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争乱の神人  作者: 富井トミー
第23話 逃避行
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 大氾濫(オーバーフロー)を起こしている迷宮(ダンジョン)「海辺の要塞」を攻略したシルバ一行は、防衛線を援護しつつ突破。ガーベラへと帰還し、冒険者ギルドへキング討伐の報告を行っていた。


「――というような形で、ゴーレムキングを討伐しました。ですが……」


 ハイランドが代表して、迷宮内の様子やキング討伐までの状況を説明。その続きを口にしようとして、一瞬迷っていた時だった。


「ライラック支部より、連絡は受けています。……再活性化の可能性が高い、のですよね?」


 支部長は表情を曇らせながら、ハイランドの言いたかった事を代弁した。どうやらギルド内ではすでに、キングの討伐だけでは大氾濫が終息しない事を把握しているらしい。


「ええ。一時的には魔獣(モンスター)の湧出が減少するでしょう。しかし、その後……キングも再出現する可能性が」

「キング級も……復活するのですか!?」


 驚きながらも聞き返してくる支部長に、ハイランドは頷く。そして、情報の根拠を説明する。


「はい。『獣種混成の森林』のキングに関しては、愛の女神様より賜った情報ですので……」

「神託という事ですか……。それでは、間違いありませんね。少々失礼させていただきます」


 情報の確度を理解したようで、支部長は通信用魔具へと向かった。そして、いくつかの場所へと情報を共有してから戻ってくると……。


「ライラック支部では現在、迷宮内の掃討及びマナ散らしが開始される予定でした。ですが、この情報が無ければ……」


 S級魔獣であるキメラキングへの備えなく開始されていれば、突入部隊は返り討ちに遭っていただろう。だがこれで、無用な人死には減るはずだ。支部長もハイランドも、胸を撫で下ろしながら頷いていた。そして、ハイランドは別件を切り出す。


「それで、私のこれからについてなのですが……総本部からの通信などはありませんでしたか?」

「ええ、総本部より連絡がありました。総本部への召喚命令については、取り消すとの事です」


 状況が状況である。大規模な侵攻を開始した負陣営に対し、今更交渉を行っても無意味だと判断が下されたようだ。それによって自由を得たハイランドは、北部戦線への協力を申し出てから、一行は冒険者ギルドを後にした。


 その後、同様のやりとりを魔術師ギルドでも行い、一行は防衛線の押し上げに向けて動き出したのだった。



 一方、最も早く侵攻を開始していた嫌帝国軍は、高い士気を維持したまま、北東部及び東部を進軍していた。信奉する負の神々からの大神託の効果は絶大で、末端の兵士に至るまでやる気に満ち溢れ、大氾濫が継続中の迷宮より湧き()でる魔獣を蹴散らしながら、遂に迷宮へと到達した。


 その時迷宮で、不可思議な現象が発生した。絶え間なく溢れ出てくるはずの魔獣の湧出が……止まった。この現象は、魔人メリリが”操作”の権能によって引き起こした事だったのだが、そのような事を知るはずも無い嫌帝国軍の指揮官級の者たちは、これを好機とみて迷宮を放置。進軍を再開する。そして、しばらくの後……魔導国側の対魔獣防衛線へと到着。魔導兵団、冒険者、魔術師、魔獣……。それらが入り混じる戦場へと、嫌帝国軍も攻撃を開始したのだった。


 嫌帝国の動きに遅れる事数日。他の負陣営の国の軍も、迷宮からの魔獣湧出が途絶えている事を確認し、次々に魔導国軍へと襲い掛かった。これにより、魔導国の東方全域と南方全域では、魔導国軍と魔獣の争いに加え、負陣営の軍による戦闘が発生し……三つ巴の争いが繰り広げられる事となっていった。


 これらの負陣営の動きに対し、魔導国上層部は徹底抗戦を決意。中央からの増援を各地に派遣し、敵軍の撃退へと動き出していく。それと同時に、負陣営の国との国境線を持たない西部と北西部、外海と面するのみの北部より、戦力の抽出を考える。しかし……。


「何故だ! 負の国々が攻め寄せる方面の大氾濫は沈静化し、我々のみが支える方面は……大氾濫が続くとは!」

「魔導王陛下……。これはもしや、負の神々の仕業では?」


 魔導国の頂点である魔導王は、激しく憤っていた。負陣営による被害の無い方面から戦力を回したくとも、その方面に限って……大氾濫は終息の兆しすら見えない。密偵からの情報では、負陣営の攻め込んだ方面の大氾濫迷宮は、その活動を停止しているなんて報告も入ってきているのに、だ。


 なので、臣下たちは言ったのだ。負神たちの仕業だと。それを聞いた魔導王は、とある事を思いつく。


「シルバとやらの身柄、差し出す事は可能か?」

「そ、それは……。可能ではありましょうが、彼の者は冒険者にして魔術師ギルド員。差し出すとなれば……ギルド勢力との衝突も起こり得るかと」

「クッ! それは不味いな。この情勢でギルド勢と対立する事となれば、いよいよ立ち行かなくなってしまう、か……」


 負陣営による侵攻の拠り所は、神々からの神託。その要求を呑めばとも考えたようだが、その一手は完全な悪手だと考え直す。


「現状の戦力でやりくりする。これが一番だと思われます」

「そのようだな。では、全軍に通達せよ。我が国の威信、愚か者共に見せつけてやれと!」

「ハハッ!」


 こうして、魔導国と負陣営の国々の争いは、白熱の一途を辿る事になる。世界一の大国という意地、自国を守ろうとする人々の意志に支えられる魔導国側。負の神々の言葉に従い、神々の尖兵として振舞う負陣営側。その構図はまるで、人と神が争うかの様相を呈していたのだった。



 国同士の争いが激化していく中、冒険者・魔術師ギルドは対応に苦慮していた。国家間の戦争に、ギルドとして介入する事は出来ない。しかし、その戦場には討伐すべき敵……魔獣も居る。戦争が主眼となっていく戦場をすり抜け、人里を目指す魔獣も現れ始めている。なので、完全に撤退する訳にもいかない。暫定的にだが、戦場後方に陣取り、戦場より漏れ出た魔獣への対応に回っているところだ。


 不幸中の幸いと言うべきか、事前の手回しの結果と言うべきか。両陣営が戦端を開く直前、いずれの戦場においても、冒険者や魔術師は後方への退避が間に合っていた。よって、戦争に巻き込まれ、被害に遭ったギルド員というのは存在せず、その事だけは……ギルド上層部も安堵している。しかしながらこれは、現状ではと付け加えるべき案件でもあった。


 最も早く開戦した北東部戦線では、退避の判断が少しでも遅ければ……ギルド員への被害が出ていた事は間違いなかったからだ。というのも、嫌帝国軍はこれまでの慣習やルールを無視し、事前の避難勧告を怠った。軍からすれば民間人に分類されるギルド員諸共、攻撃の対象として開戦したという訳だ。それにより、ギルド上層部も警戒せずにはいられない事だろう。民間人保護及びギルドの中立性が、脅かされるのではないのかと。


 戦場後方に控えるという現状も、魔導国軍が戦線を維持出来ているからこそ……なにも起こっていないだけ。もし、負陣営が戦線を突き破った場合、ギルド員たちは保護されるのだろうか?


 冒険者・魔術師ギルド上層部が一堂に会した会議の結果、暫定対応をそのまま継続する事が決定された。負陣営の国々の善性を信じ、ギルド員に危害を加えないと判断した形だった。しかし、その信頼は後に……裏切られる事となる。全ては、魔人たちの掌の上という事だったのだ……。



 魔人メリリは嗤っていた。北東部の戦場を眺めながら、心底嬉しそうでありながら邪悪に。


「うふふふふ、そろそろ頃合いかしら? ダスター君を騙し裏切ったくせに、高みの見物なんて許さない! さぁ、毒沼の中にご招待いたしますわ、あはははは!」

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