2-2(3)殻装の実力
準備が始まった………などと意味深なモノローグは挟んだが、意外となんとかなってしまった。新装備の配備&モニター開始から1週間弱。ひすい公園に蒔いた花の種も発芽し、順調に育っている。
「あー、特にやることないな」
公園のスタッフもいるし、毎日様子を見に来てはいるが手持ち無沙汰感は拭えない。それに、周囲に民間人もいない。
『また〝サル〟が出たぞ! 手ぇ空いてるやつ来てくれ!』
『こっちも三体出てきてていっぱいいっぱいよ!』
一応耳に装備していた通信機から、雑音がとめどなく流れてくる。このところサルの出現率はほぼ毎日、しかも時間も昼夜関係なく街へ現れている………んだが、やることは道路へ飛び出て交通の妨害や道ゆく民間人への卵やパイ投げ(糞じゃないのは幸い)、落書きなど悪ガキじみた通報が多い。
先日俺が戦った時のようなサルのように好戦的になるのは支部の人間と対峙した時にようやくなる、らしい。
え? 俺はひすい公園でサボってるのかって? サボってはいない。バディとして動いているわけだからな。
『こちらAチーム、サル三体ぶっ倒した! 今から応援に行く!』
『こちらBチーム、こっちも片付いたから手伝ってやるよ!』
活気のある声が飛び交う。いい加減うるさいので通信機を外す。
結果から言えば、量産型殻装は劇的な変化をもたらした。今まで、白神に頼っていた部分が大きかった支部で、件の少女が入院(正確には休養か)中の間でも全く問題なく妖魔へ対処している。
生命力とか土地神より、結局は現代科学の方が上か。
「殻装があれば、土地神なんていらないんじゃないすかね?」
隣で花の発芽を観察している桧室博士に問いかけてみると、ハッハッハと威勢よく笑わらた。
「面白いコト言うなぁ漆葉クンは! 今出てるサル程度ならそりゃあ出る幕はないよ! 問題はこの後出張ってくるだろう妖魔の実体相手の場合さ」
「実体ねぇ…………」
「分裂したり増殖したりする妖魔自体は珍しくない…………問題は元の強さがどのくらいか、他に仲間はいないか………考えることはそこだよ」
分裂できる妖魔って珍しくないのか。火ぃ吹いたり毒を出すならまだ分かるんだが………
「でも博士、ああやって簡単にコピー? を倒せるならコピー元も大したことないんじゃないんですかね?」
後方を指さし、博士に見るよう促す。その先では赤い殻装を纏った涼香が、一人でサル相手に立ち回る光景。バットや鉄パイプなどで赤い装甲が殴打されるが、お構いなしに腕部の銃口から弾丸を浴びせる。
変わったのは一々ド派手に一斉射撃、ではなく的確に相手の急所だけを撃ち抜いているところだ。
「さてね…………実際個体ごとの強さに差があり過ぎて前例が役に立たないパターンが多すぎるんだよね、最近!」
どっちなんだよ………
「最近って、本部の方で……ってことですか?」
「そうだね! 言ってしまえば、殻装の実験に碧海市を選んだのは激化する本部周辺から一時離れるためでもある」
間を開けるように、涼香の銃撃が数発放たれる。
「せっかくのおろしたてなのに、激化している本部周辺で戦ったらボロボロになっちゃうだろう? それは勿体ない」
………戦闘用の武装なんだから、それでいいんじゃないのか? と胸中で突っ込んでいると、向こうの涼香は接近するサルに対して左腕部下に新たに付けた杭──パイルバンカーを射出して応戦している………もはや何でもありだ。
「そういえば、白神クン……まだ調子は悪いのかね?」
「みたいですね」
身体の内外ともに異常なしと太鼓判を押されたが白神の調子は一向に戻っていなかった。
本人曰く、
『風邪を引いて治った後運動しても思ったより動かない感じですね………風邪ひいたことないですけど』
……アホなのか真面目なのかよくわからんが、そういうことらしい。俺が土地神であることで何らかの影響がある………と考えられるが、対処方法は依然として不明だ。とりあえず現場復帰は一時見送り、病院で寝ていて鈍ったであろう身体を慣らしているのが現状。
「まぁ白神クンには悪いが土地神が活躍しなければより多くのデータが取れるからね! もう少し休んでもいいと思うよ! 彼女の殻装も調整したいしね」
「はぁ、そうっすか」
そんな会話の間に、涼香はサルを殲滅していた。妖魔が霧散したことを確認すると、真紅の鎧を纏った少女がこちらへゆっくり来る。
「戦闘終了。お────博士、パイルバンカーの射出速度が想定より少々遅いです」
「なるほど、やはり近接武器に関してはまだまだ改良の余地があるね!」
つーか、戦いのど真ん中になんで博士いるのよ。
「ここ数日での実践データは量産型殻装の普及には欠かせないからね………ほかのところも終わったようだね! とりあえず、支部に帰ろうかな。戦闘データをそろそろ纏めないといけないからね………」
博士が支部に連絡をしていると、俺の懐にあるスマホが震える。相手は白神だった。
「どうした土地神様、仕事してるか確認の電話か?」
『ち、違います! 今涼香さんと一緒ですか?』
この前よりも元気そうな声が返ってくる。というより、うるさい。耳から離し、スピーカーモードをオンにする。
「そりゃあバディだからな………涼香なら傍にいるけど、それがどうかしたか?」
『む………できれば! でいいんですけど、涼香さんと支部の道場に来てもらえませんか!』
?が語尾についているとは思えない、荒々しい口調。スマホの画面で誰と通話しているか涼香に見せてやる。涼香は無言のまま右手で〇《まる》を作った。そこはいつも通り『了解』とか言えよ…………
「何企んでるかよくわからんが、オーケーらしいぞ」
『そうですか! じゃ、道場で待ってますので! 《《涼香さん》》と! 一緒に来てくださいね!』
一方的に通話を切られる。この前気弱になっていたかと思えばこれだ。何かしたというのか………
「わかんねぇ…………」




