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44 ケビンの顛末と新国王の秘密


 そして、最後はケビンのことだ。


 あの議会の日の翌週、ケビンとリーンハルトは王宮に呼び出され、改めて、国王クリストファーと王太后ドロシアと面会した。


「このたびの件、本当に感謝いたします。多大なるご迷惑をおかけした中、よくぞデイトナーズ一家を救い、国を正しい方向に持ち直す機会をくださいました」


 お礼を言うクリストファーに、ケビンは困ったように目を彷徨わせ、リーンハルトは「感謝の言葉、ありがたく頂戴いたします」とスマートにお礼を受け取っている。


「それで、今後のことを確認したいのだが、ケレンスキー侯爵。貴殿のこのたびの功績を、エレンスキー王国に報告してほしくないというのは誠か?」

「はい。私はあの国とは関係なく生きていますので」


 ふむ、と考え込む王太后に、ケビンはおどおどとした様子で黙り込む。


 あの騒動の日、ケビンは国王に向かって、隣国第三王子であることを明かしてしまった。

 そして、その会話内容は、デイジーとドビアスがつけていた仮面カメラ越しに、議場に居たすべての人間に聞かれていた。


 この国の重鎮達は皆、ケビンが隣国第三王子であることを知っているのだ。


「今まではどのようにしていたのだ? そなたの大叔父である大使エイドリアンは、そなたがこの国に居ることを知っていたのであろう?」

「……」


 実は、ケビンがデジケイト王国にやってきたとき、速攻で大叔父エイドリアンに発見された。

 リーンハルト社が、エレンスキー王国で取得した『ケビン=K=エレンスキー』名義の特許権の越境調整をしていたから当然と言えば当然なのだが、数多ある書類の中で、目ざといこの大叔父は、『ケビン=K=エレンスキー』という名前を見逃さなかったのだ。

 リーンハルト社に問い合わせをした大叔父に、リーンハルトはすぐに面会の場を設け、すべてを白状した上で、秘密にするよう訴えた。

 そして大叔父は意外にも、その訴えに乗ってきた。


『ただの家出のまま放置すると、兄上とアレクシスがやみくもに捜索の手を伸ばすだろうから、こうしようか』


 大叔父は、近隣諸国を管轄する外交官仲間と調整の上、甥である国王アレクシス=K=エレンスキーに連絡。

 『ケビンの消息を知っているが、どこの国のどこに住んでいるのかを明かすと、ケビンが再度姿をくらますので、このまま放っておいてくれ』と、そう話をつけてきたのだ。

 国王アレクシスは相当渋っていたが、いざというときに連絡が取れるのであればと、最終的には捜索を中断した。


「私の居場所が知られてしまうと、おかしな兄弟姉妹が飛んできてしまうので、連絡することを避けたいのです」

「だがしかし……」

「このたびの成果は、王太后陛下をはじめとする器の大きい女性陣の皆様と、デイトナーズ公爵家の皆様の力によるものです。もし、私がこの国で生きることをお許しいただけるのであれば、今後もただの一代侯爵として、その末席に名を連ねることをお許しいただきたく存じております」


 ケビンが頭を下げると、王太后は困ったように国王クリストファーを見る。

 クリストファーは、困り果てた母と恩人を見比べたあと、ハハハと声を上げて笑った。


「食えない人ですねえ、ケレンスキー侯爵は。この世界、タダより怖いものはないっていうのに、こんなに僕達に恩を着せて」

「私はこの国からたくさんの恩を受けましたから。その恩返しなのです。ご配慮は不要です」

「ふふ。デイジー姉様の言ったとおりですね。本当に、素敵な方だ」


 ケビンが目を丸くすると、若き国王クリストファーは笑顔で手を差し出してくる。


「今回のご恩、あなたがどのようにおっしゃろうとも、僕は忘れません。何かありましたら是非、恩返しの機会をください」

「困りましたね。……デイジー様の言っていたイイ男の話は、あなたのことなのでしょうか……」

「おや。多分それは、私のことではないと思いますよ」


 手を握り返したケビンに、今度はクリストファーが目を丸くした後、呆れたように笑っている。

 横で見ている王太后も、笑いながらリーンハルトに「公爵令嬢にとっては前途多難な男よの」と声をかけていた。

 一体なんのことだ。


「そういえば、これはその、聞いていいことなのかわかりませんが」

「なんでしょうか、ケレンスキー侯爵」

「あなたは、バニラ様の魅了魔法をかけられなかったのですか?」

「いえ、かけられましたよ」

「軽い。いえ、それでその、抵抗できたのでしょうか」

「ああ、なるほど、それが気になるのですね。――ケビン様」


 ふふ、と意味深な笑みを浮かべたクリストファーは、母に聞かれないようにしたいのか、ケビンの耳に口を寄せる。


「私は貧乳派です」


 宇宙を見た猫のような顔をしたケビンに、クリストファーは声を上げて笑った。

 言われて思い返せば、バニラは割と豊かな胸の所有者で……。


 なるほど、いかに魔法で極限状態まで興奮させようとも、性癖の壁は超えられなかったらしい。



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