~終章~
空は白々と朝を向かえようとしていた。
一部黄金石と化した水面に、東から昇る太陽の光が差し込み暁となり光彩を放つ。
そして俺はようやく人間界に姿を現した。あとは仕上げだ。
平和を告げ均衡をとる作業を兼ねながら体を上下にうねらせ、わざと人間の目に映るように朝陽を浴び優雅な動きで大きく空を旋回する。
「あっ、あれは?」
「黄金の竜!」
「伝説の黄竜だわ!」
「やはり、あなたが王だという証だ! これは天啓だっ!」
口々に言う人間達の言葉は、一度に現れた奇跡に酔いしれたものだ。これでミラーを次の新王とするお膳立てが整う。
だが俺はまだ『黄竜』じゃねぇ。その下の『応竜』だぞ。まあそういう間違いもミラーにとっては好都合だからいいか。
「……ほ、本当だ。黄竜だ。そうだ彼は黄竜になったんだっ!!」
おいおいミラー、テメェまで言うかよ。そこは演じなくていいんだよ。もしそう見えたとしても目の錯覚だってぇの。
すると、まるで引き付けられるように鳳凰と白竜、そして赤竜と黒竜までが近付いてきた。
「おいおい、テメェら何しに来るんだよ。これから均衡を作る作業をしようと……って、えっ!?」
旋回中の俺は四体の竜に無言で囲まれ、それぞれが陶酔しているように見えた。
な、何なんだ――!?
否応なしにそれは接近してきた。これは俺のあずかり知らぬ事だぞ?
「ちょ、ちょちょっちょっと待てよお前らあぁ――っ!!」
まるで俺の声が聞こえないかのように、俺自身に吸い込まれてくる。同時に、彼らの体が発光し始めた。
白い光と黄色い光。黒い光と赤い光が、一様に迫ってくる。
異様な空気に、俺は動きを止める。が、彼らの動きは止まらない。
俺、また何か悪い事したか!?
「ど、どういう事だよ? だからぶっ、ぶつかるってえぇぇっ――っ!!」
何も意味が分からず、俺は力一杯目を瞑った。
ああ――此処は?
気が付くと、俺は黄金に輝く空間にただ浮いたまま横たわっていた。何処からともなく流れる静かで美しい調べが耳に心地良い。
――此処は、どこだ?
見渡しても何かあるわけでもない。また何かの時空間に入り込んだのだろうか。体の自由はきかないが俺は明らかに漂っている。
『信貴よ』
――!
この声は、確か……遠い遥か昔に聞いた――神の声。
姿は見えない。体全体に響く柔らかで中性的な声。俺、この態勢のままでいいのか?
『よくやりました。貴方は見事、自らの呪縛を解放し、新しき王を見つけた。そして曇天の世界を修正し、明るい灯を示しました』
「あ、いや俺は別に」
何かしたわけじゃない。ただ、目覚めただけだ。何かしたとしたら、それは罪を犯した事――。
『いいえ。その目覚めがあったからこそ、新王を導く事ができたのです。貴方は乗り越えたのです。そして応竜以上の仕事を成した。おめでとう』
「お、おめでとうって……」
今の俺に不釣り合いな神の言葉に躊躇うも、気付いた時には俺の目頭が熱くなっていた。
『どのような時も、祝福する心は大切です。それを忘れると嫉妬や妬みから憎しみに変わる。羨望もまた然り』
天上の調べに乗せて紡ぐ声は、どこまでも温かさが篭っていた。
「でも俺は……人間に直接手を下し仲間を捨てた」
何が可笑しいのか、鈴の音のような小さな笑い声。
『何度も言わせるな。貴方はそれを乗り越えた。あんな事が無ければ今は無い。違うか?』
あんな事とは――罪。
それがあったから、俺は荒波のひと時に償いを? ん? 本当に出来たのか?
『貴方は純粋であったからこそ自分の心に正直に生きた。年月の問題でも償ったからでもない。貴方は約束を守る為に生きた。違うか?』
――確かに、そうだ。
『なら答えは簡単』
か、簡単て。
『物事は複雑であり簡単なもの。永き時を生きた事が決して無駄だったわけではない。そのおかげで新王を導く事が出来た。新しき仲間を生む事も出来た。人間の心を再び目覚めさせた。悪しきものの見極めも出来た。さて、何か落ち度はあるか?』
――あんたが言うと全部完璧だな。
『ふふふ。それに、まだ気付かぬか? 貴方はこの場を持って、黄竜と成しているのですよ?』
「えっ、ええっ!? 何も変わった感じしねーぞ?」
だがその身を振り返る事はできない。体の自由がきかないせいだ。ただ、意識の変化が無い。そんな俺の言葉を無視して、神は言った。
『天地の名において四大聖獣四神の一員と竜族の王、応竜信貴を偉大なればこそ黄竜と成す。――黄竜の門よ開け!』
途端、黄金の空間が縦に裂けた。その隙間から差し込む光に、もはや抗う事の出来ない自分自身を感じる――。
光に吸い込まれていきながら、残響のように神の声が聞こえる。
『新たに生まれた黄竜よ、我々神仏と次の約束だ。今後は地にのびる竜脈を守護し、世界の安定を測りなさい』
――ああ約束、守るぜ。
竜脈は人間の心を敏感に感じ世界の均衡を保つ場所だ。なんて事だ。今、すっげえ幸せだぜっ。ミラーの奴、うまくやってんだなぁ――。
『そう。それは、地上の者達が幸福に満ちてるから』
そして、東の地に新たな国と王が生まれた。
王の側には、いつも鳳凰が見守っている――。人間の心は幸福に満ち、時に荒れ、王がまた道を指し示す。
その傍らにはやはり、鳳凰がいつも寄り添っていた――――。
(完)
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました。
「結」が尻つぼみなまま、推敲しきれず大変申し訳ありません!
きっと肩こり通りこして肩透かしを与えてしまったことでしょう。そのぶん、「霊界美容室~」の作品は一応しっかりと書かせて頂きました!!
あっ、アレで「肩こったよ」と言われてもどうしようもないのですが……。
尚、携帯な為行間がスカスかしてますが風邪を引かなかったですか?それでも読んで下さった皆様には大変嬉しく思います。
私の中で好きなキャラは魔道士ミラーなんですが、彼について何か書こうかと思案したところ、鎮火してしまいました。残念です。
またファンタジーが書けたらいいなと思います。
今はまだいろんなジャンルに挑戦中です。
また、よかったらメッセージなど気軽に声をかけてください。
携帯なので覗いた時に知る感じですが、お待ちしてます。
最後に、評価やポイントを入れて下さった方々本当にありがとうございました!!




