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納豆金

作者: 岩田凌

会社を辞めて早一ヶ月。一人暮らしの俺は金に困っていた。


働く意志はない。前の会社が年中無休残業代なしのクソ企業だったこともあり、社会に対して不信に思ったからだ。


「……クソが」


舌打ち混じりに吐き出しながら、俺はパチンコ台の前へ座る。

千円札を出し、銀色に光る球を虚ろに見つめる。


その後も何度か挑戦したが全敗した。SNSではこの店はよく当たるという書き込みが多かったのだが、どうやら嘘だったようだ。


何かスマホで音楽を聞きながら家に帰ろうとも思ったが、初っ端なフリマアプリの広告が流れ、飛ばすのが面倒くさくなってすぐに辞めた。


両手をズボンのポケットに入れ、俯きがちにマンションの玄関口を開ける。


エレベーターが故障していたので急な階段を上り、三階まで足音を立てながら上った。

そして薄暗く点滅したベースライトを見つつ、最奥にある自分の部屋のドアを開ける。


電気のスイッチを付け、床に散らばった缶ビールを蹴散らし、ベッドに腰をかける。隣にあるミニ冷蔵庫から缶ビールを取り出し乾いた喉を潤すと、スマホを取り出した。


特に見たいものもない俺は、たまたま動画サイトでやっていたニュースを見る。


納豆の特集をしているらしく、四十代くらいのおばさんとまだ若いニュースキャスターが何やら話している。


「最近SNSで話題のこの商品、ご存知ですか?」


「見たところただの納豆のようですが?」


ニュースキャスターのフリに、おばさんは納豆が入った容器を持ちながら大袈裟に笑う。


「この商品ですね、なんと極々稀に金色の豆が入っているんです!」


「まぁ、すごい! ……ひょっとして、今持っている容器にもあるんですか?」


「今回はですね、それを調べていきたいと思います!」


俺は缶ビールをベッドに置くと、食い入るように画面を見た。

結果、どうやら本当に金色の豆があり、それもきらきらと輝いていた。

どうやら食べられるらしいが、腐らないため部屋のインテリアとしても使えるらしい。


ニュースを見終わった俺は、早速近くのコンビニに行って納豆を全て買い込み次々に容器の中身を開けていった。


すると不思議なことが起こった。

なんと、全ての商品に金色の豆が入っていたのだ。


その時、俺はついさっき見かけたフリマアプリの広告を思い出す。


「……この豆を沢山売れば儲かるんじゃないか?」


我ながら良い案だ。そう思いつつ、俺は手元にある十個の金色の豆を早速売った。


翌日。寝起き早々にフリマアプリを見ると、なんと売れていた。

価格は五万円。決して安くない値段のはずだが、とんだ物好きもいたものだ。


数日後、五万円が銀行に振り込まれた俺は、またしてもコンビニで納豆を買いしめた。

ついでにパチンコ店へ寄ってみたが結局負けてしまった。

結果は以前と同じく全ての商品に金色の豆が入っている。

パチンコの運は無いが、豆の運は良いのかもしれない。転職ならぬ天職だ。


今度は価格を十万円に上げたが、数分で売れてしまった。

このまま行けばニート生活のまま人生を終えられるかもしれない。


しかし、一ヶ月が経ったある日、とんでもないニュースが飛んできた。


「全ての納豆に金色の豆をいれる……だと!?」


これではいくら高額で売ったとしても誰も買わないではないか。

俺のような太客がいるから企業は儲かっているというのに。


「……クソが」


舌打ち混じりに吐き出しながら、俺は床に無数に置かれている納豆の容器から金の豆を取り出し、フリマアプリに十万円で出した。


案の定売れる気配はなく、俺はさっさと出品をやめていつものパチンコ生活に戻ってしまった。


しかし、行き付けのパチンコはどんどん客が減っていき、半年後には閉店することになる。


何故閉店するのかと俺が聞いたところ、店長は不快そうに鼻をつまんで言った。


「この店は納豆菌が詰まってるって叩かれたんだよ」

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