表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
争乱の神人  作者: 富井トミー
第23話 逃避行
119/149

118 sideC

 主様たちは、順調に防衛線の押し上げを進めていっています。一時期はガーベラの街にまで後退していた前線も、今では街から一日以上の距離にまで前進させました。まあ、主様が力を貸しているので当然でしょう。


 ただ、北部の戦況は好調でも、他の方面の戦況は……芳しくありません。


 まず、魔導国軍と負の国々の軍との争いは、負の国々が優勢。魔導兵団が精強とはいえ、戦力の分散、大氾濫(オーバーフロー)からの防衛による疲労や物資の不足、総司令官の不在などが影響し、なんとか持ち堪えているというのが現状でしょう。


 それに、負の国々との戦闘が行われていない方面も、大氾濫迷宮(ダンジョン)の攻略が難航している模様。北部以外の対魔獣(モンスター)戦線は迷宮にまで到達し、包囲を続けているようですが……やはり、個の力というのが足りていません。要するに、キング格の魔獣を討伐できるほどの戦闘力を有する個人の不在。そして、キングを討伐出来たところで……大氾濫が収まる訳ではない。そんな事情も、士気の低下に繋がっているようです。


 このような状況なのですから、いかに超大国である魔導王国ゼフィラントとはいえ……耐え忍ぶ事しか出来ないでしょう。


 しかし、負の国々は攻勢の圧を強めていっています。追加の侵攻軍を組織し、次々に魔導国内へと侵入。数による暴力によって、魔導国を蹂躙する構えです。そして、それを可能としているのが、大氾濫迷宮の異変でしょう。


 突如としてマナの流入の途絶えた迷宮。魔獣の湧出も停止し、迷宮内の魔獣が溢れ出る事も無くなっています。これは、本体の遠見の術によって確認した事なので、紛れもない事実。そしてそれが、結果として負の国々に利する展開なのも……。


 ほとんどの者が、負の国々の侵攻開始は大氾濫終息後と予想していたのも、魔獣が溢れ出る迷宮が危険であるがため。迷宮を無視し進軍すれば、前面に魔導国軍、背面に魔獣の群れという……前後二正面戦闘を余儀なくされるためだったのです。しかし、多くの予想に反し、負の国々は早期に侵攻を開始。迷宮の活動停止も相まって、負の国々は優位を維持しているのが現状なのです。


「本体、そろそろ調査も完了したにゃ?」


 これらの状況を整えているのは、管理者の手足である魔人たち。ですが、彼らの目的は神の子らの殲滅であり、負の国々の勝利が目的ではないはず。ならばと思い、ある事を本体に調査を依頼していました。そして、そろそろそれも完了しただろうと声を掛けたのですが……。


(分神、神使いが荒いですよ! まったく……一体、いくつの迷宮を探っていると思っているのですか)


 依頼内容は、大氾濫迷宮周辺にある迷宮の調査。具体的には、マナの流入量やマナ濃度を……数十の迷宮全てで確認する事です。この調査の意図というのは、魔人たちの次なる一手を予想するためです。


 というのも、どのような手段を用いたかは不明のままですが、大氾濫迷宮がマナの流入を行わなくなった事は覆らぬ事実。魔人たちにとって負の国々だけを利する理由がない以上、この策には続きがあるはず。ならば、それは? そう考えた時に思い付いたのが、周辺迷宮でも大氾濫を発生させるという……恐るべき仮説。現状を考えれば、実現の可能性は決して低くないはずです。


 大氾濫発生によって、一帯のマナ濃度は高い状態が続いています。なので、周辺迷宮もその影響で、魔獣の活性化が進んでいるはず。その上で、魔導国軍と負の国々の戦闘が発生し、大規模な魔術戦が行われるとなれば……周辺迷宮のマナ流入量は更に増加するはずです。しかも、大氾濫迷宮からは流入が止まっているため、周辺迷宮ではより多くのマナが流入する。この、私たちにとっての悪循環、魔人たちにとっての好循環によって向かう先は……これまで以上の大氾濫の多発しかありません。


「本体。とりあえず、全部でなくていいにゃ。現状で分かる範囲で報告を頼むにゃ」

(……なんて偉そうな。まあ、いいでしょう。それでは――)


 本体からの調査報告を受けて、私は確信しました。仮説の通りで間違いないでしょう、と。そして、それが分かったところで、私には食い止める力がないという事も……。


 ですが、無駄にするつもりもありません。魔導国東方及び南方全域が大混乱に陥ると分かっているのなら、主様の退路についても事前に考えておく事が可能です。西方に抜けるしかないという事を。ただ、「神の封鎖地」へ向かうためには、大回りしなければならないという事でもありますが……。


 最短経路である南下ルートを進むのであれば、トラディス王国の北端まで三か月少々という距離。一方、西からの迂回ルートを進むのであれば倍、半年ほどの距離だと考えます。そして、そこから王国を縦断するのに一か月近く掛かる事も考えると、かなりの長距離移動となってしまいます。


 しかし、です。それでも西へと向かうしかないでしょう。主様の身の安全はもとより、心の平穏を考えればこそ……です。


 南下するのであれば、魔獣以外にも、負の国々の兵と遭遇する事となるでしょう。そして、負の神々からの大神託を授かった兵たちは……盲信者となって、主様に襲い掛かる事でしょう。魔獣による被害など顧みる事無く、です。そうなった場合、主様とて身を護るために戦わねばなりません。冒険者うんぬん、民間人うんぬん関係なくです。


 しかし、その負の国々の兵たちは、”敵”であっても”悪”ではありません。野盗の(たぐい)のように明確な”悪”ではなく、ただ負の神々に唆された……哀れな操り人形なのです。そんな相手を斬る事は、主様の御心を苦しめるでしょう。主様の神性すらも穢してしまうやも知れません。なので、逃れるのなら西なのです。


 退路についての大方針は決定しました。あとは、細部を詰めていくのみでしょう。そんな風に考えながら、最前線で獅子奮迅の働きをする主様へと視線を向けました。


「あの様子では、逃走を決意して頂けるのは……まだまだ先になりそうにゃ」


 きっと、退路が無くなる寸前まで、主様はここに残るだろう。なら私は、その状況を織り込んだ上で計画を立てるのみ。そう意気込んだ時でした――


(分神! 緊急事態です!)

「なんですにゃ、本体……。交信なのですから、叫ばなくても聞こえますにゃ」

(北東部戦線において、嫌帝国軍が冒険者や魔術師へと襲い掛かりました!)


 確かに……緊急事態でした。本体が取り乱すのも納得です。それにしても、嫌帝国軍はなにを思って……いえ、違いますね。これも、魔人の計画の一つでしょう。どうやっての部分はやはり分かりませんが、魔人側の立場から考えてみれば……何故という部分は、非常に分かりやすい。


 負の国々と中立組織であるギルドを争わせる。更に言えば、大氾濫を多発させた後の事まで考え、迷宮探索の専門家である冒険者とマナを散らす事が出来る魔術師。彼らの数を減らしておきたいとまで考えていそうです。抜け目ない魔人たちらしい、嫌らしくも効果的なやり口です……。


 しかしこれは、魔導国としては朗報ではないでしょうか。このような事が続けば、ギルド勢力は自衛のために……負の国々と敵対する道を選ぶ事になります。劣勢の魔導国としては、戦力が拡大する事に繋がり……戦線の立て直しの可能性も見えてきます。


 ですが、私としては微妙なところ。だって、ギルド員が戦争に介入出来るとなれば……主様も向かうと言い出しかねません。なのでしばらくは、この情報は伏せておきましょう、主様にだけは。そしてその間に、周囲への根回しを進めましょう。最悪の場合、現在のパーティを離脱し、主様のみ逃走する事も視野に入れながら……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ