幸せの旅
「あ!来た来た!春希くーん!」
そう言いながら、彼女は手を振っていた。
あの後は、自己紹介や連絡先を交換して解散した。彼女の名は夏希と言って、名前が春希と夏希で似ていることに驚いた。家に帰ると母は、
「春希!!よかったぁーごめんね。家出ていってなんて言って。ごめんなさいね。私は春希がちゃんとした大人になれるか心配でー。ちっとも春希が嫌な思いをしていたなんて分かっていなくて。」
母は泣きながらそう言った。僕も考えてみれば、母に今までの不満を全部ぶつけていたので、僕も母に「強く言ってごめん」と謝った。その後は、一緒にご飯を食べて和解した。落ち着いた頃自分の部屋に行って布団に潜り込んでいると、ある一通のメールが届いていた。僕は家族や夏希以外連絡先を繋いで居ないので、家族だと思ってメールを開いた。するとそのメールは夏希からだった。
『明日の朝ごろ空いている?予定入っちゃっている?せっかくだし、海一緒に見ない?』
明日も勉強の一日だろうけど、図書館に行くと嘘をついて行けばきっと大丈夫だと思い、
『うん。空いているよ。行こう』
『ほんと!?じゃあ〇〇駅に九時に集合ね!』
そうやって、夏希と会話しているといつの間にか寝てしまっていた。
「楽しみだなー!思いっきり楽しもうね!」
夏希はとってもはしゃいでいて、僕は笑った。
海に到着すると、人は少なく、波の音しか聞こえなかった。
「………ねぇ〜聞いてる?」
「あっごめんごめん。聞いてなかった」
「もう。春希くんったら〜。私が言いたかったことは、これから何をしたいってこと!」
久しぶりに一日中勉強ではない日で、十分に満喫していたが、夏希はそうでもないようだった。何をしたいか、僕には分からなかった。でも、夏希に聞かれたので何をするか考えていたところ、
「……じゃあ、せっかくだし、水かけ合いっこでもする?」
と提案した。「少し子供っぽくないか?」と思ったが、僕達を見るような人は居ないので、夏希の言う通りにする。靴を脱いで、靴下も脱ぐ。海に足をつかすと、ひんやりとしていて気持ち良かった。
「ん〜気持ちいぃ〜。やっぱ夏は海だよね〜!」
こくりと僕はうなづく。
早速夏希は僕に水をかけてきた。服がびしょ濡れになったが、とても気持ちよかった。夏希に答えて僕も水をかける。
「冷たぁー!…えい!」
「冷た!」
「春希くん女の子いじめちゃダメだよ〜!」
「いじめてないしっ」
二人で水をかけていたら、僕と夏希はずぶ濡れになっていた。夏希は声をあげて
「ははっ、ずぶ濡れになっちゃったね」
と笑っていた。その笑顔が、僕の全てを照らしてくれた。そのとき久しぶりに、いや初めて思った気がする。
これが幸せなのだとー。