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争乱の神人  作者: 富井トミー
第26話 再会と反撃、そして……
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144 sideA

 西部戦線での奇襲作戦が開始され、侵攻軍本陣が消え去った頃。東部戦線では――


(主様! 奇襲部隊が敵本陣を攻撃、殲滅。敵軍は総崩れとなっている模様です!)

「そっか、成功したんだね!」


 西部戦線の戦況は覆った。指揮官の多くを失い、統率が乱れに乱れているはずだ。そうなってしまえば、後は掃討戦のような状況だろう。


(味方軍は反転攻勢に出ており、敵軍を半包囲といった状況。全て計画通りです!)

「西部戦線の勝利は確定かな?」


 掃討をより優位に進めるため、すでに策は施してある。それは、第二防衛陣地への後退だ。


 奇襲攻撃地点を第一と第二陣地間とする事で、第一陣地を敵軍の退路封鎖用障害物として利用。数で勝る敵を、数で劣る味方が包囲し易いように、という事だ。南側からは反転攻勢に出た味方軍が、西側からは奇襲部隊が迫り、北側には第一陣地という障害物が目に入る。すると、敵軍はどこへ向かう? 東側の平原地帯だろう。


 そこで、特務部隊とギルド部隊の出番だ。騎乗兵の機動性で以って、特務部隊が東へ逃れようとする敵軍を牽制。その間に、左翼のギルド部隊が東へとスライドし、包囲を進めるという策だったのだ。そして、女神ラブの報告を聞く限り、その通りに推移しているようである。ゆえに、勝利は揺ぎ無いだろう。


(はい。ですが、その……間に合うでしょうか?)

「ちょっと厳しいかも? いや、なんとか支えてはいるけど……」


 西部戦線側は、計画の前倒しこそあったものの順調。続く計画としては、西部戦線で勝利を収めた味方軍がこちらに急行、敵軍を挟撃するという事になっている。しかし、俺たち東部戦線側はというと……結構ピンチだったりする。


 というのも、敵軍の勢いが半端ない! 兵力で勝り、兵の練度でも勝る敵軍が、執念と怒りに燃えながら攻め込んでくるのだ。開戦初日こそ、防御設備のお陰でなんとか耐え凌いだけど、二日目の今日は……防御施設の損壊も目立っていて、すでに随分押し込まれてしまっている。


 それに、東部戦線側の味方軍はそもそも……戦力的に心許(こころもと)ない。キャンベル家以外の領軍の寄せ集めだし、ギルド部隊の面々も下級冒険者や魔術師が大半。圧倒的な戦闘力を誇る個の人材も、俺とシロくらいなものだ。そして、シロは分神。力こそ神である本体に及ばないものの、人間同士の戦争に神が直接的かつ積極的に介入する訳にはいかない。なので、敵軍の魔術攻撃を防ぐ程度の協力しか頼めないのだ。


(分神も本格的に参戦させる。これしかないのでは?)

「いやいや、駄目でしょ! だって、こっちがそれをやりだしちゃったら……」

(はい。負の神々もやり始めるでしょうね)


 様々な無茶をしている負の神々でも、分神を戦力として戦争に投入するなんて事は……()()していない。だからこそ、悪しき前例を俺たちが作り出してしまうのは、なんとしてでも避けるべきだ。


「だから、また……俺が出るよ!」


 昨日から何度も、俺は前線へと出撃している。隊長という指揮官ポジションである事は理解しているけど、こうでもしないと……戦線が保てそうにないからだ。ただし、俺としては自重もしている。魔法は勿論、上級魔術の(たぐい)も封印しての参戦だ。……大量殺戮に腰が引けているというのも否定は出来ないけど、理由は他にもあったりする。


 俺は果たして……人と見做されるのか?


 確かに、シロのように明らかな神側の存在では……()()()()()無い。只人(ヒューマン)の身体を持っているし、神力だけで生きていけるような存在では無い。だけど、俺は■■■■だったらしい。ならば、戦争への過剰な関与は……不味いのではないだろうか? いや、すでに今更だとは思ってるけど……。


(では、中央のセルべス領軍が崩壊の危機です。そちらの救援を!)


 ラブは特に気にもしていないようだから、大丈夫なのだろうか? いや、やっぱり自重はするべきだろう。後々、厄介な事態にならないためにも。


 ――その時の俺は、そんな事を考えていたんだ。だけど、直後に知る事となる。後々なんて言ってられる状況じゃなかった事を――



 中央の立て直しを終えた俺は、最右翼のギルド部隊への合流を急いでいた。シロを代理の隊長として置いてきているけど、あまりに離れすぎているのは良くないだろうと。そして、その考えは……あまりにも正しかったのだ。


(主様! 急いで下さい! 現れたのです……怒りの神人が!)

「なっ!? 今まで動きが無かったのに……急に?」


 てっきり、初日から全力全開で攻め込んでくると思っていた怒りの神人は、予想に反して静観を決め込んでいた。……つい先ほどまでは、だけど。


(はい。主様が中央で戦っているタイミングを見計らって、ギルド部隊へと攻撃を開始したようです)

「あいつの目標は、俺じゃないのか? あいつの部下を虐殺した俺じゃ……あっ!」


 気付いてしまった、怒りの神人の狙いに。……意趣返しだ。部下を殺された恨みを、そっくりそのまま返すつもりなのだ!


 俺は急いだ。全力で走った。そして、到着した。しかし……。


「……間に合わなかった」

「おう、遅かったな。それで……どうだ、今の気分は?」


 怒りの神人の問いを無視し、周囲を見回す。……誰も立っている者は居ない。しかし、しかしである。まだ、息のある者は居るようで、”癒し”の魔法を発動させようとするも――


「治療なんてさせねぇよ!」

「クッ……」


 一瞬で間合いを詰めてきた怒りの神人が、妨害のための攻撃を仕掛けてくる。そして、即座に距離を取る。……あくまで、邪魔をする事しか考えていないようだ。


「それで、さっきの問いの返事は?」

「突然の事で驚いてるよ。みんなが死んで悲しいよ。助けられそうな命が失われそうで恐怖してるよ。そして、お前に対して怒ってるよ!」


 負の感情でグチャグチャになっている心のまま、俺は地面を蹴って飛び掛かろうとするが……ある”モノ”を奴の足元で見つけて踏みとどまる。


「いい怒りだ。それと、気付いたようだな……この、黒猫だった”物”に」

「シロだよな? その黒猫……シロだよな?」


 奴の足元を指さして尋ねる。ボロボロになって、すでに動く事を止めてしまった……シロだった”モノ”について。


「黒い猫なのに、シロなんて名前なのかよ。だが、それも過去形か。……いまじゃ、ただの死体だ」


 奴はそう言って……踏みつけた。形すら残さぬよう、踏みにじるように……シロを!


 許せない! 許してはいけない! こんな事をする奴を……俺は嫌悪する! そう思った時だった――


 俺の中で”なにか(制約)”が壊れた。パキッという音が聞こえた気がした。その代わりに、”なにか(神性)”が身体に宿った。恐ろしいほどの力を内包して……。そして、躊躇する事なく、その力を振るう


「お前を生かしてはおけない」


 奴に向けて宣言した瞬間、すでに奴の目の前に居た俺の手は……奴の心臓を抉り、潰していた。そして、意味が分からないという表情の奴は、パタンと倒れる。それでも収まらない俺に渦巻く負の感情は、動かなくなった奴だった”物”を踏みつけようと足を上げさせたのだが……。


(主様、お待ちください! まずは、皆へと”癒し”を! 分神については、私にお任せを)


 そうだった。奴はすでに死んでいる。こんな奴に構っているよりも、今はやるべき事がある。そう考えた時には、すでに”癒し”の魔法が発動していた。まるで、息をするかの如く自然に……。そして、光が周囲へと広がると、倒れ伏していた数十の冒険者や魔術師がむくっと起き上がっていた。


 しかし、シロはもう……。そう思っていた矢先、天からシロへと向かって光……いや、神力が降ってきて――


「にゃ!? 死ぬかと思いましたにゃ!」


 こちらもむくっと起き上がった。なので、俺はシロを抱き上げて……。


「シロ! 良かった……シロ!」

「主様、どうしたのですにゃ? って、うにゃ!」


 思い切り抱きしめ、無事を確かめるのだった。

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