1-2(3)土地神のお仕事②
「さぁ、張り切って行きますよ漆葉さん!」
全身蒼海のごときカラーリングをした強化装甲を纏った白神が視界の先で元気よく手を振っていた。腰には右に抜身の青白い剣と左に鞘に収められた例の刀が差してある。
会議が終わり、午後。とりあえずは今まで通り、何人かのグループに分かれて碧海市内のパトロールに出ることになった。何人かと説明した割に、俺は白神と二人で組まされる羽目になった。白神は何をはしゃいでいるのかいつにも増して元気である。喜怒哀楽の落差が激しすぎて少し心配になる。
「ふぁ〜ぁ、アホらし………昨日の今日で出てくるわけないだろ」
妖魔も馬鹿ではない。しばらくは様子を見るだろうな。
「いつ出ても大丈夫なように! こうして見回ってるんじゃないですか!」
そう言いながら道ゆく人に声援を送られ、手を振って返していた。
「しかしなぁ」
従者である俺は実践投入を踏まえて白神とバディを組んでの作戦参加となった。その実、本来の立場は逆であり、俺が土地神で従者が白神………加えて土地神の俺は人間ではなく妖魔だ。かなり面倒な相関である。まぁ、奪ろうと思えばできなくはないが、なんとなく刀を取り上げるのはまだだと思う。それに、擬態から急に元の姿に戻る事象の謎を解かないとヒトの生活は難しくなる。結局は土地神の仕組みを紐解くことが現状打破。一番の近道なのだ。こいつは最大限利用しよう。
「それに……上からの命令ならやるしかないんじゃないですか?」
装甲姿に興奮した子供たちの応対を済ませ、こちらを一瞥する。
「留年、ナシにするんですよね?」
そう。土地神の謎を明かしても環境省の臨時職員としての仕事をせねば擬態といしての地位は最悪だ。
「嫌ですよ? 土地神様が留年してるなんて」
口調は丁寧だが、目線と態度は冷たい。
「あ、あぁ……ガンバリマス」
生気の抜けた声で返すと、少女はにっこりと笑って、
「さぁ、しゃんとして!」
猫背気味になっている背中を手甲で叩かれた。普通に痛い。
「うっ! まったく……おぉ……………お?」
気合を入れられてすぐ、視界に道端のごみが目に映る。何かプラスチックの破片だろうか。咄嗟に視線を逸らしたが、異様な吐き気と共に、歩が止まる。
「漆葉さん?」
まずい。この場でいなくなったら確実に怪しまれるし元に戻っても完全武装のコイツは面倒だ。だが吐き気はこみ上げる。
「っぷ! …………だ、大丈夫だ………うっ」
とは言いつつも、かなりやばい。もう喉元くらいまで来てる。
「し、白神………アレを拾ってくれ」
「え………はい」
白神がひょい、と拾い上げると全身の感覚が戻る。クソみたいな機能だな。
「ふぃ………落ち着いた」
「どうしたんですか漆葉さん?」
無骨な兜と目が合う。吐き気も相まって視線を逸らす。道の先に目をやると、今まで気付きもしなかったゴミが目に付く。
「ま、まぁあれだ。土地神たる者、街はキレイでないとダメなんだ」
待てよ? 従者が土地神に仕える存在だっていうなら、白神をうまく使えばいいじゃない。冴えたアイデアだ。
「そうなんですか?」
「そうなんです! ホラホラ、ボランティアだと思って!」
事情を呑み込めない白神の背中を押して進む。とりあえず押し通すしかない。道中でゴミ袋を入手し、口を広げて白神の拾うゴミを回収する。これが土地神としての役目を果たしているのかは定かではないが、とりあえずこれを行えば擬態の姿で身体が軽い。
「いやぁ、さっすが土地神様! 御自ら街の清掃に携わるなんて素敵!」
市内を数キロ見回り、袋の中身が半分ほど満たされたところで一度公園に立ち寄った。今の俺にはゴミ袋の中身が輝いて見える。
「大袈裟ですよ……漆葉さん」
水道で顔を洗っていた白神が両手を振って謙遜した。
「でも、市内の清掃が本当に土地神と関係しているんですか?」
鎧のどこに収納していたのか、タオルを取り出して白神は顔を拭いた。
「まぁな。実際やらないと調子悪いし」
下手を打つとお前に正体がバレるからな。
「先代の時はこんなことしてなかったような…………」
白神がぼそっと呟く。確認でもあり、疑問でもあるような問いかけだった。
「そりゃあ………この街も人が増えたからな、やることが増えたんだよ」
街の開発。それに伴って汚染も増えたとは両親から聞いている。先代──がまだいた時には開発自体そんなに進んでいなかったから土地神自らが土地へ奉仕をする、ということはあまりしなかったのだろう。
「土地神の使命は妖魔の討伐・殲滅です! それ以外は二の次ですよ!」
「どうしたんだよ………急に」
突然詰め寄ってきた白神。急なテンションの変容にやや引く。
「あ……すみません。でも、土地神は代々妖魔と戦う宿命にありますから………」
冷静さを取り戻してたのか、静かな声だった。
「宿命ねぇ………?」
傍にその宿命の相手がいること、そしてその土地神様が妖魔と知ったら、この女はどんな反応をするのだろうか。と、意味のない思考を巡らせていると子供の声。
「あー! とちがみさまだ!」
「とちがみさまー!」
ふと、公園の入り口に目線を移すと数人の子供が白神を指さしていた。白神はファンサービスと言わんばかりに右手を大きく振る。ずいぶん街に馴染んでいるようだった。
「………白神はさ、土地神でもないのになんで土地神のフリしてるんだよ。似たような力も使えるみたいだし、土地神みたいなもんだろ」
「え? えーっと………どこから話せばいいでしょうか」
小休止を終え、白神が兜を被り直した。
「元々、土地神の力は代々白神家が継承していたんです」
「あぁ……そうなの」
場所を移動し、人通りの少ない川沿いを歩きながら小さなゴミでも拾っていく。
「先代──私の姉、白神朝緋が土地神を務めていましたが、〝ある妖魔〟にその命を奪われました」




