宇宙人vs宇宙怪獣
ザクシーは強化ボディのサイズを20メートルに設定した。
100メートルにしてネバネバの霧に多く当たるのが嫌だったのだ。
前方の宙を漂う巨大な暗緑色のボロクラゲ。周囲にはいくつかの煙の柱。軍の航空機が墜落したのだ。
ザクシーは霧に触れないように距離を取りつつ、センサーで霧の成分を解析する。コラーゲンやタンパク質が含まれているようだ。コレに航空機のエンジンやプロペラがやられて墜落しているのだろう。
ザクシーが触っても墜落したりはしなそうだが、気は進まない。出来れば遠距離から仕留めたい。
「とりあえず捕獲して調べてみるか」
旋回しつつボロクラゲの観察を開始。が、旋回してすぐにわかったことがある。
ボロクラゲはザクシーの方向へ向おうとしているのだ。
「私を狙っている?」
ザクシーは胸中に未知の不快感が滲み出て来るのを感じた。
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エイホはザクシーが浮かべた記録用のドローンの映像を見ていた。
旋回を始めたザクシーをボロクラゲが追い始めたのを見て、
「おい狙われてるぞ、気づいてるのか?」
とヤキモキしている。
「捕獲しようとか考えてそうだなあ。まあどっちでもいいから先手を取れ。威嚇じゃなくて勝負が決まる強さのヤツでだぞ」
戦うことに関しては、同種族で争わないユーシー星人のザクシーよりも、自称宇宙海賊ボリガー最強戦士のエイホの方が上だ。テクノロジーに差があり過ぎてエイホが負けているだけであって。
「ああもう、何を悠長に眺めてるんだ!」
そのエイホがイライラし始めたところで、ボロクラゲが動きを変えた。
旋回するザクシーをゆっくり追いかけようとして回転していたが、やがてすべての触手を上に向けた。
その触手の先に丸い突起が出来たかと思えばスッと切れ目が入り、鋭い牙が見えた。そしてさらにその牙の奥には眼球が見えた。およそ生物としてはありえない形態だ。
エイホは、不思議とその目が笑っているように感じた。
「なんかヤバそうだぞザクシー、攻撃しないなら一旦帰ってこい!」
声が届いたわけではないが、ザクシーも何かを感じたのかボロクラゲに掌を向け、水色のエネルギーを集束させた。
「よし、撃て撃て」
エイホが安堵の表情を浮かべて急かす。どんな相手であれ、ザクシーの武器なら倒せないはずはない。身を持ってそれを実感している。
「ん、どうした?」
ザクシーの様子がおかしかった。
収束させていたエネルギーは霧散し、ザクシーはゆっくりと降下しながら頭を抱えて仰け反った。
「なんだ? なんかされてるのか?」
映像では何かされた様子は無かった。たくさんの口だか目だわからない物を向けているだけだ。
ザクシーはゆっくりと地面に着地し、頭を抱えたまま前のめりに倒れた。
「何をされてる!? おいザクシー!」
頭を抱えて体を丸め、苦しそうに痙攣し続けるザクシー。
ボロクラゲがザクシーに接近していく。
「おいおい、どうしたんだよ! 起きろ、逃げろ、頑張れ!」
エイホの応援も虚しく、ザクシーは遂に強化ボディを解除し、顕になった小さな本体が地面に倒れたまま動かなくなった。
「クソッ、私が行くべきだったか……地球の軍隊はもう居ないのか? 日本の宇宙人対策本部に今から連絡しても遅いか……こんな時のために地球人との連携を進めておくべきだったんだな」
ボロクラゲがザクシーに覆いかぶさるように近づいていく。
「食べられる! ザクシー!」
エイホの焦りが最高潮に達したが、何もできない。
その時、エイホの居るザクシー基地内の警報が鳴り響いた。
「なんだ!?」
モニターにユーシー星人の言語で何かが表示されるがエイホには読めない。
それは地球に宇宙から何かが接近してきたときの警報だった。
ザクシーに覆いかぶさったボロクラゲの上空に、何かが宇宙から迫ってきている。
空気を切り裂く轟音でボロクラゲも動きを止めた。
「なんでもいい、味方であってくれ……」
エイホが固唾を飲んで見守る中、近づいてきたソレの姿が見えてきた。
先端が切り詰められた赤い円錐形の機体。旨味調味料の小瓶の様にも見える姿をした、金属板に覆われた飛行物体だ。
「最悪!」
エイホはソレに見覚えがあった。
「そうか、お前らの仕業だったんだな……ボリガー」
宇宙海賊ボリガーの宇宙戦闘機ギャプゼルだった。
エイホは理解した。
あのボロクラゲはボリガーが連れてきたのだ。ザクシーを始末するために。
エイホが与えられた地球侵略作戦を全くやらないので、ボリガーが痺れを切らしたのだ。
宇宙戦闘機ギャプゼルの上面が展開し、パイロットの姿が見えた。パイロットが操縦桿上部のモニターパネルを操作すると、機体先端の赤い部分が発光する。 レーザー機関砲だ。
「オイ、やめ……!」
エイホが叫んだのと同時に無数の赤い光線が放たれた。




