地球滅亡計画
ザクシーは洋上基地で空を見上げていた。さっきまでかじりついていたモニターにはSNSと世界中のテレビが写っている。もう背中を向けているが、気にしているのはソレの事だ。
エイホに話題をさらわれてからもザクシーはコツコツと宇宙人退治を演出していたが、やはりエイホの勢いには届かなかった。
新怪獣だとか新技だとか、その程度の展開ではもう地球人は盛り上がってくれない。
エイホと協力して地球人の信頼を得ていく筈だったのに、まんまと出し抜かれた形だ。
そしてザクシーなりに分析してみたのだが、両者の違いは「敵」だと考えた。
ザクシーは善良なユーシー星人の拘りで「地球に被害を出さない」という縛りを課している為、地球人が困る前に宇宙人を退治してしまっている。
被害を出す前の宇宙人を倒すザクシーと、被害を出している地球人を懲らしめるエイホ。地球人がありがたみを感じやすいのは後者なのだろう。
予防よりも治療や対処の方が実感しやすい。そういうものだ。
ザクシーはエイホのように特定の地域だけを守るわけにはいかない。多くの地球人に必要な治療や対処とは何だろうか?
自然災害。起きていれば助けるが起きていない。
戦争。宇宙人の出現でひとまず休止している。
疫病。難病。地球人が現状克服し得ない病も、ユーシー星人の技術なら治すことが出来るかも知れない。だがそれが新たな病や深刻な副作用を生む可能性もある。薬や治療法を軽々しく自分達と違う生物に使うわけにはいかない。進歩や進化の為に、自分たちで乗り越えねばならない問題だと考えている。
もちろん、万が一地球人が滅んでしまうような状態であったなら、やむを得ず手を貸すことはするが。
「そう、地球が滅んでしまうような危機感が……それでいて……実際には何も……」
ザクシーは空を見つめながらそう呟く。
呟きながら、少しずつアイデアが産まれて形になっていく。
他のユーシー星人では思いつかないような、悪いアイデアが。
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「何故発覚がこんなにも遅れたのですか?」
記者の質問と同時に無数のフラッシュが焚かれる。
登壇者の一人がマイクを握る。
「発覚が遅れたと言う表現は相応しくない。我々国際宇宙管理局は10年以上前からこの小惑星の存在は掴んでいた。地球に衝突する可能性はゼロだった。それが昨日突然軌道を変え、地球に衝突するコースに入った。即座に警報システムが正常に作動し、世界中の関係者の協力のもとで分析した結果、衝突は確実であると分かり、世界中の混乱を覚悟した上でこうして発表しているのです」
会見会場にどよめきが走り、再びカメラのフラッシュが焚かれる。
記者が挙手し、司会が手を向けてどうぞと促す。
「何故小惑星は軌道を変えたのですか?」
「我々は、衝突した場合地球に重大な災害を与え得る『地球近傍天体』を数千個把握している。そしてそれ以外の小さな物も含めると数万です。今回はそれ以外のさらに小さな小流星群が歴史上観測したことのないスピードで小惑星に衝突、加速したのではないかという事です」
質問した記者が更に続ける。
「小惑星の名前は?」
「ディオニュソス。元々ついていた名前です」
ディオニュソス、と記者達はその名を口にし合う。
最後に、と前置きして件の記者がもう一度挙手しながら質問をした。
「衝突はいつ?」
会場が静まり返る。その場の全員が聞き逃すまいと黙り込んだ。
「……半年後」
悲鳴と悲嘆とフラッシュの光が会場に広がった。
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『おい、お前だろ』
エイホからザクシーへ通信が入り、応答して最初の一言がこれである。
「なんの事だ?」
ザクシーはいつもよりもシリアスな雰囲気で応じた。
『はいはいそういうのいいから。今すぐ隕石どかせ』
「隕石じゃない。小惑星だ」
『知らないよそんなもん。あのさあ、お前地球に被害出したくないんじゃなかった?』
エイホとトオナにはその辺の事情は話してある。
「もちろんだ。だから衝突する直前に私が……」
『それじゃ遅いんだよ。お前は地球人を分かってない。あと半年で地球が滅亡するかもってなったら地球人はどうすると思う?』
「そりゃあ、協力して解決策を考えたり……」
『違う。暴動、略奪、自暴自棄、などなど。世界中の治安はメチャメチャだ』
「え?」
『もちろん解決策を考えたり、救世主のお前をあてにしてヤケクソにならない奴も多いだろうけど、一部の地球人が無茶苦茶やり出すとなると、被害は連鎖的に増え続けて隕石衝突前に地球に相当な被害が出るぞ』
「なんでそうなる!? そんなことして何になる!?」
『ユーシーの仲良し村とは違うんだ。私にはむしろお前達の方が異常に思える。ニュース見てみろ、A国じゃもう略奪が起きてるぞ』
モニターに世界のニュース映像を出してみる。A国某州マーケットで大勢の市民が商品を略奪している。
「本当だ……なんて事だ」
『今すぐ、行け』
「わ、わかった」
通信を切り、ザクシーは大慌てで基地から飛び出していった。
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その後A国の略奪行為現場に巨大化ザクシーが現れ、人々を指差して「やめろ」と諭し、すぐに空へ物凄いスピードで飛び立った。
一瞬で地球へ向かっていた小惑星ディオニュソスへたどり着き、エイッと軌道を変えた。
この映像はすぐにザクシー本人によって地球へ届けられ、国際宇宙管理局もディオニュソスが衝突軌道を外れて安全になったことを発表し、地球の混乱はすぐにおさまった。
ザクシーへの感謝の意は世界中から届けられたが、本人は大いに反省し、しばらくの間悪の宇宙人退治劇場も行わなかった。
ザクシーの慌てぶりにより、今回はザクシーを疑う声は少なかった。
しかし地球人の中に「もしもザクシーが対処できない事態が起きたらどうする?」と考える者は増えているのだった。




