109 sideZ
(『メリリ』よ。第二段階の進捗、上々のようだな)
「あらまぁ、パパ。計画はまだまだ続くんですから、気は抜けませんよぉ」
(メリリよ。その意気は良いのだが……何度も言っているだろう。パパはやめろと)
パパ。ダスター君的に言えば、上司。もっと一般的な呼び方をすれば、管理者でしょうか。ですが、どちらもしっくり来ないので、やはりパパとお呼びする事にしています。
「でもぉ、パパはパパだと思うんですよぉ」
(……そうか。だが、我に性別の概念は無い。パパでもママでも無いのだがな)
「それでもぉ、パパはパパなんですよぉ」
本当のパパやママというものを、私は知りません。だって、私は戦災孤児。血の繋がった家族というものを知りませんので、パパが男性でなければいけないなんて考えもありませんから……。
(……そうか。それで、もう種明かしをしても良かったのか?)
「大丈夫ですよぉ。そろそろ魔導国にも立ち直ってもらわないとぉ……滅亡しちゃいますからねぇ」
パパに頼んで、中央魔導都市に留まっているキララちゃんへ、次なる指示を伝えてもらいました。その内容は、各組織がひた隠しにしていた暗殺の事実を、暴露するというもの。これによって、互いが犯人ではないのかという疑心は薄まり、軍とギルドの連携も回復したのです。これ以上魔導国が弱体化するのは、今後の計画に支障が出る恐れがあるからです。
(そうだな。魔導国が完全に滅ぶのは、まだまだ先でなければな)
「そうですよぉ。負の国が勝ち過ぎちゃうのもぉ……面白くないですからねぇ」
特に、嫌帝国が勝ち過ぎるのは……絶対に嫌です。なんて私情も挟んではいますが、全体の計画としてもバランスが重要。正と負、どちらかが完全に勝ってはいけない。より激しく干戈を交えながら、ジワジワと……人も獣も死に絶えていく。それが、最終目標なのですから。
(だからこその、次の一手か)
「そうですねぇ。このお仕事は、パパから頂いた権能的に……お姉ちゃんが最適なんですよぉ」
私の権能は”操作”。服従の神サブミスの権能”支配”の上位互換。人を支配するだけでなく、数の限度こそあれ……ほぼ全てのモノを操る事が出来ます。ちなみにですが、魔導国内の迷宮で大氾濫を引き起こしたのも、私の権能によるもの。マナ流入口周辺を、ちょっとだけ操作してあげたんです。
そんな訳でして、私は今、アジトを後にして嫌帝国との国境へと向かっています。”操作”の権能を用い、更なる混沌を生み出すために……。
(権能だけが理由ではないのだろう?)
「パパはなんでもお見通しなんですねぇ」
パパの言う通り、私が直接出向くのには、他にも理由があります。この一手で重要になるのはタイミング。遅すぎず早すぎず、最適な時を見定める必要があるのです。
(我々が動き出す事になった原因、■■■■を追い詰めるためか)
「大正解ですよぉ。流石はパパですねぇ。きっと、油断し切っていますからぁ、深く踏み込んだところを……フフフ」
とぉっても甘いマヌケさんたちは、今頃こんな事を考えているはずです。負の国が攻め込むのは、大氾濫が終息した瞬間。だから、まだ猶予がある、と。本当に甘々です。そんなんだから、掌の上でコロコロさせられちゃうんだとも知らずに……。
(これまでの全てが布石だったという事か)
「そこはぁ、多少のラッキーもありましたよぉ」
最も幸運だったのは、ダスター君の働きでしょう。彼にお願いしたお仕事は、マヌケさんたちの妨害。まさか、あれほど上手に、マヌケさんの正体の一端を露見させてくれるとは……嬉しい誤算でしたから。
(そうか。そういう事にしておこう)
「そうしておいて下さいな。それでぇ、マヌケさんたちの現在地は?」
見定めるべきタイミング。その最も重要な要素は、マヌケさんたちの動向。狙い通り、北部戦線へと向かっているはずですが……。
(メリリの予想通り、北部へ向けて出発した)
「なんとまぁ、面白いほどに素直ですねぇ。……罠だとも知らずに」
最初に私は、気を抜けないと言いました。ですが、ここまでチョロいと……正直、拍子抜けです。ですが、ここまで成功が続くと、相手がチョロいとはいえ……優越感にも浸れるというもの。このまま更に、計画を進めていくと致しましょう。
(メリリよ。頼りにしている。他の二人の執行者以上に、な)
「パパ! そのような事を言ってはなりません! ダスター君もキララちゃんも、とても頼りになるんですから……」
パパから頼られるのは、嬉しい。ですが、二人と比べられて優越感に浸るなんて事は……私は出来ません。それぞれの長所や能力が違うだけで、比較なんて無意味なんですから。
冒険者時代の経験と戦闘技術や”消失”の権能を巧みに操り、最前線で引っ掻き回すダスター君。潜入、情報操作、暗殺。舞台裏での戦いでは並び立つ者がいない程の暗殺者、キララちゃん。そして、作戦立案などの頭脳部分を担当し、二人が動きやすい場を整えるのが私。だれか一人が欠けてしまったら、これほど大きな計画は動かせなかったのです。
(そうか、そうだな。失言だった、許せ)
「いえいえ、パパに悪気が無かった事は分かっていますから。ただぁ、一つお願いをしてもいいですかぁ?」
了承する返事を聞いて、私は伝言を頼みました。ダスター君とキララちゃんに、北部へと向かってもらうようにと。これで、事前準備は完了です。あとは、私が引き金を引くだけですね……。
その後、魔導国を北東に突き抜け、嫌帝国との国境部へと到着しました。魔導国側の城壁は放棄され崩れ去り、嫌帝国側の城壁には魔獣の群れが押し寄せ、嫌帝国兵が必死に戦闘を行っています。そんな、常人であれば近寄りもしないであろう場所に、私は躊躇なく進んでいくのですが……。
「おい、民間人! ここは戦場だ! 離れろ!」
親切な城壁上の兵隊さんが、突如として現れた私に忠告します。本当に……嫌帝国の兵とは思えないほど親切です。でしたら、親切ついでに協力して頂きましょう。
”操作”の権能を発動させます。支配下に置かれた親切な兵隊さんは、私が城壁へと登りやすいように縄梯子を垂らしてくれました。当然ですが、周囲の兵隊たちはそれを阻止しようと止めに入ります。しかし、私の支配の影響で人としてのリミッターを外された親切な兵隊さんは、数人がかりでも止める事が出来ません。
そして、私はというと。魔人の特性として魔獣から襲われる事が無いので、悠然と縄梯子へと近付き、登っていきます。……到着。
城壁上に降り立った私を、兵隊たちが取り囲みます。ですから、”操作”してしまいましょう。――即座に取り囲む事をやめた兵隊たちが、何事も無かったかのように城壁の守備に戻っていきました。
障害を平和裏に排除した私は、この場の指揮官のもとへ。そして、指揮官を支配下に置く事に成功しました。同様の手口で、大氾濫の終息を待ち、魔導国へと攻め入る機会を探っていた侵攻部隊の指揮官をも、支配下に置いておきます。これで、あとは待つだけですね……。
パパと情報をやり取りしつつ、その時を待ちました。そして――
(■■■■とその仲間が、迷宮への突入を開始した)
「ありがとうございます、パパ。それではぁ、始めましょうか!」
支配下にある指揮官たちに指示を下します。魔導国へと攻め入れ、と。国家の方針に逆らう指示に、部下からの反発が起きているようですが……関係ありません。足並みが揃わぬまま、嫌帝国の国境守備軍及び侵攻軍は、魔導国内へと侵攻を開始したのです。
「蝕むように広がる毒は、今……解き放たれました。うふふふふ、あはははは!」
無人となった城壁上、私の嗤い声だけが空へと放たれ、そして……消えていくのでした。




