113 sideB
遂に、シルバさん本人も……自身の正体に気が付きました。そしてそれを、みんなにも伝えました。その上で……。
「あのさ、今まで通りの扱いをしてくれると嬉しいんだけど。ただのシルバとして接してくれれば……」
そうは言うものの、ディンガさんもドーリスさん、ハイランド様やジゼル様だって……どう答えていいのか困ってしまっています。
それもそうでしょう。本来であれば、決して直接言葉を交わす事の出来ない相手。崇め奉り、敬い跪くべき存在。それが、シルバさんの正体なのですから……。
この事に気付いた時のメリも、正直困りました。ですがその時も、シルバさんはそれまで通りを望んでいました。なので、正体に気付いた今でも、その考えが変わらないという事は、シルバさんが心から望む事なのでしょう。だったら……。
「シルバさん、当然なのです! シルバさんがどれだけ凄い存在だろうと、シルバさんはシルバさんなのです!」
「メリちゃん……ありがと!」
メリの言葉に、本当に嬉しそうに返事をするシルバさん。それを見て、他のみんなも口々に言います。
「まぁ、なんだ。思うところはあるが……シルバはシルバだよな」
「然り。これからも宜しく頼む」
「そうですね……。共に戦ってきた仲間であり、これからも共に戦う仲間、ですね」
「私は、人の身では知り得ぬ魔術の秘技を教えて頂けるなら……どのような存在であろうと関係ありませんわ!」
とりあえず……丸く収まったようです。これもひとえに、これまでのシルバさんの行いの賜物でしょう。みんなを信じ、みんなに信じられたからこその……。
こうして、シルバさんの正体がはっきりとし、より一層の信頼関係が築かれたメリたちは、迷宮への突入を開始しました。迷宮内外を区切る城壁の門をくぐり、内部へと足を踏み入れたのです。そんな時でした。
メリの身に宿っているご加護。期待と予期の加護が、メリになにかを伝えてきたのは……。
「なにかが起きるのです……。なにかが!」
メリは取り乱していました。悪寒が身を竦ませ、不吉な予感がメリの口を衝いて飛び出します。そんなメリにみんなが駆け付け、そして……。
「どうしたの、メリちゃん!? 魔人でも現れたの?」
「おい、シルバ! まずは周囲の警戒を厳にしろ!」
みんながメリを護るように固めつつ、周囲の状況を探っています。そして、周囲に危険がない事を確認した後、シロ様が問い掛けてきます。
「加護の力で危険を察知したにゃ? なにを予期したにゃ?」
徐々に落ち着いてきたメリは、東の方向を指さしながら……迫りくるなにかを伝えようと口を開きます。
「あっちから……来るのです! この悪寒の原因が……」
なんの事か分からないといった感じで、みんなが首を傾げています。そんな中、シロ様はなにかに気付いたようで、大声で告げます。
「本体! 嫌帝国との国境を確認するにゃ! それと、負の神々の様子もついでに……」
(え、ええ、分かりました。少々お待ちを)
ラブ様が交信を途切れさせると、みんながシロ様に詰め寄ります。どういう事なのかと。しかし、シロ様は答えません。ただ、こう言うだけでした。
「本体からの情報を待つにゃ」
多分ですが、みんな考えている事は同じでしょう。嫌帝国が攻め入ったのではないか、と……。そして、シロ様が明確な答えを避けるのも、シロ様自身もあり得ないと否定したいからなのでしょう。しかし……。
(皆さん、お聞き下さい。嫌帝国が……侵攻を開始しました)
「負の神々は、なんて馬鹿な事をしているにゃ! 人の命をなんだと思ってるにゃ!?」
激昂するシロ様。それも当然です……。現在、魔導国とギルドの連合軍は、大氾濫によって溢れ出た魔獣と交戦中。そんなところに嫌帝国軍も攻め込んできたとしたら……三つ巴の争い。敵対的な三つの軍勢が入り乱れ争う、阿鼻叫喚の戦場の出来上がりです。
そんな、怒りが収まらないシロ様を宥めるシルバさん。そのシルバさんは、とある疑問を口にします。
「もしかしてだけど、大氾濫で苦戦する魔導国の人たちを助けるため……救援軍っていう可能性は?」
(もしそうであれば、事前に声明を出すのではないでしょうか? 救援を派遣すると。ですが……)
「そういった情報は無いんだね?」
(はい。それと、負の神々も混乱している様子なのです。ですので、これは……)
救援軍である可能性は、限りなくゼロに近い。しかし、負の神々の思惑からも外れている。とすれば、残る可能性は……。
「管理者や魔人の企みなのです?」
(ええ。その可能性が高いかと)
どうやって侵攻を開始させたのか。その部分は謎だらけですが、この事態で……最も利益を得るのは魔人たちです。神の子……地上の生物を根絶やしにしたい彼らとしてみれば、戦火の拡大と混沌とした戦場こそ目指すべきところ。なので、ほぼ確定でしょう。
「シルバさん……どうするのです?」
「どうするって?」
魔人たちの最終目標はさっきの通りですが、シルバさんを目の敵にしているのも事実。踊らされているとはいえ、負の神々も……シルバさんを亡き者としたい様子。だったら、シルバさんは選択しなければいけないと思うのです。急いで逃げるか、残って戦うかを……。
それらを伝えると、シルバさんは考えるまでもなく答えます。
「このまま残るに決まってるじゃん!」
しかし、シロ様やラブ様の考えは違うようで……。
「駄目ですにゃ! 今回ばかりは……逃げて頂きますにゃ!」
(そうです! このまま留まれば……退路すら塞がれかねません!)
二人がそういった矢先の事でした。これまでに視た事も感じた事もない、膨大な神力のうねりが空を駆け巡ったのは……。そして――
(地上の子らよ、聞こえるか? 我が名はディスガスト)
(私も名乗ると致しましょう。悲しみを司る神サドネス)
(怒りの女神アンガーだ)(驚きの女神サプライズだよ)(フィアー。恐怖の女神……)
負側の神々が、続々と名乗っていっています。驚くメリたちでしたが、驚きは……更に大きなものとなるのでした。それは、ラブ様の言葉からでした。
(この声……地上のあらゆる場所へと聞こえています! なんと節操のない……)
「本体! それは、本当なのですにゃ?」
(真実です。正も負も、中立さえも関係なく……人も獣も区別する事なく、全てです)
このような事が、今まであったのでしょうか? いえ、ありません。メリが生まれてからは勿論、書物に残る歴史の中でも……このような大規模な事象は、記録されていません。一体、なにが目的で。そんな事を考えている内に、二十柱を越える神々の名乗りが終わり……嫌悪の神ディスガスト様が本題を口にします。
(我々神々は、シルバという男の身柄を望んでいる。これは、神の意志である。何人も……これに逆らう事を禁ずる!)
ああ、そういう事ですか……。あまりの衝撃的な大神託に、逆に頭が冴えてきてしまいました。
なんの声明もなく侵攻を開始した嫌帝国軍。その暴挙を正当化するため、負の神々は声を発したという事でしょう。きっと、魔人たちの奸計であると気付きながら……事態を鎮静化する事より、自らの目標達成を優先したのだと思います。
この事に、再びシロ様は大激怒。ラブ様ですら、感情を抑えきれていない様子です。そして、名指しで指名されたシルバさんはというと……。
「これが……神のやる事だっていうの? 流石にあり得ないでしょ……」
呆れなのか哀れみなのか。はたまた苛立ちでしょうか? 複雑な心境であろう事が分かる表情と声色で、ポツリと呟いていました。
ただ、事態は更に激しく動いていたのです。周囲になにもいなかったはずが、急に彼らが現れたのですから……。




