表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
争乱の神人  作者: 富井トミー
第21話 優越に浸る時
109/149

108 sideC

(私の分神、お久しぶりです。そして……シルバ様。()()()()()()


 主様と私の頭の中に、突如として聞こえた声。私は……遂に来たかと身構える一方、主様は少し困ったように返事をします。


「ええと……はじめまして。それで、貴女は……?」

(あっ、申し訳ありません。私はラブ。愛の女神で、そこの分神の本体です)


 本体からの接触。この事から、私はある程度の状況を把握します。……やはり、負の神々に捕捉されたのだと。


 これまで私は、負の神々からの捕捉を逃れるため、本体との交信を断っていました。ですが、本体が声を掛けてきたという事は、そういう事なのでしょう。


「それで本体。負の神々が動き出すって事でいいにゃ?」

(分神、せっかちが過ぎますよ。少しは主様……いえ、シルバ様と語らう時間をくれてもいいじゃないですか)


 思いっ切り、私情塗れじゃないですか、本体……。私は呆れつつも、安堵しながら頷きます。本体の私情を優先できる程度には、猶予が残されているという事ですから。しかし……。


「俺との語らい? そんな事より、神々の動きについて――」

(そんな事ではありません! ずっとずっと……我慢してきたのです! 多少の我が儘ぐらい……あっ、取り乱してしまい申し訳ありません)


 主様は、事情を理解出来てはいませんから……と、考えた時には手遅れでした。主様の言葉を遮る形で、駄々っ子のように喚く本体。まったく、神の威厳もなにも無いですね。最初の挨拶で、ちゃんとはじめましてと言うあたり……もう少し冷静だと思っていたのですが。


 本当に仕方がないので、私が助け舟を出す事にします。だって、主様……訳も分からず呆けてしまっていますし。


「主様、本体に付き合ってあげて下さいにゃ。脅威はすぐそこという訳では無いようですからにゃ」

「ええと……うん、分かったよ」


 主様の了承を得て、本体へと分かるように手を振って、ゴーサインを送ります。すると……。


(私、ずっと見守っておりました。シルバ様が「神の封鎖地」を出てからずっと、片時も怠る事なく、です)

「えっ、あっ……そうなんですね」


 重い! 愛が重い! 主様が完全に引いてるって! 元は一つだった私ですから、気持ちは理解出来るけども……それは胸の内に秘めておいて欲しかった!


 そんな私の考えに気付くはずもなく、本体は更にグイグイと攻めていきます。


(そして、待っていました。愛するシルバ様と語らえる時を……。実を言いますと、負の神々に露見してくれないかなと考えた事もありましたし)

「えっ、あっ……そこまでですか」


 ぶっちゃけ過ぎです! 主様も対応に困ってますって! まあ、私も……実を言うと、後悔しています。このまま露見しなければ、ずっと私が主様を独占出来たのに、と……。


 そんな私の考えに今度は気付いたようで、本体はどこか悔し気に言います。


(分神が羨ましいです。シルバ様と直接語らう事ができ、共に苦難に立ち向かうなんて……)

「本体、そろそろ無駄話を終わりにしましょうにゃ。これからは、こうして話せる訳ですしにゃ」

(え、ええ。そうでしたね。それでは、本題に戻るとしましょうか)


 流石に……これ以上本体が暴走する様を、放置してはおけませんでした。だって、主様……ドン引きもいいとこです。これ以上、私の本体の名誉を傷付けさせる訳にはいきませんから。まあ、すでに手遅れ感はありますが……。


 そのような訳で、本体は神の座の現状についての説明を始めたのでした。そして、ひとしきりの説明を聞き終えた後、私は問い掛けます。


「主様復活の露見、三十二柱会議の開催は想定内ですにゃ。しかし、管理者の存在まで把握しているのですにゃ?」

(ええ、意外な事に)


 本当に意外です。てっきり、主様復活の知らせにのみ拘り、その他の事など眼中にないと思っていました。あの勝手気ままな負の神々の事ですから……。ですが、思っていた以上に抜かりなく情報を集めていたようです。それが、私たちにとって吉と出るか凶と出るのかは分かりませんが。


「管理者の暗躍を知りながら、それでも……主様追討を行うのですにゃ?」

(ええ、残念ながら)


 現状だけで考えるなら、凶と言える気がします。管理者の思惑は、神の子ら……地上の生物の根絶でしょうから、戦火の拡大こそ願うところ。そこまでを負の神々が把握しているかは分かりませんが、管理者勢力がお膳立てした状況に乗っかるというのなら、大争乱は更に激しさを増す事でしょう。


「もしかして……負の神々は、この機に地上の正陣営を殲滅しようとしているにゃ?」

(可能性は……ゼロではないでしょう)


 現状、地上の勢力バランスは、負陣営が優勢。ですが、決着とまではいかない程度に、正陣営も粘っています。というのも、地上の北側は魔導国と神聖国によって東西を分断しており、強大な負陣営の国々が多い東側から、正陣営の地盤たる西側諸国への攻撃は、南を大きく迂回せねばならないのです。なので、正と負の全面戦争自体はギリギリのところで避けられ、決定的な勝敗には繋がっていないのです。


 ですが、その前提が崩れたら。魔導国という、東西分断の要が陥落してしまったら……。それはもう、全面戦争の開始でしょう。正と負が総力を挙げての……大争乱です。


「負の神々は馬鹿なのですにゃ! 管理者の思惑に踊らされ、自身らの利益に目を曇らせ……」

(いえ、それはどうでしょうか。実は、管理者の計画に乗っかる事で、管理者たちを炙り出そうと考えている可能性も)


 ここにきて、本体と私の意見は、真っ向から対立してしまいました。負の神々を浅慮だと考える私と、神としての最低限は弁えていると考える本体。元々は一つだったとはいえ、この三百年の間、地上を彷徨い……様々な現実を直視してきた私は、本体とですら考えが合わなくなってしまっているようです。


 本体は(主様絡みでなければ)ある意味、神らしい神の思考だと思います。一方私は、本当に人間臭くなったと思います。……姿は猫ですが。


「本体。あの仕打ちを忘れたにゃ? 負の神々に……神としての自覚などないにゃ!」

(忘れようはずがありません! ですが、正と負……反目しあっていても、神は神です)


 これは、平行線を辿りそうです。凶と出る可能性を推す私と、吉だと考える本体。こうなっては、自身の性格をよく知る上での最終手段を使いましょう。


「主様はどうお考えですにゃ?」


 主様に振る。主様の意見を伺う。これが最良。突然の事に主様は驚きながらも、意見を口にします。


「神々の事はよく分からないけど……俺は信じたいかな。負の神だって良識的な判断を下すって」

(分神、聞きましたか? あるじ……シルバ様は、こう言っておりますよ?)


 そうですね。主様がそう言うのなら、負の神々にも期待する事としましょう。ですが、私は私で……最悪の事態への備えは怠るつもりはありませんが。そして、調子に乗っている本体に、どうしても言っておきたい事があります。


「本体。この件については、そっちの意見を尊重するにゃ。ですが、主様の傍に侍り、直接手助けを出来るのは……私だけですにゃ」

(なっ! 分神! 今すぐ私と交代しなさい!)

「嫌ですにゃ。そっちはそっちで、しっかり主様のために働いて下さいにゃ」


 主様を見つけ出したのは私。これまで導いてきたのも私。この優越感だけは、本体に伝えておきたかったのです。そうすればきっと、より一層主様のために奮起するはずですから。


 こうして、私たちは神々の動きを把握出来ました。それに今後は、本体からの様々な情報も手に入るはずです。例えば……遠見の術によって得た、魔人や国家単位の動向なんてものも。これで、受けに回るばかりの状況から脱却できればと、そう考える次第です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ