2-2(7)サルの勧誘②
「聞けば白神夕緋は未熟な土地神! 早いうちに始末し、彼女の力を奪えればわたくしの組織内での幅も広がると言うものです」
奪う? 猿山の発言に、思わず反応してしまう。
「おや、力の簒奪に興味がおありで?」
ニヤリと猿山が笑う。
「ヒャヒャヒャ……簡単な話ですよ。土地神を倒し、その心臓を喰らえば土地神の能力を得られるわけです、はい……本当なら白神夕緋を殺した後わたくしが頂こうと思っていたんですがね」
初めて知ったぞ…………なんだよそのトンデモは。
「まぁ絶対ではありませんが…………ただ考えてみてください? 日本の全市町村区に土地神がいるなら? 死んだら引き継がれるなら? チャンスはいくらでもあるわけです。虐げてきた人間への報復というわけです、はい」
セールストークを広げ、猿山はご満悦の様子でタバコをふかす。
……人間に逆襲をするつもりなんて全くないんだが。
「その逆襲の為にはあの土地神を補佐する鬱陶しい従者、漆葉境! まずは奴の力を抑えたいので、あなたにもこんなクズ拾いなどやめていただきたいのですが?」
ゴミ拾って土地神の力にしてるのバレてるの?
「────────」
今ここで猿山を何とかしたいところだが…………分身の大元、実体がいない以上目の前の存在を何度か屠っても無意味である。これでは黒蜥蜴でもお手上げだ。
無言で猿山を見据えていると、猿山はわざとらしく両手を振る。
「あーいえいえ、あなたが縄張りをキレイに保持したいのであれば構わないのですが………これからは奴らへ徹底的に妨害工作を仕掛けるので何卒是非ご協力をば!」
そもそも俺の縄張りだと思っているなら入ってくるなよ…………いやそんな事考えてないけども。
「わたくしめに協力して頂けるなら更なる高みへご案内しましょう! どうせ、もうすぐこの街は落としますからね………その為の玩具もあちらからやってきましたし、はい」
吸っていたタバコが短くなったところで、猿山はそれを花壇付近の地面に放り投げた。
「次に会う時までによくお考え下さい……もし断るようなら────いえ、その時の楽しみにしておきます、はい」
すぅっ、と眼前のサルは夜の影と同化して消えてしまった。
ツッコミどころは多いのだが、まずは足元にあるタバコの吸い殻を拾い上げ、握り潰す。
(あいつ…………普通にポイ捨てしやがった)
迷うまでもなく、相入れない存在だと確定した。だが現段階では奴の実体の場所が掴めない以上、迂闊に手出しができない。万が一、漆葉境=黒蜥蜴が発覚してしまえば俺の目的も達成できなくなる……無論その時はその時だが。
(面倒だなぁ……)
さっさと力が使えない原因を突き止めていつも通りに戻りたいんだが。足元の花壇には月夜に照らされる花の芽が小さく佇む。膝を曲げてもっと近距離で花を見る。
(マジで頼むぞ、お前ら)
物言わぬ植物を睨んだところで意味はないんだが………とりあえずこの花達が育ってくれれば何かある────はずと信じたい。
と────そんな心中とは別に、眼下にある花の芽は俺の影に隠れているにも関わらず、さっきよりさらに強く輝く。
(ん……? え? なんだ?)
首を左右に振ってもう一度見直すと、花達は闇夜にひっそりと根を張っている。
(見間違いか…………?)
角度を考えれば光は当たってなかったような………いやでも発光してた、よな? そもそも植えたのは発光なんてしない品種だったはず……名前は忘れたけど。
(ま、気のせいだろ…………しかし)
どうしてこう……単純な力技で解決できないのか。個人的には『殴って解決!』の方が楽でいいんだがなぁ。一番に俺を抑えてくれるなら、出てきたところを殻装で叩けばいいか………がんばれ俺以外の人間。
(どうせ考えてもしょうがないし、帰るかな)
持っていたゴミ袋の口を縛り、帰路を急ぐ。明日もサルが出るなら何かしら違う事をしてくるはずだろう、多分。
それから間もなく──猿山の不穏な言葉とは裏腹に、サル出現の通報はパタリと止まった。




