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争乱の神人  作者: 富井トミー
第19話 悲観の戦場が奏でる不協和音
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099 sideA

 ジゼルさんとの合流は、果たせた。けど、次はハイランドさんを探さないと。


「ジゼルさん、早速で悪いんですけど……ハイランドさんの行方を知りませんか?」


 俺がそう問いかけると、ジゼルさんは戦場中を見渡し始める。そして、なにかを見つけたような表情を浮かべながら、こう言う。


「知っていますし、なにより……こちらに向かって来ていますわ」


 先ほどの魔術攻撃時、巻き添えにしてしまわないように注意していた前衛部隊の中から、冒険者の一団が離脱して、こっちに向かって来ている。その先頭に立っているのは、紛れもなくハイランドさんだ。そして、俺たちのもとまで辿り着くと、驚きながらも嬉しそうに口を開く。


「貴方方も来てしまったのですか! ですが……渡りに船とはこの事でしょうか」


 ジゼルさんといいハイランドさんといい、似たような事を言っている。まあ、この戦場の様子から……なんとなく察しはついちゃうんだけど、訊ねておいたほうがいいだろう。……この戦場がどうなっているかを。


「渡りに船、ですか。そんな風に言うって事は、この戦線は……」

「はい。いずれ、崩壊するでしょう。不協和音しか奏でないこの戦場は……」


 そして、ハイランドさんは説明を始めた。これまでの戦闘の状況から、今起こっている事までを――


 大氾濫(オーバーフロー)発生時、ハイランドさんとジゼルさんは、ライラック近郊に居たようだ。そして、大氾濫の発生を知ると、この地の冒険者・魔術師ギルドと協力し、最前線に赴いた。その頃には、魔導兵団が防衛線を構築し、ある程度の被害は出しながらも魔獣(モンスター)の侵攻を阻止出来ていたらしい。その、ある程度の被害というのが……ここに来るまでに見てきた、廃墟と化したゾンビの街や村なのだろう。いや、今はその事は考えないでおこう……。


 そんな訳で、発生から一か月ほどは順調に戦線を押し上げ、現在の前線の位置にまで魔獣を押し返していたそうだ。だが、ある日……状況が一変した。


 魔導兵団は現状維持を最優先するようになり、それまでは最低限の共闘関係にあった冒険者・魔術師ギルドもまた、独自に動くような指示が下りてきた。そのため、戦線は膠着。迷宮(ダンジョン)への突入まであと一歩と迫りながら、ハイランドさんたちは……綻び切った戦線の維持に奔走する事となったようだ。


 そして、事態は更に悪化。補給線が正常に機能していない状態に陥り、前線の士気は落ちていく一方だというのだ――


 察してはいたし、ライラックのギルドの混乱からも……予想は出来ていた。だけど、改めて聞くと酷い話である。


 何故突然、共闘関係にひびが入ったのだろうか。軍とギルド、ギルドとギルド。その間で、なにがあったというのだろうか。街のギルド支部でも把握出来ていないという事は、中央でなにかがあったという事だろうが、それは……大氾濫という危機よりも重要な事なのだろうか?


 思うところは色々ある。それに、今がヤバイ状況だという事も、しっかり把握出来た。足並みが揃わず、戦線崩壊へとひた走る……悲観しか出来ない戦場だという事が。


「それで、俺たちが来た事を喜んでいたのは……迷宮への突入を敢行するつもりだから、ですか?」

「はい。この状況を覆すためには、やはり……それしかないかと」


 俺の問い掛けにハイランドさんが答え、ジゼルさんも頷きで以って肯定する。ただ、それには問題が残っている事に、俺だけでなくみんなも気付き、ディンガとドーリスが現実的な意見を投げかける。


「ただよ、この戦場……()つのか? 旦那たちが抜けちゃあ、総崩れになるんじゃ?」

「ああ。該当の迷宮までは、そこそこの距離。行って、迷宮を攻略し、帰ってくる。それだけで一週間は掛かる」


 迷宮に突入したはいいけど、帰ってきたら……ライラックの街が廃墟になってましたでは、最悪だ。せめて、ある程度の戦線の立て直しは必須ではないだろうか?


 当然の事ながら、ハイランドさんたちもその問題には気が付いていて、こう返してくる。


「私かジゼルさんは、この戦場に残ります」

「ええ。どちらが残るにせよ……なんとしても戦線崩壊だけは食い止めるつもりですわ!」


 正直なところ、賭けに近い手段ではある。各組織の連携が崩れている以上、個の働きで現状を保つのは……至難の業。ただ、やらなければならないとも思う。だって、このままでは……遅かれ早かれ、限界が来る。ならば、やるしかないだろう!


「俺は賛成です。ここで粘っているよりも、根本を取り除く。賭けに出るタイミングでしょ?」


 俺が意志を表明したところ、渋い表情だったディンガやドーリスに、不安げだったメリちゃんも……頷いた。そして、それを眺めていたハイランドさんは、自らの意見を伝えてくる。


「では、ここには私が残りましょう。迷宮に突入するのなら、魔術戦力が向かうほうが良いはずです」


 その意見は正しいと思う。それに、指揮能力や交渉能力の面で見ても、ハイランドさんが戦場に残るのは妥当。なにより、ハイランドさんは腹を括ったような……言葉に表しづらい覚悟を纏っている気がする。まるで、命を懸けてでも死守しようとする気概のようにも思えて……。


「ハイランドさん? 危ないと思ったら、絶対に無理しないで下さいね?」


 つい、そう言ってしまっていた。すると、微笑みながら返事が返ってくる。


「はい。ですが、そちらも気を付けて下さいね? 危険なのはどちらも同じですから」


 確かにそれは、間違いない。迷宮に少人数で突入し、居るであろう未知のキング格の魔獣を討ち取る。それも確かに危険だ。だけど、この戦場に残り、戦線を維持するというのは……沈みゆく泥舟を、必死に保たせようとするようなもの。もし、想定外のなにかが起これば、一瞬にして魔獣の波に飲み込まれる可能性だってある。やる事が明確な分、よっぽど迷宮突入のほうが安全な気さえする。


 だけど、ハイランドさんの意志は固いようだ。表情からして、反対意見は受け付けないと言っているように思える。だったら、なるべく早くに親玉を討ち取って、急いで帰ってくるしかないだろう。



 俺たちは、その日の内に迷宮へと向かって進んでいった。補給もままならない戦場は、ハイランドさんの身の心配だけでなく……急がなければいけない事を示唆している。だから、多少の無茶な行軍とはなってしまうけど、俺たちは突き進んでいった。襲い来る魔獣を薙ぎ払いながら、目的の迷宮「獣種混成の森林」へと……。


 前線を越えた先、魔獣側の領域となっている道中は、すでに迷宮内ではないかと思うほどに魔獣が多く彷徨っていた。その主な構成は、獣系魔獣。大猪ことマッドブルに代表される、ブル系の魔獣。動物としての狼を凶悪にしたマッドウルフなどの、ウルフ系魔獣。そして、野生の熊さえ可愛らしく思えるマッドベア。基本種であってもD級スタートのベア系魔獣。それらが同時に湧き出す事から、この迷宮は獣種混成と呼ばれているらしい。


 もっとも、目的の迷宮は、大氾濫発生前でC級とされている迷宮。基本種であるマッドブルやマッドウルフではなく、上位種のC級魔獣デスブルやデスウルフ、B級のデスベアがほとんど。そのせいもあって、迷宮へ到達するのも一苦労だ。


「メリサンド、ジゼル! 迷宮到着前にへばらないように気をつけろ!」

「了解なのです。下級魔術を上手に使うようにするのです」


 これまでと違い、大氾濫発生から随分日が経っている。そのため、迷宮周辺の魔獣の数は……これまでと比べ物にならない。だけど、そんな状況でも、俺たちは進み続けるしかないのだ。悲観しか出来ない戦場で戦い続けている人たちを救い、事態を好転させるためには……。

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