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41 ある日の平和な朝


 カーテンの隙間から日の光が差し、鳥の声が耳に届いてくる。

 ぼんやりと意識が浮上し、ケビンは目をこすりながら、のそのそと寝台から起き上がった。


 そこは、ケビンの寝室だ。


 寝台の脇には顔洗いようの水桶とタオル、そしてケビンの杖立てが置かれている。

 ケビンは小さな魔法石つきの数ある万年筆サイズの杖のうち、青色の石のついた杖を手に取ると、水桶の中に向かって杖を振った。


「【ウォータージェネル(お水追い水)】」


 水で満たされた桶を見た後、青い石の杖を杖立てに戻し、次いで赤い石のついた杖を取り出す。


「【モディヒート(適度にあったか熱)】」


 桶の水がぬるま湯になったことを確認したケビンは、赤い石の杖を杖立に戻し、顔を洗ってタオルで拭う。


 見渡す室内は綺麗に掃除を施されており、足の踏み場がなかった一年前とは比べ物にならない。

 スリッパを履き、のそのそと服を着替えながら、ケビンは部屋が広くなったなあと謎の感想を抱く。部屋は特段広くはなっていない。ケビンが積み上げたゴミが無くなっただけである。


「ケビン様、おはようございます。今日の幸運なケビン様当番はわたくし、チェルシーですわ!」

「……おはようございます、チェルシー様」


 先ぶれのベルを鳴らした後、室内に入ってきたのはチェルシー=デイトナーズ。ハニーブロンドの髪に海色の瞳の公爵夫人である。

 彼女は流れるようなしぐさでケビンの使った桶を回収し、内扉の奥にある浴室に湯を捨てる。そして、ケビンが脱ぎ捨てた服を回収すると、ケビンの頭の上から足のつま先までを確認し、うんと頷いた。


「いいですね。今日も最高に素敵ですわ、ケビン様!」

「ありがとうございます。チェルシー様は、朝から神々しいですね……」

「あら~、ケビン様ったら! わたくし達と同衾する意思が固まりましたのね!」

「私に王国公認熱愛公爵夫婦の間に入りこめと」

「入って来るのがケビン様なら、国中が安心して外堀を埋めてくれますわ」

「冗談はおやめください。冗談……冗談ですよね?」

「うふふ。朝食の準備ができていますから、一階に降りましょうか」


 チェルシーに誘われ、ケビンは一階へと降りていく。

 居間の団らんスペースには、弁当が七つ用意されていた。

 そして、当然のように、五人が座ってそこで待機している。


「「「「おはようございます、ケビン様!!」」」」

「ケビン様おはようございます」

「ああ、おはようございます……」


 朝から怒号のような勢いで鳴り響く挨拶に、低血圧のケビンはくらくらとめまいを感じながら、席に着く。一人だけ静かな声を出したのは、もちろんリーンハルトだ。


 席に着いたケビンは、先に座していた五人を見渡す。


 ダニエル=デイトナーズ公爵。

 デイジー=デイトナーズ公爵令嬢。

 ドビアス=デイトナーズ公爵令息。

 うちのリーンハルト=リンデン。


 そして、クラウスである。


「なぜここに居るのですか」

「ハハハ。つれないですねえ、ケビン様」

「うちに帰りなさい。ハウス!」

「ケビン様の力で、僕は王宮(おうち)を追い出されちゃったんですよ」

「別宅があるでしょう」

「そうだ、今日はちゃんと僕の分の弁当も注文したんですよ。見てください、この美味しそうなハニートースト弁当を!」

「誤発注で返品ですね」

「ケビン様、浮世離れしていますね。さすがは隣国第三王子です。王子を辞めた僕は知っているのですよ。生ものは……返品しづらいんだ……!」

「デイジー様」

「クラウス、黙りなさい」

「はい」


 黙々と弁当に手を付けるケビンとクラウスとデイジー。

 その様子を見ながら、笑いをこらえているのはリーンハルトだ。


「ケビン様。今日は月曜日ですから諦めてください」

「私はなぜ、あんな約束をしたのだ……!」

「ケビン様が僕の友達だからですよね?」

「あなたは宇宙人ですか?」

「世間の意表を突く発明を重ねる友人の意表を突く存在になることができるなんて、これほど嬉しいことはないですね」

「口が減らない」

「まあ、会話に飢えてるので」


 過去一素直なクラウスと頭を抱えるケビンに、デイジーは宇宙を見た猫のような顔をし、残りのデイトナーズ一家は苦笑いである。



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