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「魔術師ギルド隊は左翼の援護へ! 冒険者ギルド隊は中央に展開せよ!」
魔導兵団北東方面軍司令が、ギルド戦力へと指示を出していた。このような光景が見られるようになってから、すでに数日が経っている。というのも――
嫌帝国軍によるギルド員襲撃事件。自衛のための戦闘により、襲い来る嫌帝国軍は撃退されていた。しかし、冒険者や魔術師にも犠牲者が出た事もあり、両ギルドは嫌帝国へと抗議。謝罪と再発防止を求めたのだったが、嫌帝国の対応はというと頑なな拒否。それどころか、シルバを引き渡さない非協力的態度、魔導国へ過剰な肩入れをしているとして逆に抗議。嫌帝国とギルドの間に、不穏な空気が満ち満ちていった。
そして、数日後。再びの襲撃が起こる。再発という事もあり、両ギルドはより強く抗議。しかし、嫌帝国は「神意に従ったのみ」と抗議を退ける。それにより、ギルドと嫌帝国の関係には、修復が困難なほどの亀裂が入る事となった。
しかし、この問題は更なる広がりを見せたのだった。それは、嫌帝国以外の侵攻国も、神意の達成を妨害する敵だとしてギルド員を攻撃。負陣営全体が、ギルドに対しての武力行使に賛同したのだ。
事ここに至って、両ギルドは決断を迫られていた。逃げるのか、それとも戦うのかだ。
戦場からの完全撤退を選べば、ギルド員の当面の安全は確保される。それに、三つ巴の争いだった戦場も、魔獣の湧出が抑えられた今となっては、魔獣のほとんどが駆逐されており、魔獣被害もほぼ出ていない。両ギルドとしては、無理に戦場に残る意味が無いとも言える。
しかし、両ギルドの存在理由は魔獣の討伐だけではない。ギルドというのは平和を維持するための組織であり、その業務の中には賊の捕縛又は討伐も含まれている。数々の国家間の取り決めを破っている負陣営による侵攻軍は、平和を脅かす賊軍とも言えるのである。中立組織としての視点で見れば、侵攻軍との戦闘は許されざる行為。だが、平和維持組織としての視点で見れば、無動を働く賊軍との戦闘は正しき行いとも言えるのだ。
グランドマスターを失っている両ギルドは、統率を欠きながらも決断した。侵攻軍を賊の集団と指定し、大規模な討伐依頼として発令する事を――
このような事があって、ギルド戦力は魔導兵団と協力。指揮系統の一本化を図るため、軍の指揮下へと置かれる事となったのだ。これにより、劣勢だった魔導国側は勢いを取り戻し、各地の戦線は膠着状態に突入したのだった。
一方、侵攻軍の姿の無い方面でも、魔導国やギルドの戦力は戦況を覆していた。シルバ一行が手を貸している北部は勿論、北西部と西部の大氾濫中の迷宮へも防衛線が到達。迷宮の包囲封鎖が完了し、北部ではシルバ一行が。他の二方面でも、多くの冒険者と魔術師たちが犠牲を払いながらも……キング格の討伐に成功。そのまま、マナ散らしの作業へと移っていっていた。
北部の大氾濫迷宮「海辺の要塞」でもゴーレムキングが復活していたように、キングを討伐するだけでは大氾濫は終息しない。しかし、継続的にマナを消費し続ければ、終息とは言えないまでも、魔獣が無尽蔵に湧き出る事態は抑えられると踏んだのだ。そして、その読みは当たっていたようで、対魔獣戦線は小康状態を保つこととなったのだった。
対負陣営戦線は膠着。対魔獣戦線は小康。魔導国上層部は、山場を越えたと喜んでいた。対魔獣方面に余剰戦力が生まれつつあり、対負陣営へと増援を送る動きも活発化していたそんな矢先の事だった……。
「魔導王陛下! 至急の連絡が!」
「何事だ? もしや、いずれかの敵国を押し返したか?」
「……いえ、逆であります。それも、多くの戦線で、です……」
ちょうど王の間へと集っていた魔導国上層部の面々に、緊張が走った。それまでの穏やかな雰囲気は一変し、それぞれが険しい表情を浮かべている。そんな中、魔導王は冷静に努め、伝令員へと詳細を訊ねる。
「詳しく聞こう。なにがあった?」
伝令員は青ざめた顔色で頷き、各方面から寄せられた情報を伝えていった。そして、それらを聞き終えた魔導王は、玉座から崩れ落ちながら言う。
「神人と加護持ちを温存していたとは……。戦線の立て直しは……絶望的か」
負陣営の国々は、対シルバを想定して戦力を別途準備していた。それが、それぞれの国が信奉する神に属する、神人と加護持ちからなる部隊。その部隊を膠着した戦線へと投入。少人数ながらその力は圧倒的で、あっという間に戦況が覆ってしまったという事だ。
敗れた魔導国軍は、それぞれの方面の中心都市へ撤退。それを追う負陣営の軍は、都市の包囲へと着手する構えのようである。しかし、神人たちの武威の前に……多くの兵を失った魔導国軍としては、都市の壁を頼りとしても、包囲軍を跳ね除ける力が残されていない事は明らかだった。そして、余剰戦力を救援へと向かわせたところで、各個撃破される可能性が濃厚。ここにきて、再び魔導国は追い詰められてしまったのだ。
「どういたしますか、陛下?」
「……余剰戦力をここ、ゼフィランサスへと集結させよ。決戦に備える」
「……承知いたしました。民衆の避難も進めさせます」
「任せた」
魔導王は各方面の救援を断念。魔導先進国の技術の粋を集めた防衛機能を持ち、首都でもある中央魔導都市にて迎撃する事を決定。その決定から半月後には、それぞれの中心都市が陥落。多くの侵攻軍が中央を目指して進軍を開始した。しかし、北東方面の嫌帝国軍だけは別行動を取り、一路北部へ。それは、シルバの身柄を確保するための動きだった……。
その頃、シルバ一行はガーベラの街に戻っていた。大氾濫迷宮も落ち着いてきたため、しばしの休養を取っていたのだ。しかし、そんな穏やかな時間も、女神ラブからの交信によって終わりを告げる。
(皆さん、大事なお知らせがあります。至急、主様の宿部屋へと集合を)
休暇中だったため別行動中のシルバたちであったが、ラブからの指示によって宿の一室へと集まる。そして、それぞれが覚悟を決めた表情を浮かべていた。というのも、他方面の戦況は、この場の全員が把握している。遠見によって得られた情報は、ほとんどが共有されていたからだ。なので、この集合の意味も……全員が理解していたのだ。来るべき時が来たのだ、と。
「本体、敵がこちらに向かっているのですにゃ?」
(はい。嫌帝国軍の半数、およそ一万五千。そして、嫌悪の神人及び加護持ちが数人です)
対して、魔導兵団北部方面軍は三千ほど。多くが中央魔導都市防衛に向かったため、残された兵力は僅少。その不足を補うべき冒険者や魔術師も、千に届くかどうか。街の壁に関しても、大氾濫で溢れた魔獣との戦闘で一部が破壊されている。……絶望的な戦力差だろう。
「ガーベラへの到着は、早くて二十日。遅くとも一か月ってところかにゃ?」
(そうですね。騎兵を先行させる様子は無いので、一か月と考えれば良いはずです)
戦力を分断するつもりがない以上、一万五千の兵が一か月後、この街に一斉に襲い掛かるという事だ。勿論それは、シルバを捕縛ないし殺害するために……。
「主様、西へと逃亡しますにゃ」
「いや、俺は残る! そして、戦う!」
シルバの反応に、シロはやはりとため息を吐く。そして、ギルドからの依頼という形で嫌帝国軍との戦闘が可能である以上、こうなる事が予想が出来ていたため、シルバ以外の全員へと視線を向かわせて合図を送る。すると……。
「駄目なのです! シルバさんは逃げて下さい!」
「そうだぜ。お前は逃げなきゃいけねぇんだ、そうだろ?」
ディンガが誰にでもなく問い掛けると、ハイランドもジゼルもドーリスも……迷わず頷いて応えたのだった。




