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地球防衛作戦2

『宇宙人強さランキングって知ってます?』

 作戦説明時に桂がそう尋ねた瞬間、エイホの顔が曇った。

『エイホさんの乗るロボットがダントツでビリなんですよね』

 エイホは長年の愛機が雑魚キャラ扱いを受けている事にはずっと憤りを感じていた。

 ザクシーに2度負けた自分が悪いのだが、ダイオーのポテンシャルはまだ全て見せたわけではない。

 本来ならばハリボテ宇宙クラゲなどではなく、強い相手と戦ってダイオーの強さを証明したかったのだが、ザクシーに負けた自分に課された使命である、と自分自身を納得させた。

『そんな低評価のロボットがドグルシャクモルを倒したら、地球人のドグルシャクモルへの恐怖心は限りなく取り去られると言う狙いです』

 ムカつきはするが、確かに効果はありそうだ。

「仕方ない。さっさと終わらせよう」

 本物のドグルシャクモルの群れが来る前に、作戦を遂行しなければならない。

 カースが作戦を実行した翌日、早速作戦は開始された。

 エイホが乗る修理されたダイオーを転送装置で昭和記念公園へ移動させ、住民の避難を待ってから偽ドグルシャクモルを出して破壊する。簡単な作戦だ。

 

「ネットの反応は?」

 本部でモニターを眺めている秋月が問うた。

「ダイオーの出現について『何しに来たん?』『またお前か』『草』という意見が多いですね。あとはカースさんの登場を期待する声が多いです」

 千村仁美の報告を聞いてカースが嫌そうな顔をする。

「よし、それはエイホさんには伝えないでおこう。早めに終わらせよう、カースさん偽ドグルシャクモル転送をお願いします」

「わかりました。はい行けー」

 視界モニターを操作して眼球をあらぬ方向へ向けるカース。


「お、きたきた」

 ダイオーの前にドグルシャクモルが前回と同じように空間から滲み出るように現れる。

 退治するロボットとボロ布怪獣。

「『お前もか』『おいおいこいつらグルか?』『戦うのか?』と言う反応です」

「わかった。エイホさん始めてくれ」

「おー、んじゃ壊すよー」

 エイホの緊張感のない掛け声とともにダイオーの肘関節すら無い右腕が上がる。

 ――その瞬間、偽ドグルシャクモルが突然地面に叩きつけられた。

 エイホはまだダイオーの腕を振り上げたままだ。

「……なんだ?」

 エイホと秋月が別の場所にいながら同じ言葉を発した。

 地面にめり込んでアチコチもげてしまった偽ドグルシャクモルに覆いかぶさるように、もう一体ドグルシャクモルが現れた。

「まさか……本物か!?」

 秋月が振り返る。トオナとベーケイとザクシーに。

「そのようだ。すぐに俺もギャプゼルを出す」

 ベーケイが頷いて駆け出そうとした時、ダイオーの右腕が振り下ろされた。

 ダイオーの腕がドグルシャクモルに叩きつけられる。

 ガガンと衝撃音が鳴り響き、ギュイイと耳障りな声を上げてドグルシャクモルが後退する。

「やっていいんだよな!?」

 エイホはコックピットで不敵な笑みを浮かべて叫んだ。

 作戦室の返答が来る前に、ダイオーが足の裏のキャタピラを高速回転させて前進し、膝関節すらないのに何故か跳躍してドロップキックを繰り出した。

 再び轟音が鳴り響き、ドグルシャクモルが苦しげに体液を撒き散らした。

「エイホ、やれるの!?」

 トオナが叫ぶ。

「当たり前でしょ! 見とけよザクシー、ダイオーの真の実力を!」

「気をつけろ! 『根源』は無くても精神を攻撃してくる可能性がある!」

 ザクシーはドグルシャクモルを見るだけで苦しそうに顔をしかめている。

 ドグルシャクモルは体を震わせたかと思うと、体から霧を放ち始めた。

「あの時のベタベタした霧だ」

「よし、俺も行くぞ」

 ザクシーのつぶやきを聞いてベーケイが再び走り出す。

「必要ない!」

 エイホが短く言い放ち、ダイオーの胸部アーマーが開き、露出した砲塔に紫色の光が収束していく。

「そういやそんなのあったな」

 ザクシーが薄く笑う。

「くらえー!」

 エイホが楽しげに叫び、砲塔からガガガガガガと爆音とともに紫色の無数の光弾が放たれた。

 光弾は至近距離で全弾命中し、ドグルシャクモルは体液と肉片をばら撒いてよろめく。

「全弾命中、貫通無し。市街地への被害無し」

 隊員の報告を聞いてホッとする秋月。

「目標、触手を展開」

 次の報告を聞いてザクシーの顔色が変わる。

 無数の触手の先に切れ目が入り、パカッと開く。

 そこから牙と目がむき出しになり、一斉にダイオーを睨みつけた。

「マズい、ザクシーがやられた奴か?」

 ダイオーの動きが止まる。

 触手は数を増やし、次々にダイオーを取り囲んで睨みつける。

 徐々に距離を縮めていき、品定めするように様々な角度から睨め付ける。

「エイホ! 大丈夫?」

 トオナの呼びかけにエイホは答えない。

「マズい、俺も行ってくる!」

 ベーケイが三度走り出す。

 が、その瞬間ダイオーの両手が前方に突き出され、体全体がすばやく1回転し、触手を殴りつけた。

「なんだよ気持ち悪いなコイツ!」

 エイホの怒声が響く。

「平気ならさっさと返事しなさいよ!」

 トオナが怒った。

「なんかすごい見てくるからダイオーの中から睨み返してた」

「な、なんで無事なんだ?」

 ザクシーが不満げに聞く。

「え? 知らん。まあ何されたかわからんくらいの攻撃なら問題ないじゃん。なんかジロジロ見てくるしムカつくから殴っといた!」

「おい、問題ないんだな!? 俺はもう行かないからな!」

 ベーケイが苛立たしげに聞く。

「来いなんて言ってないだろ。ダイオーの真の強さを見てな!」

 ダイオーが両手を下げてから背中側まで回しギギギと関節が軋む。そこから高速で腕を振り上げ、アッパーの様な攻撃ともに跳躍し、空中で縦回転と捻りを加えてドグルシャクモルの上に着地した。

 踏みつぶされたドグルシャクモルはギョアアアと悲鳴を上げて地面にめり込む。

 ダイオーはそこから錐揉み回転を始め、更にドグルシャクモルを文字通りひねり潰す。

 敵が可哀想になるほどの映像を眺めながら、カースがトオナの肩をツンツン突く。

「つまりどういう事なんですか? どうしてエイホさんは平気なんですか?」

「わからない……。ザクシー……ユーシー星人だけが特別にアレに弱いって可能性もあるけど……」

「もしかしたら、中に乗ってる奴が本体だってわからないんじゃないか?」

 秋月も話に加わる。

「わざわざ乗り物を二足歩行にして中に乗ってるとは思わない……とか」

「つまりドグルシャクモルはダイオーの精神を攻撃したけど、中のエイホさんは対象外……ってこと?」

 カースが首を傾げる。

「仮説だけどね。希望的観測に満ちた」

 秋月が苦笑いを浮かべて腕を組む。

「まあ何にせよ、逃がすなよエイホ!」

 ベーケイが大きな声をあげる。

「逃さねえよっていうか、終わったよ」

「へ?」

 ダイオーの回転踏み潰し攻撃により、ドグルシャクモルの胴体は大きく穴を開けられ、ダイオーが立っているのはもう地面だった。

「死んだら消えないのかなコレ?」

 エイホはダイオーの足でドグルシャクモルをツンツン突いて見るが、動いたり消えたりする様子はない。

「ネットでは『クソダサロボット強えw』『いやクラゲが弱すぎる』『1匹目の潰されたクラゲなんだったん』『ランキング変動来た』と盛り上がってます」

「本物が来たのは焦りましたが狙い通りです。いや、本物を倒せるとわかったので狙っていた以上の成果です」

 桂は満足そうに微笑み「さすが正義の味方」と頷いた。

「だがまだこの後ドグルシャクモルの群れがやって来るはずだぞ。恐怖を払拭されて弱体化したとはいえ、エイホだけで地球全体を守るのは不可能だ。俺もギャプゼルで戦えるが正直複数相手にするのは厳しい。ユーシー星人は相性が悪い。となると戦わないといけないのは……」

 そこまで言ってベーケイの視線は秋月、そして隊員達へ向けられる。

「……我々、地球人ですね」

 秋月が頷く。

「しかし戦えるとして、当然自衛隊だけでは全地球上のドグルシャクモルは手に終えません」

 そう言って桂は秋月の前のデスクにノートパソコンを置いた。

「ですから、地球人が利害を越えて一丸となり、ドグルシャクモルを退治しなくてはいけません。作戦の草案はコチラに」

 全員が息を飲んでその作戦内容を見ようとノートパソコンを覗き込む。

「……おーい、私はもう帰っていいのかー?」

 エイホは一人、ドグルシャクモルの残骸をダイオーで持ち上げて呟いた。

 

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