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争乱の神人  作者: 富井トミー
第24話 怒り狂う争乱の狂騒曲
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 魔導国内にある魔人たちのアジト。自然の洞窟に多少手を加えただけの簡素なもので、中にいる二人の美女とは……明らかに釣り合いが取れていない。しかし、当の二人の美女たちは気にする風でもなく、ごく自然に会話を楽しんでいた。


「ねぇねぇ、お姉ちゃん。イケメン君たち、もうすぐ逃げ切っちゃうよ? 大丈夫なの?」

「キララちゃん、大丈夫よぉ。負の神たちだってぇ、愚かだとは思うけど馬鹿じゃないわよぉ」

「じゃあこれも、お姉ちゃんの計画通りって感じ?」


 キララの問い掛けに、メリリは首を横に振って否定する。だがその否定は、これまで順調だった事を否定するものではなかった。


「パパが望んでいた事だからぁ、今この状況になってるのよぉ。あくまで計画は、そこまでの筋道を示しただけなの」

「そっか? アタシにはよく分からないけどさ、とりあえず……パパもお姉ちゃんも凄いって事だよねぇ!」

「……そういう事なのかしらぁ? まぁ、そういう事でいいわよねぇ。それじゃぁ、そろそろ出発しましょうか」


 ここには居ないもう一人の魔人ダスターは、一足先に東へと向かっていた。大きな痛手を負った負の国々へ、更なる嫌がらせを行うために。一方、美女魔人たちは、西へと向かって歩き始めていた。目指す先は……。


「正の国へとレッツゴー! 久々のお姉ちゃんとの二人旅だから、張り切っていくぞぉ!」

「キララちゃん、ほどほどに頑張ってくれるだけでいいわよぉ……」


 魔人たちは、再び動き始めていた。しかし、目指す先はシルバたちのもとではない。一体、なにが目的なのだろうか?



 時を同じくしながら、神々の座でも怪しい動きが進んでいた。怒りの女神アンガーと恐怖の女神フィアー。八大神の内の二柱が中心となり、その他にも数柱の負の神々が集結。物々しい雰囲気の中、秘密会議が執り行われている。


「お前たち、侵攻準備は整ってるだろぉな?」


 凄みを利かせながら問うアンガーに、神聖国周辺に庇護国を持つ神々が必死に頷いて返す。数いる神々の中でも特に気性が荒い事で知られる彼女の威圧感に、多くの神々は声すら発する事が出来ずにいたのだ。しかし、この中で唯一の同格であるフィアーは、オドオドしながらも皆のためとばかりに訊き返す。


「じゅ、準備は出来てる……。け、けど……神聖国を落とすには、か、数が全然足りないよ……?」

「ああん? オレがいつ、神聖国を攻め滅ぼすって言った? んな事、言ってねぇだろ!」

「ヒッ! ごめんなさい、ごめんなさい!」


 激しい怒りを身に纏いながら吠えるアンガーに、恐怖に染まったフィアーが謝罪を繰り返す。それを見ていた他の神々は、ただただ身を縮ませるのみ。我が身に矛先が向かわぬ事を願いながら。しかし、願いは叶わなかったようで、アンガーは先ほど頷いたのとは別の神々を睨みつけ、威圧的な声色で問い掛ける。


「当たり前だとは思うが……内海沿岸国の海上部隊、移動は開始させてるよな?」


 機嫌を損ねまいと、沿岸国を庇護する神々がぶんぶんと頭を上下させる。ただ、いずれの神も計画の全容は知らされておらず、アンガーからの命令に従うばかりだったため、ここでやっと作戦の全容が見えてきたようである。陸海同時侵攻。これならばと思ったのか、すっかり恐怖から立ち直ったフィアーが再び問う。


「こ、これなら……し、神聖国を落とせるかもしれない……。け、けど……こ、こっちの被害も甚大だよ?」

「お前さぁ、さっきの話……忘れたのか? オレ、言ったよな? 神聖国を滅ぼすのが目的じゃねぇって!」

「あぅぅ……ごめんなさい、ごめんなさい!」


 再びのやりとりに、神々は恐怖と共に疑問を感じていた。なら何故、船団を神聖国の沖合に集結させるのだ、と。しかし、アンガーを恐れるあまり、誰もが問い掛ける事は出来ず、そして……。


「陸上部隊は、オレの合図で進発させろ。海上部隊は、神聖国南東沖で待機だ。徹底させろ、いいな?」


 一同、黙って頷く事しか出来なかった。そして、解散の合図で散らばった神々を見遣りながら、アンガーは独りごちる。


「オレの怒りをぶつけるため、しっかり働いてくれよ? そして、待ってろ……シルバ。名を変えたところで、お前への溜まりに溜まった怒りは収まらねぇよ」


 怒りを司るアンジーという女神は、苛烈なだけの存在だと思っていたのなら……それは誤りだ。メラメラと燃え盛る怒りもあれば、ジリジリと静かに燃え広がるのもまた怒り。その性質は彼女にも言える事で、必要とあらば周到に準備を整える。派手に火の手が上がっていないと油断をすれば、足元にはすでに……いくつもの火種が潜んでいるのだ。そして、気付いた時には手遅れ。灼熱の炎に焼き尽くされるという訳だ。


 遠見の術によってシルバを眺めるアンガーの瞳には、小さくも力強い怒りの炎がチロチロと揺らいでいるのだった。



 一方、そんな事を露ほどにも知らぬシルバたちは、神聖国を東へと進んでいた。しかし、森人(アールヴ)が多い国という事もあり、移動に適さない森林地帯を多く抱えるこの国は、否応なしに歩みを遅らせに掛かってくる。だが、シルバは勿論、シロでさえも焦りの感情を微塵も感じさせない。……火の手が迫っている事を知らぬから、だろう。


(分神、周辺の負の国々が、侵攻の準備を整えていますよ)

「本体、その数は……神聖国を落とすに足るかにゃ?」

(いいえ、足りないでしょうね)


 満足げに頷いたシロはその情報を内心に留め、シルバへの報告を見送った。当然、移動の足を速めるような事もなく、それまで通り確実に、焦る事もなく……。



 その後、神聖国横断を進めていたシルバたちは、トラディス王国国境まで一週間ほどの距離へと到達していた、そんな時だった。


(分神、侵攻が始まりました。ですが……)

「随分のんびりな動きだにゃ。それで、ですがの続きは?」

(怒王国軍のみ、静観の姿勢です。それと……)


 妙に勿体ぶる愛の女神ラブの話し振りに、シロは苛立たし気な声を上げる。


「本体! もっとはきはき喋るにゃ! それで?」

(神聖国南東沖に、負の国々の大船団が……)

「にゃ!? そっちが本命? でも、今更攻撃を開始しても遅いにゃ」


 すでにトラディス王国は目前。陸上と海上からの挟撃を受けたところで、神聖国は容易に崩れない。そう考えたであろうシロは、すぐさま冷静さを取り戻していた。そして、言う。


「驚きはしたけど、旅程に変更は不要にゃ。それよりも、本体。海上索敵が杜撰すぎるにゃ!」


 そうは言うものの、遠見の術というのは万能な訳では無い。地上のあらゆるところを同時に把握できるものではない以上、内海を進むいくつかの船団を捕捉するなど不可能である。ゆえに、ラブは反論する。


(無理を言わないで下さい。このタイミングで気付けただけマシだと思いなさい、分神)

「……まあ、そういう事にしておくにゃ。それで、報告は以上にゃ?」

(ええ。念のため、船団の動きと怒王国軍の動きは入念に監視しておきましょう)


 交信が途絶え、シロは考えていた。流石にこれは、主へと報告すべきだろうと。なので、いつの間にか離されていたシルバへと駆け寄り、現状を説明する。その上で……。


「焦りは不要のはずですにゃ。なにより、最も面倒な怒王国が侵攻を躊躇している今がチャンスですにゃ」

「そうなのかな? なんか俺、凄くヤバいんじゃないかって思うんだけど?」


 シルバの感じていた予感は、決して間違ってはいなかった。しかし、すでに手遅れ。もし、早い段階で急ぐ事を決断出来ていたのなら、状況は大きく違っていた事だろう。ただし、それが良かったのか悪かったのかは、人によって様々だっただろうが……。

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