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争乱の神人  作者: 富井トミー
第22話 信ずるがゆえに
113/149

112 sideA

 みんなの体力も回復した事で、休憩を切り上げて迷宮(ダンジョン)内へと踏み出そうとした時だった。


 ――視られている。


 以前からその感覚はあった。というよりも、常に感じていた。ただしそれは、もっと生易しいものであり、今は……凝視、それも全身くまなくだ。「大鬼の巣窟」で初めて魔人ダスターと遭遇する前にも強く感じた、気味の悪い視線。あの時よりも更に……粘り付くように視られている気がする。


 そこで俺は、今も遠見の術によって視ているであろう存在へと声を掛ける。


「女神ラブ様。視ているのならお返事を」


 突然どうしたと言いたげなみんなの視線が、俺へと殺到する。そんなみんなの視線には応じずに待っていると、ラブ様からの返事が返ってくる。


(どうなさいましたか、シルバ様?)

「お願いがあるんですけど、一分だけでいいので……俺を視るのをやめてみてくれませんか?」

(えっ……? 一分でいいのでしたら、承りましょう)


 交信が途絶え、ほんの少しだけ……感じる視線が減った気がする。けど、ねっとりとおぞましい視線には、一切の変化がない。


 やはり、この視線の正体は、神々による遠見の術ではない。いや、遠見によって複数の神々が、俺を監視しているのは間違いないようだけど……それとは別。全く違う手段によって、神々以外からの監視を受けていると考えるべきだろう。という事は、だ……。


 考えをまとめている間に約束の時間が訪れていたようで、ラブ様からの声が頭に響く。


(なにかの実験でしょうけど……答えは出ましたでしょうか?)

「はい、お陰様で。……俺、管理者からも監視されているようですね。それも……ずっと前から」

(えっ!?)


 ずっと前。それがどれほど前だったかは、覚えていない。というよりも、視られているのが当たり前になりすぎていて、それが自然で平常になってしまっている感じか……。


 俺とラブ様の交信を聞いていたみんなは、驚いたように声を上げる。


「主様? 私たちにも分かるよう、説明をお願いしますにゃ!」

「そうなのです! 管理者が視てるって……どういう事なのです?」


 その求めに応じて、俺は説明をしていった。普段から感じる気味の悪い視線の事。もしかしたら、「神の封鎖地」で眠っていた頃から……視られていたかもしれない事を。すると、シロが。次いでラブ様が、それぞれの意見を述べる。


「普段からというのは、あり得ますにゃ。その結果が、私たちを先回りし続ける事に繋がっているはずにゃ。ですが……」

(ええ。分神が言いたい事は分かります。「神の封鎖地」でというのは、あまり……信じたくない話ですから)


 こちらの行動が筒抜けなのは、二人とも認めるところなのだろう。では何故、「神の封鎖地」のほうは否定的なのだろうか?


 俺と同様に疑問に思ったらしく、メリちゃんが口を挟む。


「シルバさんがそう言っているのに、それでも信じられない理由があるのです?」

「そうにゃ」(そうです)


 本体と分神が、同時に同意する。という事は、神々としての知識からなのだろう。その理由が俺には分からず、催促するように問い掛ける。


「教えてくれる? 信じられないという言葉の意味を」


 二人は同意の返事の後、訥々(とつとつ)と語り始めた。言葉を慎重に選ぶように、時に考え、時に黙り込みながら……。


 そして、一通り聞き終えた時……みんなが崩れ落ちていた。決して、物理的なダメージがあった訳では無い。俺には全く影響がないので理解出来ないけど、制約に引っ掛かったペナルティーが発動し、恐ろしく気分が悪くなっているようだ。……シロもラブ様も、慎重な言葉選びをしていたらしいけど、数回ほどやらかしてしまっていたのだから。


 ただ、そのお陰で……ある程度の理由は理解出来た。これまで不思議に思っていた事も含め、様々な事が――


 まず、「神の封鎖地」とはなんなのか。これは、神々が指定した禁足地。というのは建前で、実際は……”ある人物”を封印するための隔離された土地との事。”ある人物”と言葉を濁すのは、制約に引っ掛かるため。あえて制約に引っ掛かった発言をして見せ、みんなを悶絶させた事から……二人の意図には気付いている。それは、”ある人物”が俺だと伝えたかったからなのだろう。みんなには悪いけど、とてもありがたい配慮だった。


 次に、隔離の方法。それは、とても強力な結界だという事。内から外、外から内。その干渉を(ことごと)く弾く、負の神々ご自慢の結界らしい。その干渉というのも、神が扱う遠見の術は勿論、マナや神力の行き来すらも弾くとの事。その上、高位の存在……簡単に言えば、かなりの神力を持つ存在しか、結界内部への侵入が許されないらしい。ゆえに、結界内には魔獣(モンスター)はおろか……生物全般の気配がなかったのだ。


 最後と言うかついでに、シロについても。三百年間、俺を探していた。時折聞いてはいた事だったけど、俺は流石に聞き間違いだと思っていた。しかし、それは事実だったようで……三百年という時間が掛かってしまったのも、結界が関係していたとの事。曰く、”本体から神力を供給されず、自力で神力をかき集める必要があったから”だそうだ。


 そして、これらを統合して考えると、いくつかの事が分かってくる。


 一つ目は、シロやラブ様が信じられないと言った理由。遠見の術ですら弾くのに、管理者が視る事が出来るとなれば……それは、管理者が特別過ぎる存在という事の証明である。神々を軽く凌駕する力を持っている或いは、神々とすら隔たれる次元の存在なのか、だ。


 二つ目は、これまでシロが頑なに、この地を重視していた理由。もしもの際、逃げ込むのなら「神の封鎖地」と言っていたのは、強固な結界に守られているからだった。確かに、その中に逃げ込めば、俺は安全が保障されるだろう。しかし……他のみんなは? いや、これは今考えても仕方がない事だろう。


 そして、最後。俺について。何度か考えはしたけど、その都度否定してきた。しかし、いい加減……認めなければならない気がする。きっと俺は……神の一柱だ。それも、分神とはいえ……八従神筆頭が主と呼ぶ事から、更に上位。八大神のいずれかなのだろう。いや、俺の神力の源を考えるに、■■■■か……。制約に掛かった以上、正解のようだ――


「主様? 難しい顔をして、どうなされたのですにゃ?」

「あっ、えっと……。分かっちゃったんだ。俺の正体。心の中で思い浮かべると、制約が掛かるから……間違いなく」

「本当ですにゃ!?」(遂にですか!?)


 またしても、本体と分神が同時に反応するが、他のみんなは未だにダウン中のため、声のボリュームを落とすように伝えた後、残念なお知らせを伝える。


「本当だけど、理解しただけだよ。しっくりきてないし、記憶や力が戻ってきた訳でも無い」

「それでも……充分ですにゃ」

(ええ。シルバ様、いえ……主様)


 残念のつもりで伝えたんだけど、予想に反して喜んでいるみたいだ。まあ、それならそれでいっか……。


 しばらくして、みんなの体調が戻ったのを確認し、制約に掛からないように注意しつつ……俺の正体を伝えた。直接的な表現が出来ないためか、ディンガはいまいち理解できていないようで……。


「ん? 神人よりもかなり上位の存在……? そんなの地上にいないんじゃねぇか?」

(察しが悪い小人(ホビット)さんですね……。私こと愛の女神ラブ、正神序列四位が……主様と呼ぶ。これで伝わるでしょうか?)

「ん? えっ、あっ! いやいや、あり得ねぇだろ! だってよぉ、ここは地上だぜ?」


 そう。普通ならあり得ない。何故、そんな事になっているのかも思い出せていない。だから、知らなければならない。だって、管理者が俺に執着しているという事は、その”何故”の部分が重要なのだろうから。もしかしたら、管理者たちとの和解の可能性もあるのかもしれないのだから……。

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