137 sideA
エンリケさんやレイナ様との話し合いを終えた後、俺はキャンベル家の屋敷に一室を与えられて数日が経っていた。
勿論、ダラダラと過ごしている訳では無い。領都の冒険者や魔術師と顔合わせを行ったり、部隊長として訓練を任されたり……などなど。また、そういった依頼上の仕事をこなしつつ、女神ラブとも緊密に連絡を取り合っていた。特に、「神の封鎖地」関連の話題を中心にだ。
(アンティス様より、直接お話を伺ってまいりました。どうやら、主様の覚醒が鍵になるようですね)
「制約を破ると封鎖地の結界も破られるって事か……」
何故、封鎖地が封鎖地でなくなるのか。地上に居る俺では分からない事を、神の座のラブに調査を進めてもらっている。しかし……。
(ですが、どのように覚醒へと至るのか。それは、アンティス様にも分からないとの事です)
「神力を蓄える以外にも、なにかしらのきっかけが必要って事?」
そもそもの話、制約というものが謎の多い現象。当然、前例のようなものもなく、負の神々の頂点……嫌悪の神ディスガストを中心に施した術であるようなので、正の神々には情報らしい情報が伝わっていない。だから、どうすれば制約を破る事が可能なのかは不明。よって、時期も不明だ。
(そのようです。ですが、今が好機というのは間違いないとの事)
「なんで?」
(アンティス様の権能”予知”。その権能によって見える未来が、先日の主様とキャンベル家当主との会談で変化した。だからでしょう)
「エンリケさんとの共闘が決まったから、制約を破る未来が訪れる可能性が上がったって事か……」
権能”予知”でも、未来を完全に読み切る事は不可能。あくまで、様々ある未来への分岐の中で、最も辿る可能性が高い未来が見えるに過ぎないとの事。という事は、である。俺が北部奪還作戦に参加する事で、制約を破る”なにか”を行う……又は手に入れる可能性が高くなったという事だ。そのきっかけとなる”なにか”がなんなのかは、現時点では予想もつかないけど……。
(はい。ですので、主様としては気が引けるでしょうけど……積極的に参戦し、活躍をしていただければと)
「北部奪還への意志は固まってるけど、負の国々の軍勢を蹴散らすのは……ちょっとね」
旧王都を含む北部一帯を取り戻すためには、侵攻軍を退けなければいけない。それは、多くの敵兵を手に掛けるという事だ。それが戦争というものだというのは分かってるけど、嬉々として暴れ回るような事はしたくない。だから、活躍と言われてもねぇ……?
(では、ほどほどにお願いします。それと話は変わりますが、分神たち一行がそろそろ到着するようですね)
「シロたちが? よし、出迎えに行こう!」
王都に残って戦っていたみんなは、俺がぶっ壊した南門から脱出。避難を望んだ一万近い市民を連れて南下。道中、いくつかの街に立ち寄って避難民を預けつつ、引受先が無かった数千人と共に、ここ領都メティカを目指して進んでいたのだ。そして、一行がやっと到着するという事で、俺は急いで北門へと走っていくのだった。
メティカ北門を出てすぐの平野部。大勢の人々が移動してくる様子が目に入った。待ちきれず走り出したい気持ちをぐっと我慢し、こちらへの到着を心待ちにする。そしてしばらくして、集団の先頭が到着。そこには、見知った顔がいくつも。俺は喜びと共に声を上げていた。
「シロ! メリちゃん! ディンガ! ドーリス! みんな、無事だったんだね!」
「主様、約束通り合流しましたにゃ。……というか、本体との交信で知っていたはずでは?」
勿論、みんなの安否は知っていた。だけど、実際に姿を見るまでは、どこか不安だった。だからこそ、この目で安否を確かめられたのが……無性に嬉しかったのだ!
「知ってたけど……って、メリちゃん!? 少し見ない間に、随分大きくなったね!」
「そうなのです! メリは絶賛成長期。すくすく育っているのです!」
魔導国で別れて以来、軽く半年以上。物言いこそ幼さが残っているけど、顔立ちや体形から幼さが抜けてきている。きっと、あと一年もすれば……絶世の美少女が完成するだろう。そんな風に保護者視点で眺めていると、ディンガとドーリスも話に加わってくる。
「おい、シルバ。メリサンドが変わったのは、見た目だけじゃねぇぜ?」
「うむ。加護の力も強まり、嫌悪の神人撃退に貢献するほどだ」
「そうなの? 凄いじゃん! って、二人も久しぶり!」
ラブからの話で、多少は聞きかじっていた。俺が逃亡後、魔導国北部の中心都市ガーベラは、嫌帝国軍が包囲。大氾濫の発生によって補給路を断たれるも、短期決戦を目論む嫌帝国軍上層部の判断により、ガーベラへと猛攻を仕掛けたという。そして、その攻撃の中心には嫌悪の神人が居たとも。……その力は絶大で、ガーベラも早々に陥落の危機に陥ったらしい。
しかし、メリちゃんを筆頭としたみんなが粘り抜いて、嫌帝国軍を撤退に追い込んだ。その程度しか聞いていなかったけど、まさか……嫌悪の神人を撃退するほどの活躍をしていたとは。
だって、嫌悪の神人っていったら、俺を除いた神人の中で最強の存在。全員が加護持ちになったとはいえ、みんながまとまって掛かったとしても……正直、分が悪すぎる相手だと思う。だから、その神人を撃退するに至った功労者がメリちゃんという事は、かなりの力を身に着けているのは間違いない。
「メリの加護に掛けられていたリミッターは、全て解除されたのです! なので、みんなの協力もあっての大勝利だったのです!」
「確かに……纏っている神力量が跳ね上がってるね!」
神力視を通して見てみて、以前との明らかな差を感じていた。ホント、外見だけじゃなく……随分頼もしくなったものだと。そう考えながら頷くも、なにかが足りない事に気付いて、周囲へと視線を向かわせる。なにかでは無くて、誰かか。すると、俺の考えを見抜いたディンガが、訊いてもないのに答えを伝えてくる。
「ハイランドの旦那とジゼルは、後から追いついてくる予定だぜ」
「なんで別行動なの?」
「街道から外れた街へ避難する奴らを送り届けてたからだ」
ああ、そういう事か。親戚や知り合いなどの伝手がある場合、王都からの避難民はそちらに振り分けられる。ただし、王都からメティカまでの経路上に無い街も多く、その都度別働隊を組織していたという事か。流石に、避難民を護衛無しで街道を外れた街に向かわせるなんて、人道に悖る行い。最後まで面倒を看るべきという考えだろう。
「じゃあ、二人もすぐに合流するんだね?」
「おうよ! だから、心配なんてしなくて大丈夫だぜ!」
その言葉を聞いて、ほっと胸を撫で下ろした。しかし、そんな時だった――
この集団がメティカの門を抜けるために伸びている列の後方へ、土煙を上げながら迫る騎兵の一団の姿が!
「なっ!? 敵?」
俺は身体強化を最大にして、列の最後尾へと走り出していた。ここまで来て、避難民を襲わせるわけにはいかない、と。ただ、なにやらみんなが叫んでいるのが聞こえる。もっとも、俺の最大速度で離れていっている訳だし、なにを言っているのかは聞き取れないけど……。
そして、騎兵が殺到するよりも早く、俺は最後尾へと到着。剣を抜いて戦闘態勢で待ち構えつつ、騎兵の特徴を確認する。軍旗は無し、装備も統一されていない。……賊か。
そう結論付けた頃には、騎乗した賊の顔を判別出来るほどに近付いており、そして……驚く。
「グレイ!」
そう叫ぶと、あちらも俺の存在に気付いたようで、俺の目の前で馬を降りてから返事が返ってくる。
「シルバじゃねぇか。久々だなぁ」
より警戒しながら構える俺。一切、構えを取ろうとしないグレイ。これは……どういう状況だ?




