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地球人と宇宙人と宇宙怪獣

 巨大な宇宙怪獣群が現れたのは4月1日であった。

 特定の国の会計年度に合わせたわけではないだろう。たまたまであると思われる。宇宙怪獣の名はドグルシャクモル。一般地球人はもっぱらクソクラゲと呼んでいる。

 いつ来るかわからないドグルシャクモルに備えて、地球人は急速に団結を強めた。

 ザクシーが最初に八百長宇宙人を出した時には遅々として進まなかった『地球を代表する組織』がついに組織された。

 ザクシーがアドバイザーになった事が大きかったが、ひとまずドグルシャクモルに対する備えとしてではあるが『地球防衛軍』は作られ、世界中の軍が協力すると言う偉業を達成した。


 ――ドグルシャクモル来襲の少し前。

「まさか本当にこんな事が出来るなんて、思いませんでした」

 千村仁美は新しく広いオフィスに構えられた宇宙人対策本部の一室を見渡して感嘆した。

「ボロい事務所の地下にいた頃を思い出しますね」

 秋月も頷く。

「最初の宇宙人が来たとき、自衛隊の船の上でA国とC国が喧嘩したりしてましたねー。私ただの書記官なのにあんな所に行かされてホント辞めようと思ってました」

「いや、君がいてくれて助かった。特に彼は君を信用したからここまで協力的になったんだよ」

 秋月の視線の先にはザクシーが居て、桂と会話しながら千村と秋月の元へ歩いてくる。

 見られていることに気がついたザクシーが「なんだい?」と首を傾げる。

「いや、地球人同士がこんなに協力出来たのもザクシーさんのおかげだなって」

 オフィス内は様々な言語が飛び交い、いろんな国への連絡が密に行われている。

「まあ、それもドグルシャクモルを撃退したあとの主導権争いみたいな思惑あっての事ですけどね。自国がどれだけ貢献したのかをアピールしたいから我先に、と」

 桂が冷めた口調で言う。

「権力者がどんなつもりであっても、世界中の人々が見るのは国の垣根を超えて協力し合う地球人の姿だ。そこから生まれたものが、やがて世界を変えていく。我々は今初めて、真に地球人と呼べる存在になったのかも知れないよ」

 秋月の言葉に千村も嬉しそうに何度も頷く。

「まあ全てはドグルシャクモルに勝たなきゃ無駄だけどね」

 トオナが少し離れた長ソファーで千村の猫を抱きながら声をかける。

「太平洋海上とかに1か所に纏まって、多めに考えて30体くらい? 出てきた場合は十分対処できるとの事です」

 カースがトオナの隣に座って微笑む。

「地球はドグルシャクモルに恐怖するどころか、お祭りムードだ。世界中が協力し合う事で達成感と自信がついたんだろうな」

 秋月が壁に貼られた地球防衛軍のポスターをコンコンと叩いた。世界各国の指導者が肩を組んで微笑んでいる。

「浮ついたところを突き落とされなければ良いんですがね」

 桂がため息まじりに苦笑いを浮かべる。

「……そういえば、ザクシーはまだ『根源』は使えないんだよね?」

 トオナが小声で聞くとカースは俯きがちに首を振る。

「検査の結果は異常無しなんだけど、今まで『根源』を攻撃された事なんて無いからなんとも言えない。本人もちょっと元気無い感じ」

 二人はウーンと腕組みをする。そこに会話を聞いていた千村が中腰で駆け寄ってくる。

「そもそも『根源』て何なんですか? 地球人に当てはめるとしたら」

 千村の問に答えたのはトオナだった。

「地球人とユーシー星人両方の意見を聞いた結果、近いのは『本能』だと思ったよ。ユーシー星人はそれをよく分からない理屈で技術化して使っているみたい。私も宇宙人だけどそんな種族に出会ったことは無かった。正直反則みたいな能力だと思ったけど、ドグルシャクモルみたいな天敵が居るんだもんなあ」

「本能を攻撃されるってどういう事なんだろう」

 いつの間にか聞いていた秋月が胸に手を当てて考える。

「地球人的には、本能的恐怖というのは天敵や危険から身を守るために備わった反応と言えます。ザクシーさんはそれを無理矢理引き起こされて、強烈な恐怖症や不安障害を刻まれたのではないでしょうか?」

 これまたいつの間にか会話に参加していた桂が淡々としながら冷たく聞こえないトーンで自説を述べる。

「まあ、恐怖を糧にする存在としては実に理にかなった攻撃だな」

 被害者のザクシー本人が頷く。

「全員こっちにくるならヒソヒソしなくて良くないですか?」

 カースが言うとトオナに抱かれた猫が鳴いた。

「チムキャットもそう言ってる」

「サーシャなんですけどみんなチムキャットって言うからサーシャって呼んでも反応しなくなりました」

 それに関しては全員が加担していたので何も言わなかった。

「そういえばエイホとベーケイは?」

 ザクシーが話題を変える。

「エイホさんは運転免許と自動車を贈られたので居候先のお婆ちゃんと買い物に行ってます。あ、ちゃんと試験は受けたみたいです。で、ベーケイさんは宇宙海賊を率いて地球周辺のパトロールをしてくれています」

「ベーケイはともかく、呑気なものだなあ」

「いやいや、そんな日常を守る事こそが我々の使命ですよザクシーさん。お婆さんを守るためにエイホさんは日本の防衛に専念してくれるのですし」

「どういう関係なの、そのお婆さんとは?」

「細かくは教えてくれませんね。買い物に行ったり一緒にご飯を作ったりしているようです。そういう話は聞くんですが政府の人間が利用しようとか考えて接触してきたら殺すと言っていました。もちろん困った事があれば力になるとは伝えてありますが」

 と桂。

「アイツすぐ殺すとか言うよな」

 ザクシーが苦言を呈す。

「宇宙海賊だしね。そういう世界で生きてきたのよ、私たちは」

 トオナが伏せ目がちに述懐する。

「……そういえば」

 秋月が何か質問しようとした時、オフィス全体にけたたましい警報が鳴り響き、隊員の一人が叫んだ。

「対象確認! 場所複数! 数は50……増えて70……100まだ増えます!」

「海上にまとまって30体ならなんとか……て話だったが……そう都合良くは行かないか」

 ドグルシャクモルの出現位置を記したモニターを睨みながら秋月が拳を握る。

「日本は今のところ渋谷と大阪の梅田です。訓練の甲斐あって避難は迅速に行われています」

「避難が完全に間に合っていない場合でも怪物への攻撃は行われると言う世界共通の対応も布告されていますので、速やかに対処をお願いします」

 報告を受けた秋月がよく通る落ち着いた声で間を置かずに「行動開始」と言うと、その場にいた全員が「はい」と答えて足早に動き出した。

「だがここで我々に出来るのが関係各所への連絡しかないというのが歯がゆいな……」

 秋月が呟く。

「エイホさんには連絡済みです。ベーケイさん達、宇宙海賊ボリガーの戦闘機50機も分担して世界中に散ってくれています。東京はエイホさん単体で対処可能との事ですが一応自衛隊も出動します」

 桂の報告に秋月が頷く。

 ザクシーはモニターに映る世界中のドグルシャクモルを苦しそうに睨みつける。

 触手で薙ぎ払われて倒壊する建物、叩きつぶされる自動車、軍隊の攻撃の爆発に巻き込まれる人々、被害が出るのは避けられないだろうとわかっていたが、まざまざと見せつけられると胸が引き裂かれるような痛みを感じる。

 かつてユーシー星が天体衝突で滅びゆく中、まだ同胞がいる星が焼き尽くされていく光景を思い出した。

 脱出できた全ユーシー星人が泣いたあの日、あんな地獄が地球でも起こるかもしれない。

 地球人と宇宙人が協力して戦い始めたというのに、自分は何も出来ない。

 『根源』を直接抉り取られる感覚がいつまでも消えない。

 ザクシーはオフィス内とモニター内の喧騒から隔絶されたような無力感に打ちひしがれて立ち尽くした。


 ――――――――――――――――――

「うん。ちょうど家に着いたとこ。すぐ行くよ、ダイオーと。うん、じゃあね」

 エイホが電話を切ると、おばあちゃんは「行くのかい?」と聞いた。どこに、とは聞かない。

「うん、ちゃちゃっと終わらせてくるよ」

 軽い運動にでも出かけるかのように、エイホは簡単なストレッチをして駆け出した――

 そしてすぐに戻ってきた。

「おばあちゃんごめん、お肉とか冷蔵庫に」

「入れとくよ。そのくらい出来るわい」

「オッケ! じゃ行ってきます!」

 買い物から帰ったばかりでまだビニール袋から出していない状態だったのだ。

 おばあちゃんはエイホが再び走り去った後、淡々と買ってきた物を袋から出して整理していく。

 テレビをつけて、チャンネルを変えても変えても緊急報道ばかりなので消した。よくわからないし。興味がないのだ。ただただ大変な仕事に行ったのであろうエイホの無事を祈って仏壇に手を合わせた。

 そのエイホは林の中を猛スピードで駆けていく。遠くにいつぞやの熊が居たような気がしたが無視。

「来い! ダイオー!」

 叫ぶとはるか上空から20メートル程のロボット、ダイオーが落下してきて草むらに地響きを立てた。

 ダイオーを見上げてエイホがつぶやく。

「一緒にいた方が安全だし、今度おばあちゃんの席を作ろう」

 エイホが跳躍してダイオーの頭部を開けて乗り込む。

 操縦桿を握ると沢山の計器に光が灯り、モニターの上にウインドウが開き、ドグルシャクモルが映る。

「オッケー、まずは1匹目だ」

 エイホがニヤリと笑い、ダイオーは足の裏からジェット噴射をして飛んでいった。

 

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