140 sideA
コの字型に配置した会議室の机に、参加を呼び掛けた全員が着席した。そして俺は、全員の視線が集まる中央へ移動し、表情を引き締めてから言う。
「この北部奪還作戦において、ギルド部隊を率いるシルバです。よろしくお願いします」
全員とは顔見知りだけど、あえて挨拶を行う。その意図は、真剣に話を聞いてもらうため。これから話す事は、作戦遂行における最重要事項なので……この場の雰囲気を引き締めたという訳だ。
そのため、メリちゃんたちは意図を察し、黙って頷くのみ。事前に話を通してあったエンリケさんやレイナ様も、静かに頭を上下させる。しかし、グレイだけは……。
「指揮官であらせられるシルバ様よぉ。前置きとかは面倒だから……さっさと本題へ移ってくれや」
お堅い雰囲気が煩わしいのか、早く話を進めろと催促してきた。ただ、それを素直に聞き入れる訳にもいかない。……ここに居るエンリケさん以外のみんなには、重要な役割を担ってもらわなければいけないのだから。
「グレイ、とりあえず大人しく聞いてくれ。それと全員、壁に掛かっている地図を見て欲しい」
俺から見たら背面、みんなから見たら前面の壁に、三枚の地図を張り付けてある。大きい物は、トラディス王国全域の地図。中くらいの物は、中部全域の地図。そして、一番小さくて俺がざっくりと手書きした物は、中部中央を南北に縦断し、東西を分割するように存在する大森林地帯の地図だ。
それらには大量の書き込みがされており、そのほとんどがこの作戦に関する軍事情報。互いの兵力や進軍経路、予想会敵地点などなど。そして、兵力的劣勢を覆す一手……この会議における最重要事項すら、すでに書き込んである。
ただし、まずはこの場の全員との情報共有を優先する。この戦争の全体図を把握しておいてもらいたいからだ。
「まずは、大きい地図から」
王国全土の地図を指さし、説明を開始する。
この地図では主に、戦略部分が書き込まれている。こちらの総兵数が一万で、敵の予想兵数が二万。兵力でこちらは半分、兵の練度でも敵側が上回っている。そして、こちらは軍を二分して配置。五千ずつの軍を、中央大森林北端を挟むようにだ。なので、敵側も軍を二分し、こちらの東西両軍を攻撃する事が予想される。
ここまでの説明を終えると、ディンガが手を挙げた。どうやら質問があるようで、俺はディンガに発言を促す。すると……。
「結構な兵力差があるが、これって俺ら冒険者や魔術師を含めた数か?」
「違うよ。あくまでこれは、純粋な軍人の数。総戦力で考えた布陣は、次に説明するよ」
先回りされての質問だったため、俺は次の地図を指さした。中部全域の地図だ。
この地図は、戦術……開戦後の動きが書き込まれている。東西の軍はどちらも、徐々に南へと後退するような動きだ。敵側も軍を均等に割った場合、敵のそれぞれの軍は一万前後。防御に徹したとしても、少しずつ押し込まれていくと予想している。そして、先ほどの地図に無かった部分、ギルド部隊と特務部隊についても書き込んであるのだけど……。
ギルド部隊については、数が確定していない。冒険者・魔術師両ギルドでの依頼受注状況が、この地図を作製した時点では不明だったからだ。なので、予想値となってしまうけど、東西にそれぞれ五百ずつ。東側の部隊を俺が指揮し、西側の部隊をレイナ様が指揮する。そして、グレイが指揮を執る特務部隊二百は、レイナ様側の西に配置予定だ。
二枚目の地図の説明を終えると、行儀よく挙手などもなく、唐突にグレイが発言する。
「俺様の部隊の名称が……特務部隊? 大層な名前をつけちゃあいるが、賊上がりの寄せ集めだぜ?」
特務部隊。それは、グレイ子飼いの野盗集団である。王国から全ての森人が消え、奴隷狩りの仕事が無くなってしまった後、指名手配の一時凍結と給金の支給を条件に、キャンベル家に雇い入れられた一団だ。その特徴としては、加護持ちであるグレイ個人の戦闘力を中心に、部隊全員が騎乗兵としての技能を有している。そして、騎士団や一般兵に任せられないような……汚れ仕事。それらを躊躇なく行えるところだろう。
「だからこそ、だ。戦場を自由に動き回って、敵軍の妨害やかく乱を任せたい」
「……手段は選ばずか?」
「戦時の法やルールに反しないのなら、なんでもありで頼む」
そう言うと、グレイはニヤリと嗤った。きっと、えげつないやり口を披露してくれる事だろう……。そんな事を考え、若干引きつった笑いを浮かべる俺に、ハイランドさんが手を挙げて質問の意志を見せる。なので、「どうぞ」と答えると……。
「これまでの説明で、私たちの名前が出てきていないのですが……どちらの部隊に参加するのでしょうか?」
「……どちらでもありません。ハイランドさん、ジゼルさん、メリちゃん、ディンガ、ドーリス。この五人には、この戦いでの最重要任務を用意してあります」
そして俺は、三枚目の地図を指さした。中央大森林地帯……メリちゃんの住んでいた森周辺の地図だ。
この地図には、正規の軍についての情報は一切書かれていない。代わりに、ギルド部隊の事のみが詳細に書き込まれている。そしてそれこそが、劣勢を覆し得る最重要案件。まずは、ギルド部隊の移動経路から説明していくべきだろう。
ここメティカを進発したギルド部隊は、中部へと到着するまでは一纏まりとなって行軍する。そして、中部の南端……大森林の南端でもある地点で、部隊を三つに分割する。東西に分かれる二部隊と直進する一部隊である。直進という事は……大森林へと突っ込むという事。……奇襲用の別動隊だ。
そこまで言うと察してくれたようで、メリちゃんが手を挙げる。頷いて発言を促すと……。
「この奇襲部隊を、メリたちが担うのですね。でも、森人がいなくなったあの一帯は……」
「そうだよ。マナが滞留し、はぐれ魔獣が発生している。だからこそのメリちゃんたちだよ」
「少数の冒険者と魔術師で、危険の多い森林地帯を突破。敵軍を急襲するのですね」
重要な部分は、すでにばっちりのようだ。ただし、細かい注文は他にもある。例えば、敵側も似たような事を考えているかもしれない。その場合、森林型迷宮などの経験を活かし、敵の別動隊を捕捉殲滅して欲しい。また、奇襲時の優先目標も、敵側の主力級戦力の撃破をお願いしたいところだ。
「結構大変な任務だけど、お願い出来るかな?」
戦局を左右する重要な役割だし、奇襲とはいえ……少数で敵軍に攻撃を仕掛けなければいけない、とても危険な役回りでもある。だから、断られたとしても、なにも文句は言わないつもりだったけど……。
「引き受けるのです!」「やってやるよ!」「承知」
まず、メリちゃんとディンガ、ドーリスが。ほんの少し遅れて……。
「なかなかに骨が折れる役割ですが、引き受けましょう」「勝つためには仕方がないですわね……受けますわ」
ハイランドさんとジゼルさんも、引き受けてくれるとの事だ。本当にありがたい。これでやっと、勝ちの目が見えてきた。
「みんな、ありがとう! それじゃあ、細かいところまで詰めちゃおう」
作戦会議は続いていった。大森林の地理に詳しいメリちゃんを中心に、より正確な地図が作成された。この五人の中核メンバー以外の奇襲部隊要員は、ハイランドさんとジゼルさんがリストアップしてくれた。様々な議題が湧いては解決していき……そして、ほとんどの事柄を決め終わる。
「これで、大丈夫なはず。あとは……実行するのみ。エンリケさん、よろしいですね?」
「ああ。この作戦を承認する。頼んだぞ!」
この場の全員が、力強く頷いた。さあ、ここからは反撃の時間だ!




