114 sideA
負の神々による大神託は、未だに頭の中に直接送り込まれてきている。俺の特徴やら罪状やら、その他諸々を長々と語っている。しかし、俺の目の前には……大神託以上の問題が立ちはだかっていたのだ。
どこから現れたのか……いつの間にか、目の前に居たのだ。それは、魔人たち。ダスターともう一人。もう一人の只人と思しき女性も、ダスター並みのマナを取り込んでいるように見えるから、一目で魔人だと断定できた。つまり、一人であっても苦戦を免れない魔人が、ここには二人居るという事。大神託など気にしてられないほどの大問題だ。
さで、どうしたものか。こちらは瞬時に戦闘態勢に入るも、魔人たちは身構えるような素振りも無い。しかし、安易に手を出そうとも思えない。だって、俺ですら……二人の接近に気が付けなかったのだから。以前、ダスターと戦った時には、うっすらとだけど気配は追えていた。なのに、今回は……。
こちらからは手出しが出来ず、さりとて魔人たちも攻撃こそしてくる様子もない。睨み合いがしばらく続いていたが、その状況をダスターの一言が終わらせる。
「ちょいと話をしようぜ」
俺以外のみんなは、その言葉を聞いても警戒を解かずにいた。多分だけど、奇襲や騙し討ちのような事を想定しているんだろう。しかし、俺は……。
「分かった。話を聞こう」
対話を求めてくるのなら、例え……魔人であろうと魔獣であろうと、俺は受け入れたいと思っている。そんな俺に対して、みんなが言う。
「おい、シルバ。あいつらの事だ。なんか企んでるだろ」
「そうなのです。油断させておいてザクッとしてくるのです、きっと……」
確かに、みんなの言う事は理解出来る。しかし、だ。そんな事をする必要があるのだろうか。だって……。
「そんな事しなくたって、魔人たちは俺たちを皆殺しに出来るはずだし……」
突然現れたのは”消失”の権能だったとして、以前とは違って感知出来なくなっている。なので、俺とダスターが戦えば……なんとか抑え込むのが精一杯だ。という事は、もう一人の女性の魔人は、みんなが対応する事になるんだけど……果たして勝てるか? いや、難しいだろう。ダスターの”消失”はもう一人の魔人にも適用出来るようだし、そのもう一人の魔人だって……きっと、権能を使ってくるはずだ。未知の権能を……。
そんな事情も相まって、対話を受ける以外の選択肢は存在しないのだ。
「そうですね。勝ち目が薄いのであれば、まずは話を聞いてみましょう。戦闘は……最後の手段という事で」
ハイランドさんは冷静に分析出来ているようで、最低限の警戒を残しながら、魔人たちとの対話を支持する。そんな姿を見て、他のみんなも渋々ながらに納得。魔人の話を聞く姿勢が整っていた。
「賢明な判断だと思うぜ。まあよ、俺としては戦いたかったんだがよお」
「ダスっち! お姉ちゃんの計画なんだから、ちゃんと果たそうよ……ねっ?」
「チッ! 仕方ねえな。それじゃあ、伝えるぞ。……お前ら、尻尾を巻いて逃げろよ。以上だ」
対話というよりは要求。それに、聞き逃せないワードも含まれていた。女性の魔人が言っていた”お姉ちゃん”なる存在。それが失言での暴露なのか、狙っての発言なのかは分からない。しかし、俺たちとしては厄介な情報には違いない。だって、第三の魔人の影がちらついている訳だから、要求を聞き入れなければ……と、言外に脅されているようにすら感じる訳だ。
しかし、解せない。ここで俺たちを消すという判断を下さず、あえて逃げろと言う理由が。だからだろう。俺は対話を試みた。
「待て、ダスター。何故、俺たちを見逃す? お前にとっては、その……憎むべき存在なのだろう、俺たちは」
立ち去ろうとしていた魔人たちを、引き留める。なるべくダスターの気を引けるような言葉によって。その思惑通り、ダスターはこれまで抑えていたであろう殺気を迸らせ、忌々し気に口を開く。
「ああん? 俺だってなあ、この手でお前らを殺してやりてえよ! だがな……計画は計画。仕方ねえから見逃すんだよ!」
「どうどう、抑えてダスっち。ちょっとぉ、イケメン君! ダスっちを刺激しないでよ」
どこか真剣味に欠ける女性魔人の抗議に、俺は苦笑してしまう。なんというか、俺に仲間のみんなが居るように……魔人側は魔人側で、仲良くやっているのだと考えてしまって、だ。しかし、和んでばかりもいられない。少しでも情報が欲しい。ならば、敵意を向けてこない女性魔人へと話を振るべきだろう。
「ええと、見目麗しい魔人さん。貴女もダスターと同意見なんですか?」
「ちょっとちょっと。見る目あるじゃん、イケメン君! 特別にキララって呼ぶ事を許してあげよう! で、なんだっけ?」
キララという名の魔人は、素なのか演技なのか……掴みどころ無く、翻弄するかのように返答してきた。なので、もう一度。質問を投げかけてみる。
「キララさんは、俺たちを見逃してもいいと考えてるんですか?」
「うん、当然じゃん! だって、お姉ちゃんの計画なんだし。だーかーら、さっさとこの国から出てってくれると嬉しいかな」
やはり、俺たちを逃がすというのは、魔人側にとっての総意のようだ。そして、それらを取りまとめているのは……”お姉ちゃん”という魔人なのだろう。という事は、これまでの一連の事件は全て、その”お姉ちゃん”の計画によるものという事だろう。ならば、聞くべき事は……。
「ちなみに、その”お姉ちゃん”というのは?」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだし。っていうか、あんまり詮索されるのは好きじゃないんだ、アタシ」
流石に、簡単には情報を得られないか……。そう考え、別の質問を用意しようとしていた時だった。
「おい、キララ! 無駄話はもう終わりにしろよ」
「はいはい、仕方ないなぁ。んじゃ、最後に一つだけ。この幕でのイケメン君たちの出番は終わったの。だから、ステージからは早く降りてね、バイバイ」
そう言うと、二人の姿は消え去っていた。”消失”の権能だろう。そしてその頃には、負の神々による大神託も終わっていた。途中からはそれどころではなかったし、ちゃんと聞いていた訳では無いんだけど……大まかな内容としてはこうだ。
俺を捕まえるため、負側の国々による侵攻は天意に沿った行いだ。俺の居場所は分かっているから、どこまでも追い詰めてやる、と。そんな内容を、いかにも偉ぶって回りくどく、そして……威圧的に。なんていうか、負の神々らしく語っていた感じだ。
そうなってくると、俺の行動次第で……様々な影響が出てきてしまう訳なのだが。一体、この先……どうすべきだろうか?
「主様! 魔人たちの要求に従うべきにゃ!」
予想はしていたけれど、シロは逃走・逃亡を推してきた。しかし、本当にそれでいいんだろうか?
「おい、シルバ。このまま逃げるにしてもよぉ……どこへ、だ?」
それが問題だ。どこに向かったとしても、負の神々の捕捉からは逃れられない。遠見の術がある限り、常に監視されているとみていいだろう。という事は、負の国々も……俺が居る国へと攻め込むという訳だ。……俺が滞在すれば、起きなくても良かった争乱が起こるという事。
「『神の封鎖地』ですにゃ!」
シロが勧める絶対的な避難場所「神の封鎖地」。確かにあそこであれば、負の国々も手を出せないだろう。ただし、そこに向かうまでの道のりは……非常に長い。魔導国を南に縦断し、神聖国を通り抜け、トラディス王国をも縦断する。そんな事をすれば……この大地の中央部で、大争乱が巻き起こる事になる。いくらなんでもそれは、許容できないだろう……。




