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争乱の神人  作者: 富井トミー
第21話 優越に浸る時
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107 sideA

 ベロニカの冒険者ギルドで聞かされた話。それは、この国の中心である「魔導都市ゼフィランサス」で起きた、三つの暗殺事件について。同日中に……魔導兵団総司令、冒険者・魔術師ギルドグランドマスターが暗殺されたとの事。しかもそれは、発生からしばらくが経っているとも……。


「支部長、情報提供ありがとうございます。それにしても……」


 支部長との面会が叶い、戦況の確認や通信用魔具の使用を申し入れようとするより先、先手を打つ形で明かされた事実。俺たち全員、衝撃的な知らせに……戸惑うばかりだ。しかし、ハイランドさんだけは即座に立ち直り、感謝を告げた後、中途半端に言葉を途切れさせた。


 色々と思うところがあるのだろう。特に、それなりの期間秘匿されていたという部分が、前線で戦っていたハイランドさんとしては……複雑なのだろう。


 支部長もハイランドさんの思いを察したようで、途切れたハイランドさんの言葉に繋げる形で口を開く。


「不甲斐ないでしょうか? それとも、許せないでしょうか?」

「あっ、いえ……。そういった気持ちがないと言えば嘘になりますが、事情が事情なので……」


 もしもの話だけど、それぞれの組織が事実を隠蔽していなかったら。きっと、今頃は……大氾濫(オーバーフロー)も抑え込めていたのではないだろうか。だって、トップが暗殺されるという不祥事を、それぞれの組織が必死に隠し立てた結果が……互いを犯人と疑い合い、共闘関係に亀裂が生じたのだから。それに、無理にトップの不在を誤魔化した事が、命令系統の崩壊を招いているのだから尚更だ。


 組織の面子やプライド。そんなものを保つため、犠牲となったのは……最前線で戦う人たちや民衆。どのような事情があったとしても、俺は……。


「ハイランドさん、はっきり言うべきです。事情とかより、優先すべきは人命だったと思いますから」

「……そうですね。正直なところ、今回の対応は杜撰の一言。ギルドの在り方が問われるべきだと思います」


 ハイランドさんの言葉に、支部長も頷く。やはり誰もが思っているようで、メリちゃんたちでさえ首を上下させている。


 ただ、俺が思うに……この状況すらも、暗殺の首謀者は企んでいたはずだ。そして、その首謀者というのは……。


「支部長さん。暗殺を行った勢力については?」

「今のところ不明です。ですが、殺害された方々が方々ですから……」


 公式には不明。だけど、十中八九……管理者勢力だろう。だって、暗殺の対象とされた人たちは、いずれもかなりの実力者。その上、警備も厳重だったはず。特に、冒険者ギルドのグランドマスターは、期待と予期の女神の神人であり、最強の武闘家と呼ばれていた人らしいのだから……並みの暗殺者なら返り討ちだ。その事から、実行犯は魔人だと考えるのが妥当。


 ただ……だからこそ、それぞれの組織が疑心暗鬼に陥ったとも言える。それぞれの組織は、それぞれに優秀な戦力を保有している。ゆえに、暗殺が可能なのは、いずれかの組織だけであると。そして、見事に踊らされたという訳だ。


「とりあえず、この話はここまでにしませんか?」


 ハイランドさんはそう言った。確かに、今はそれどころではない。あまりの衝撃的すぎる内容に、本来の目的が完全に飛んで行ってしまっていた。


「そうですね。では、聞きたい事というのは、戦況などについてでしたか?」


 支部長は頷き、問い返してくる。その言葉にみんなで頷き返し、支部長の話を聞くのだった――


 現在の西部防衛線は、立て直しが進んでいるとの事。各組織間の連携も復活し、補給線も再構築されているようだ。そしてそれは、ほとんどの方面にも言える事らしく、多くの戦線が危機を脱したという事である。しかし一か所だけ、危険な方面があるらしく……それは、北部防衛線だというのだ。


 連携が回復した今も、北部の前線は押し込まれたままらしい。最前線が中心都市にまで後退しており、市民にも被害が出始めているとか……。中央の混乱も完全に収拾した訳ではない現状、増援派遣の動きはあるものの、迅速とは程遠いらしいのだ。


 そもそも北部は、他の方面に比べて魔導兵団の質と数が低く少ない。その理由は、他国との国境を抱えていないからだ。なので、魔獣(モンスター)の数は多いが、迎え撃つ兵の数が少ない。そのため、他の方面と違い、戦線を維持する事が出来なかったらしいのだ――


 それらの話を聞いて、俺はみんなに問い掛ける。


「このまま北部に向かうってのは……あり?」


 今すぐ北部へと向かっても、到着には一月ほど掛かってしまうだろう。ただ、今居る西部は戦況も落ち着きを見せていて、俺たちの助力をさほど必要としていない。だったら、少しでも戦力が必要で、一番困っているであろう北部へ向かうべきだ。


 そう考えた俺の問い掛けに、真っ先に答えたのはメリちゃんだった。


「ありだと思うのです! というより、そうすべきなのです!」


 その声に続く形で、他のみんなからも同意の言葉が返ってくる。しかし、一人だけ……渋るような反応が返ってくる。


「私は反対ですにゃ。西側一帯の脅威を取り除いてから向かうべきだと考えるにゃ」

「その理由は?」


 分神である事を隠さなくなったシロへ、反対する理由を問い掛けた。なんとなくだけど、俺に関わる事な気がしながら……。


「万が一の際、退路が確保出来なくなる可能性がありますにゃ。あくまで、万が一ですが……」


 万が一も気になるけど、退路というのも気になる。多分だけど、それは俺たちの退路って意味なんだろうな。いや、俺の……か。


「シロ、最悪を想定するのも重要だけど……今は、少しでも多くの人を救いたいんだよ」

「はい、分かっていますにゃ。ただ、安全を確保せぬまま進行する危険……どうか、忘れないで頂きたいのですにゃ」

「……分かったよ。気には留めとく」


 結局、シロの反対意見はあったものの、賛成多数で北部へと向かう事に決まった。そのため、出発は明日として、今日は宿屋で一泊する事となったのだ。


 そんな宿の一室。俺は今、シロと向き合っていた。


「万が一って言うけど……それって、なにを想定してるの?」

「魔人たちの次なる策ですにゃ。大氾濫の発生、要人暗殺の次ですにゃ」


 様々な状況が判明してきた今、シロの中では全ての企てが魔人のものだと考えている様子。まあ、俺もそれに異論はない。ただ、まだまだ先があると疑っているようで……。


「となると……前にも言ってた、負の国々が攻めてくるって事だよね?」

「はい、そうですにゃ。今思うと、魔人ダスターのハイランド襲撃も……次なる策の一手だったと思いますにゃ」


 俺に”癒し”の権能を使わせ、負の国々が動くための明確な理由を作るためだろうか。果たして、ここまで緻密な計画を……あのダスターが立てられるだろうか?


「ちなみにだけど、ここまでの策……ダスターが練ったと思う?」

「思いませんにゃ。食わせ者ではありますが、ここまで大きな絵を描くタイプでは無い気がしますにゃ」


 俺もそう思う。という事は、この事件には……最低でも二人の魔人が関与している事は確実。俺たちの前に現れたダスターと、計画を立てて暗殺を実行した魔人。もしかしたら、計画を立てている魔人と暗殺者は別の魔人で、三人体制で動いている可能性だってある。だとすると……。


「確かに、気を付けたほうが良さそうだね」

「そうして頂けると、非常に助かりますにゃ」


 シロとの話を切り上げようとした時だった。俺の頭に直接響くような、シロとよく似た声が降り注いできたのは……。

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