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宇宙人と知らない怪獣

 ユーシー星人の母船とは、24時間に1度調査報告をする事になっている。

 この日もいつもと同じように通信を始めたのだが……。

「ん……繋がらない……?」

 地球の技術では無い。『根源』を用いたテレパシーにも近い通信方法である。それが繋がらないというのは初めてだった。モニターにも何も映らない。

「故障か?」

 ザクシーは眉をひそめて通信機を操作する。

 母船の様々な部署に通信してみるが反応はない。

「ふむ……」と少し考えて、別の相手にで通信を試みる。

 少し待つと、ついに通信機から声がした。

『なにー?』

 気の抜けるような間延びした返事。緊張感のない声。

 エイホだ。

「あ、繋がるな……。すまない、仲間との通信が出来ないので機械の故障かと思ったのだが、お前には通じた。故障とは違うようだ」

『そうなの? 良かったじゃん』

「良かったのか、良くなかったのか……」

『はぁ〜? 良いに決まってんじゃん壊れてなかったんだから――』

 まだワーワーまくし立てているエイホの言葉をうわの空で聞き流し、ザクシーは最悪のケースを想定していた。

「まさか……『根源』の異常なのか……?」

 地球上の相手への『根源』を用いない通信は可能だった。機械は故障していない。

 母船から一人で遠く離れた事によって『根源』から分離してしまったのだろうか? そんなケースは聞いたこともないが、今の自分のような環境に置かれたユーシー星人も過去には居ないし可能性はある。

 それとも母船に何かが起きたのか? しかし巨大な母船まるごと程の規模で通信不可になるような異常があったのなら、『根源を用いた技術』の通信はできなくとも、『根源そのもの』によるユーシー星人の全体意思は感じ取ることは出来るはずだ。

 やはり自分の『根源』に問題があるのでは……とザクシーが不安を覚えた時、

『オイ! 聞いてんのか!』

 とエイホの怒鳴り声で我に返った。

「あ、ああ、なんだ?」

『だから、いまテレビに出てるヤツお前のだろ? 行かなくていいのかって!』

「テレビ?」

 エイホが見ているのは日本のテレビだろう。ザクシーは世界中のメディアを見ることができる。エイホが見ているテレビを探すまでもなく、世界中で同じ映像が映し出されている。

「何だこれ……?」

『え?』

 雪原の上をゆっくりと漂う、暗緑色のボロ布で作ったクラゲの様な『何か』。ザクシーにはこんな物を作った覚えはない。映像を見る限り大きさは幅30メートル程で、垂れ下がったボロ布を含めて体高は50メートルくらいだろうか。

 場所は北極。浮遊したまま時速約20キロで南西へ移動中らしい。

『お前の仕業じゃないのか?』

「こんなものは知らない。地球の生物ではないのか?」

『バカ言うな。こんなの居てたまるか。何だコレ? 宇宙から来たのか?』

 二人は映像をかじりつくように凝視し、情報を得ようとするがフワフワしているだけで変化がない。

『あ、戦闘機が来たみたいだぞ』

「ああ、場所的にはR国軍か?」

『えーわかんない。アレもまだ何もしてないけど攻撃するのかな』

「警告や威嚇が通じる相手にも見えないが、先手を撃たれて壊滅的な被害を受ける可能性もある」

『私が地球に攻めてきた時は、事前に地球の軍事力を調べて、勝てると判断して来た。まあ私は本気じゃなかったし、予定外の水色宇宙人の妨害で失敗したけど』

「私もそうだ。万が一地球人に攻撃されても問題なく勝てると判断してから来た。途中で予定外の恰好悪いロボットが出て来たが問題なかった」

『殺す』

「むっ、見ろ、何かするつもりだぞ!」

『殺す!』

 ボロクラゲは垂れ下がっていた部分をゆっくりと振り上げて、戦闘機の方へ向ける。

 戦闘機は当然それが届くような範囲には居ない。

「何をしている……?」

『なんか出してる。霧みたいな』

 二人が今見ている映像はドローンカメラの生中継だが、ボロクラゲの周りに霧のようなものが撒かれ、その姿が白く霞んでいく。

 攻撃らしい事はしていない様に見えるが、ドローンカメラのレンズに水滴が付き始めると、突然急降下、いや、墜落し映像が途切れた。

「何が起きた?」

『アレ? おいなんだよどうなったんだよ』

「別の中継を見ろ、個人の配信で撮ってる人が居る」

『テレビではどこのチャンネルもやってないんだよ! おい迎えに来てよ、私もそっちで見る』

 ザクシーは拠点にエイホを連れてくる事に少し悩んだが、何が起きるかわからないので今は協力した方が良いと判断した。

「……わかった。すぐに行くから最小限の荷物だけ準備しておいてくれ」

『オッケー!』

 ザクシーは通信を切ってから「そういえば『根源』がおかしいが転送装置は使えるのか? あとユーシー以外の生命体は……まあ登録すればペットも転送出来るのだから大丈夫だろう」と一人呟いた。



 ザクシーの心配をよそに、転送は問題なく行えた。

「出来たなあ」

「おい、もしかして危ない橋を渡らせたんじゃないだろうな」

 首を傾げるザクシーをエイホがジト目で睨むが、ザクシーは意図的に無視してモニターへ向かった。

「おい見ろ、戦闘機が……」

「え?」

 二人がモニター前に並ぶ。ザクシーの身長に合わせているのでエイホは窮屈そうに屈んでいる。

 ボロクラゲの周りを飛んでいた戦闘機が高度を下げて行く。攻撃を受けた様子はない。そしてそのまま墜落した。

「うわ、落ちたぞ」

「何をした?」

 映像を撮っている配信者は、ボロクラゲの出した霧に何か違和感を覚えたようで、カメラの前に自分の手を出してグルグルと回し、カメラに手のひらを近づけて握ったり開いたりして見せた。ネチャネチャと音がする。粘性のある霧のようだ。

「うわ、気持ち悪いな」

 エイホが顔をしかめる。

「アレが戦闘機のエンジンを壊したのか?」

「この配信者は大丈夫なの? こんなの触って」

「調べてみないとわからないな。コイツがどこから来たのかも不明だ。なんにせよ、このまま放置したら被害が増えそうだが、地球人が何とかできる相手だろうか」

「うーん、攻撃が効くのかなあ。でもコイツも私達みたいに、地球人に勝てるって確信してから出て来た可能性もあるよなあ」

 二人はモニターに映る異形を真剣な面持ちで観察するが、やがてザクシーが意を決したように言った。

「何にせよ、調べなくては。行ってみる」

「大丈夫なのか? お前調子悪いんだろ?」

「お前に心配されるとはな……大丈夫、危ないと思えばすぐに戻るさ」

「そりゃそうか。んじゃ行ってらっしゃい」

「勝手にアレコレ触るんじゃないぞ」

「ハイハイ早くいけ」

 ザクシーが視界内のコンソールを操作して手を動かすのを(パラパラ踊ってるみたいだなあ)と思いながらエイホが冷めた目で見つめる。

 自身の転送と同時に強化ボディの起動を設定し、エイホと小さく頷き合ってザクシーは青白い光の中に消えた。

 

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