが、大事な収入源になっていそうです。受付嬢さんも開口一番に冒険者ギルドの名前を出した事から、魔術師の必要な依頼への派出を行っているのでしょう。そして、それ以上に重視しているのが、教師としての派遣だと思われます。紹介状を求められたのも、このギルド流のやり方なのでしょう。


 そして二つ目は、魔術の希少性。この街に来てから、契約魔術以外の魔術をほぼ見ていません。ごく稀に生活魔術を見かける程度で、それも使い慣れている感じはしないものばかりでした。ですが、それも納得です。このギルドが魔術知識を独占しており、魔術を学ぶためにはギルド員に教えを請うしか無いのが現状。きっと、多くの報酬を請求され、魔術を学ぶ事が出来るのは……ほんの一握りの裕福な人たちだけなのでしょう。


 多少は人里での魔術の扱いが理解出来てきましたが、あまりにも魔術が特別視されている印象です。これは……森人の考える魔術理念から、大きく外れてしまっていると言えます――


 森人が魔術を生活の一部として使用するのは、なにも利便性だけの話ではありません。マナを適度に消費する、これが一番の目的なのです。マナというのは魔術の源であると共に……魔獣(モンスター)の源でもあります。魔獣はマナが凝縮し形を得たもの。マナが滞留してしまうと、魔獣はそこに現れます。なので、森人は魔術を使うのです。森はマナが溜まりやすく、はぐれ魔獣が発生しやすい土地。……森人の魔術理念は、住む土地を魔獣から護るためのものなのです。


「メリちゃん? 今度は浮かない顔をしてるけど……大丈夫?」

「えっ、はいなのです! 少しだけ……この国の魔術の在り方を考えてたのです」


 シルバさんは、なんの話か分からないようで首を傾げました。ですが、すかさずシロ様が口を開きました。


「メリサンドは、魔獣の大氾濫を危惧してるにゃ? それならば大丈夫だにゃ」

「シロ様? 喋って大丈夫なのです? それに……氾濫が起きないと言い切るのは何故なのです?」

「誰もいないようだから大丈夫にゃ。それと、氾濫が起きない理由は……世界には争いが満ちているからにゃ」


 大争乱の時代。その言葉がメリの脳裏をよぎりました。戦争の勝敗を左右する要因の一つは、魔術兵の数と質だと言われています。要するに、争いが絶えないこの世界では……マナはどんどん消費されているのです。……人の命と共に、ですが。


「争いが起こっているから大丈夫なんて……悲しすぎるのです」

「ええ、そうですにゃ。ですが、そういった一面もあるという事ですにゃ」

「あっ、シロ! 足音が聞こえるから黙って」


 シルバさんがそう指示した直後、受付嬢さんを伴って一人の女性が現れました。その女性は上等な衣服を纏っていて、一目で偉い人だというのが分かります。それに……黒森人(ダールヴ)だったのにも驚きました。


 黒森人は、森人から変じた人種です。森を捨て、負の神々を信仰した事で黒く染まった……そんな昔話が残されています。その話の真偽のほどは分かりませんが、身体の色以外にも森人と様々な違いがあるのは間違いありません。森での定住から草原での遊牧生活を選んだ結果、身体強度は遥かに増しましたが、マナの制御技術は大きく衰えたと聞きます。そんな種族の女性が魔術師ギルドの上層部にいる事に、メリは驚いたのです。


 ただ、その女性もメリを見て驚いている様子。その表情を繕う事もないままに、メリたちへと声を掛けてきます。


「純白の森人を街で見かけるなんて、珍しい事もあるものですわね。それで、貴女方(あなたがた)が我流魔術師さんたちね?」


 その言葉に、メリは棘のようなものを感じました。純白の森人というのは、森に住む森人を指す言葉。森から出た森人は、徐々に肌の色がくすんでいくとされています。なので、先ほどの言葉には……羨望や侮蔑という意味が込められていそうです。最もマナの扱いが上手いとされる純白の森人を羨み、森という閉鎖環境で育った事への蔑みまで含んでの発言でしょう。それに、わざわざ我流魔術師と呼ぶあたりも、敵愾心の表れなのだと思います。


 だからでしょうか、メリもついつい口が悪くなってしまいます。だって、先に喧嘩を売ってきたのは相手のほうなのですから……。


「漆黒の黒森人さんは、純白の森人が嫌いなのです? それに、脈々と受け継がれてきた森人の魔術を我流だなんて……魔術師ギルドも大した事がなさそうなのです」

「なっ! この小娘……っ! この私、魔術師ギルドマスターの『ジゼル』相手になんたる暴言! しかも、ギルドまで馬鹿にするとはっ!」


 ギルドマスターだと言ったジゼル様は、目を見開いて怒りの形相を浮かべています。その隣では、受付嬢さんがどうしたものかとおろおろするばかり。そんな時でした。シルバさんがメリたちの間に割って入ったのは……。

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