表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
争乱の神人  作者: 富井トミー
第26話 再会と反撃、そして……
142/149

141

 シルバたちの秘密会議終了から数日。キャンベル家屋敷には、ある通信が舞い込んでいた。正側の国々による侵攻軍孤立化作戦が開始されたと――


 二大内海上では、小規模な海戦が多発している。負の国々の海上輸送網を阻害・破壊するため、正の国々の船団が哨戒活動を開始。最低限の護衛しか帯同させていなかった負側の輸送船団は、正側の哨戒船団に次々に捕捉され……拿捕(だほ)又は撃沈されているのだ。これにより、旧トラディス王国王都への海上輸送網は、徐々に機能麻痺を起こしているという。


 そして、陸上では……神聖国が怒王国南西部へと侵攻を開始。以前の大氾濫(オーバーフロー)騒動から日も浅く、修復が不十分であった怒王国の国境城壁は脆かった。いや、トラディス侵攻軍へと多くの兵を割いているのも影響しているのだろう。早々に陥落した国境城壁。遮る物が無くなった神聖国軍は、旧トラディス王国へと続く補給線上の街のいくつかを占領。陸上輸送網すら機能しない状況へと陥っていった。


 ただ、それでもトラディス侵攻軍は諦めなかった。孤立化作戦が実行されるまでに輸送を完了した物資をもとに、旧トラディス中部への侵攻を続行する姿勢を見せる。そして、補給に頼らない物資の確保……略奪を基本方針に据え、南下を開始したのだ。


「アンガー様。次こそは必ず……シルバの息の根を止めて参ります」


 前回、手酷くやり込められた怒りの神人「バルド」は、旧王都を進発するタイミングで、天へ向けて決意を口にした。そして、その場所というのが……南門があったはずの場所。部下たちが一瞬にして命を奪われ、自身も返り討ちに遭った……因縁の場所だ。


 そんな、立ち止まり天を仰ぐバルドに近付く、一人の狼獣人(ライカン)の女性。名を「ラサ=ノルア」。怒りの女神アンガーに請われ、驚きの女神サプライズが派遣した驚きの神人だ。


「急に立ち止まると危ないぞ、バルド」

「あ、ああ……すまん。だが、この場所は少し、な」

「そうか。ここが例の場所か」


 バルドが頷く。握りしめた手をぶるぶる震わせ、怒りを極限まで高めながら。……しかし、爆発はさせない。代わりに、語気を強めながらノルアへと願い出る。


「ああ! だから、頼みたい事がある! 敵軍は二手に分かれているらしいから、シルバが向かう方面を……俺たちに任せて欲しい!」

「いきなり大声を出すな……驚いただろ!」

「すまん」


 謝るバルドに、ノルアはやれやれと肩を竦める。私情で戦略を決める事には抵抗があるのだろう。しかし、怒りの感情が、怒りの神人である彼をより強くするというのもまた……事実。


「……分かったよ。優先目標シルバは、お前……いや、お前たちに任せる」

「いいのか、ノルア?」

「駄目だと言っても聞かんだろ? それに、アンガー様に誓いを立てていたではないか」

「聞いていたのか? ああ、アンガー様のため……そして、志半ばで散っていった戦友たちに、だ」


 バルドは悲し気に、されど強い意志を感じさせる風に言った。なので、ノルアは……。


「果たせよ?」


 と言い、バルドは力強く頷きながら……。


「当たりまえだ」


 と答え、二人の神人は行軍を再開したのだった。



 一方、旧トラディス解放軍は、中部の大森林東西に陣地を構築。南下する侵攻軍を迎え撃とうとしていた。しかし、シルバやレイナ率いるギルド部隊の姿は、未だに見当たらない。限界まで冒険者や魔術師の集結を待っての進発だったため、侵攻軍と解放軍の会敵に間に合うギリギリのタイミングでの着陣となりそうである。もっとも、そのお陰で……予想を遥かに上回る戦力を確保するに至ったのだ。


 メティカ進発時点で、千二百の冒険者と三百の魔術師。会敵地点到着までに、南部や中部の諸都市で依頼(クエスト)を受けた冒険者や魔術師が順次合流し、最終的には……二千まで数が増える見込みだ。ただし、それは総数。部隊を三分割する都合上、東と西に九百ずつ。奇襲部隊には、二百の精鋭といったところだろう。そして、この二百の精鋭を、いかにして露見する事なく奇襲へと向かわせるか。これが、勝敗の分かれ目の一つであろう。


「みんな! ここで部隊を分割します! 事前の割り振りに従って、東方部隊は俺! 西方部隊は、レイナ様のもとに集合して下さい!」


 中部南端の街道の分岐点。シルバの呼び掛けによって、ギルド部隊の分割が始まっていた。東回りに北上する街道上にシルバが、西回りに北上する街道上にレイナが、事前の打ち合わせ通りに分割されたそれぞれの部隊を集合させている。そして、どちらにも属さない二百の冒険者と魔術師は、その場で野営の準備を始めている。


「じゃあ、メリちゃんたち。明日の正午まではここで待機。その後は……」

「了解なのです! 大森林を突破して、西方部隊側の敵軍に奇襲なのです!」


 奇襲の露見を防ぐための一手。それがこの、一日間の待機である。もっとも、期待と予期の女神による助力があってこそ、ではあるが……。


 この分岐点一帯には、対遠見の術の結界が張られている。キャンベル家屋敷と同様のものだ。そのため、シルバの動きを注視しているであろう負の神々に、部隊を三分割した事を悟らせない意図があるのだろう。そして、シルバがこの地を離れるのを待ち、奇襲部隊が移動を再開。負の神々による監視の目を掻い潜る、という訳だ。


 ただし、確実に成功する保証は無いだろう。もし、分岐点に到着した部隊人数を正確に把握されていたら、二百人もの人数が減った事に勘付かれてしまうはずだ。もし、期待の女神を上回る存在……負の主神ディスガストが遠見による監視を行っていた場合、結界は役に立たないはずだ。


 しかし、シルバたちは確信しているようだ。成功するだろうと。それは、負の神々の慢心をよく理解しているからである。シルバしか目に入っていない神々は、部隊の正確な人数まで把握する訳がない。嫌神ディスガストは、魔導国周辺の争乱にばかり目を奪われていると、愛の女神ラブから聞いている。よって、こちらの戦況には積極的に介入する気が無いと知っている。


「頑張ってね! きっと……上手くいくはずだから」

「はいなのです! でも、シルバさんこそ頑張ってなのです!」

「了解! なんとか凌ぎ切ってみせるよ。じゃあ、次に会うのは……勝利が決まった時に!」


 シルバ率いる東方部隊、レイナ率いる西方部隊及びグレイの特務部隊は、行軍を再開。分岐点を後にしたのだった……。



 一週間後。東西の防衛陣地の目前まで、侵攻軍が接近。両軍は開戦の準備を始める事となる。


 <東部戦線>

 侵攻軍 戦力 :怒王国軍を中心とした一万人

     指揮官:怒りの神人バルド 怒王国第一軍司令官ロギウス


 解放軍 戦力 :中部・南部貴族軍五千人 ギルド部隊九百人

     指揮官:愛の神人シルバ 各貴族家当主


 <西部戦線>

 侵攻軍 戦力 :負陣営連合軍一万人

     指揮官:驚きの神人ラサ=ノルア 連合軍筆頭将軍バサ=レアン


 解放軍 戦力 :キャンベル家軍五千人 ギルド部隊九百人 特務部隊二百人

     指揮官:レイナ・キャンベル ラズ=グレイ キャンベル家騎士団長


 そして、双方が陣を整え終わる。東西どちらの戦場も、中央大森林を除けば視界が開けた平原地帯。互いが睨み合い相対する形で始まろうとしている、トラディスの地で行われる初の大規模会戦。兵力で劣る解放軍側は、防衛陣地を拠り所としての防戦の構え。一方、倍近い兵力の侵攻軍側は、物資の不安も相まって……速戦即決を目指す事だろう。


「全軍、突撃!!!」


 両戦場で侵攻軍指揮官の号令が響き渡り、猛然と前進する侵攻軍が解放軍へと襲い掛かる。……それが開戦の合図だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ