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事務所の実態

真栄田は玄関のドアを閉めるまで無表情だったが、ドアが閉まった途端にリョウに詰め寄った。

「リョウ。お前、どういうことだよ? 説明しろ。」

安普請のマンションに考慮して、大声を出せずに押し殺した声でリョウの首元を締め上げた。


「まあまあ、落ち着いて。てか、靴脱いでよ。花奏の家なんだから。」


真栄田は自分の足元を見下ろして

「あ、失礼…」

と恥ずかしそうに玄関に脱いだ靴を置きに行った。


「狭いですけど、どうぞお座りください。」

私は二人を話しやすい位置に座るように促し、お茶を淹れにキッチンに立った。

お茶を出しながら、私も話に参加するように座ると、どうやら既にリョウが事の大まかなあらましを説明し終わったらしく、真栄田は複雑な表情をしていた。


「で? 結局リョウは生きてんの? 死んでんの?」

「う~ん…よく分かんないんだよね。夜は生きてるし、日が昇ると死んでるみたいだし。

 それに一度、夜に食材の買い出しに行こうと玄関を出ようとしたら酷い頭痛が起きて気を失いかけたし…」


え? 何それ? 初めて聞いたし…


「じゃあ、夜にこの部屋でしか生息出来ないってことか…」

真栄田はさらに複雑な表情になった。


じゃあ、リョウくんは別に私の事が好きになってくれた訳じゃないんだ…

この部屋から出られないから、仕方なくここで私と暮らしているのか…


リョウは私が青ざめていることに気付き、私の手を取り自分の膝の上に置いた。

「花奏、どうした? 大丈夫?」

「…うん…大丈夫…何でもないの…」

リョウへの不信感を急いで隠し、何事もなかったように振舞うことは私には難しかった。

リョウは私の様子をうかがいながら、真栄田との話を続ける。


「俺、この事にはあの女が絡んでると思うんだ。あの契約にサインしなかったから…」


あ、昨日も言ってたあの女って…


「花澤社長か…そうだな。俺も社長は一枚嚙んでいると思うよ。」

「花澤社長って…」

疑問に思っていたことがうっかり口をついて出てしまった。

「ああ、ごめん。花奏には全然説明してなかったよな。俺の…というか俺たちヘブン・エンジェルズの所属する事務所、『Office(オフィス) Flower(フラワー) Marsh(マーシュ)』の花澤和香社長のことだよ。」


私でも知っている。女性社長でありながら所属タレントに対してパワハラやセクハラが酷くて有名な人だ。

リョウの説明によると、花澤社長はヘブン・エンジェルズのメンバー全員を自分の愛人として契約したがっていたらしい。


「そんなことが…」

「俺、リーダーだから…メンバーを守りたかったんだ。リクなんか、まだ19歳だし。レンもシュウもユウも権力に屈するような事したくないって言ってたし、させたくない。」

「今や国民的なアイドル達を私物化しようとは、酷いな…あの女…」

真栄田も花澤社長には嫌悪感を露わにしていた。


「で、話は戻るけど、嶌崎さんが車で通りかかったのは夜中の1時過ぎで、あの日リョウの現場マネージャーは荒井だったよな? 雑誌の撮影終わりで午後8時頃に荒井に自宅まで送ってもらったと。それから、メシを食いに出てその後の記憶がない…か。」

「家に着いて軽くシャワーを浴びてすぐ家を出たのは覚えてる。けど、マンションを出てからの記憶がないんだ。

あ、でも確かレンから何か貸したものを返したいって連絡があったな。」

「俺、ちょっと色々と社長に探りを入れてみる。リョウも何か思い出したらすぐ連絡をくれ。」

そう言って真栄田は立ち上がり、

「嶌崎さん、お邪魔しました。今暫くリョウの事を宜しくお願いします。面倒かけますが…」

とだけ言って帰って行った。


いつものように二人きりの夜が戻ってきた。

そして、いつものように背中側から抱きしめられ、シャツを捲って手が入ってきた。


「待って…リョウくん。」


私は、さっきのリョウの言葉が引っかかっていた。

リョウはこの部屋から出られないから仕方なくここにいる。だから、私に気を使って奉仕をしてくれる。別に私のことは好きでもなんでもない。

私の中でそんな方程式が出来上がってしまった。


「今日は疲れてるから…」


リョウは優しくキスをしてくれた。

「分かった。じゃあ、仕方ないね。」


週末なのに甘々な夜にならなかったのはリョウが来てから初めての事だった。


次回は明日の22:00更新予定です。

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