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第三話 フラグ回収はお早めに

 

「とりあえずアリスリリア=ブリュンフィルはちょっと調子が悪いということにしますか。使用人たちには医療術師を連れてくる必要はない軽度のものだと説明してまかり間違ってもお父様に報告しないよう厳命しておくのを忘れずに、ですね」


「調子が悪いってアリスリリアさま大丈夫!?」


「嘘ですわよ嘘っ。文脈を読んでくださいな!!」


「うそ……そっか、よかった」


「はいはい白々しい演技はいいですわよ」


「演技?」


「そんなことより」


 横暴な主人が相手でも、いいやそうであるからこそ心にも思っていないことでも言って媚を売っているのはわかっている。散々荒く使ってきたからこそ、そんな心配をされるわけがないことくらいは自覚している。


「シェルファはメイドをクビになった、とするのが一番効果的なのですけれど」


 ポンコツメイドをクビにするのは簡単だ。そして、そうしてしまえばシェルファの身体を操っているアリスリリアは周囲を気にすることなく入れ替わりを解決する方法を探すために行動することができる。そう、入れ替わりを解決するため『だけ』ならメイドとしての仕事に時間を奪われることもなくなるし、他にも色々とできることも多くなるしとこれ以上の選択肢もないのだ。


 だが、そうしてしまうと一ヶ月経っても入れ替わりを解決できなかった場合が面倒だ。第一王子主催のパーティーに向けてアリスリリアの身体を操るシェルファをせめてパーティーに耐えられるだけの淑女に仕上げるにはメイドとして近くにいないといけない。そう、メイドをクビになったということにすると隠れて教育しないといけなくなり、クビになった女が屋敷内をうろついているのを見られようものなら面倒なことになるのは必然だ。


 それに、何より、横暴な主人がそばからいなくなればシェルファはアリスリリアの身体を操って日頃の恨みを晴らすだろう。これまで演技で積み上げてきた理想の淑女という評価を台無しにするように立ち回るかもしれないし、(信じてもらえるかはともかく)入れ替わりの事実を公表するかもしれない。


 だからこそ、アリスリリアはシェルファの近くにいないといけない。余計なことをしないよう監視しておかないと日頃の恨みを晴らすために何をするかわかったものではないのだから。


 だから。

 だから。

 だから。



「クビ……わたし、捨てられるんだ」


 くしゃり、と。

 これまでいつだってお面のように感情が読めない無表情だったシェルファがいきなり悲痛に顔を歪めて涙を流したのだ。



「なっななっ、どうしたのですか!?」


 自分の顔をしたシェルファがぐすっぐすっと鼻を鳴らして、涙が止まらない碧眼をごしごしと手で拭っていた。


 まるで年相応の女の子が悲しみに暮れるように。

 普段のお面のような表情が嘘のように感情を露わにして。


「わたし、メイドやめたくないのに……嘘つき」


「いやそれはあくまでわたくしが動きやすくするための建前というか、ですから少しは文脈を読んでください!! そもそもシェルファはメイドをクビになったということにするつもりはありませんから!!」


「ほんとう? クビに……ならない?」


「ならないですわよ。わたくしのメイドであれば平民ではそう簡単には手にできないほどの給金がもらえますものね。そんな立場を失いたくないのはわかりましたからさっさと泣き止みなさいな」


「わたしは……お金がもらえなくてもアリスリリアさまのメイドがいい」


「っ。媚を売るにしてもハリボテ過ぎて逆に不快ですわよっ。どこの世界に金にもならないのに労働に勤しむ人間がいるというのですかっ」


「わたしはお金じゃなくて──」


「はいはい、もういいですから話を戻しますわよ」


 ぱんぱんっと手を叩いてあり得ない言葉を遮るアリスリリア。


 自分のことは自分が一番わかっている。

 だからこそくだらないお世辞に耳を傾ける気はない。


「わたくしがメイドをやりながら入れ替わりを解決する手段の模索や一ヶ月後のパーティーに向けてシェルファを仕上げるために動くしかないでしょう。もちろん入れ替わりのことが周囲にバレることなく、です」


「大丈夫? アリスリリアさま大変そう」


「ふんっ。下賎なポンコツメイドごときでは大変でも、わたくしはアリスリリア=ブリュンフィルですわよ。高貴なわたくしならばこの程度余裕ですわよ!!」



 ーーー☆ーーー



「もう無理。こんなのやってられねえーですわよお!!」


 これはその日の夜のアリスリリア=ブリュンフィル公爵令嬢の発言であった。


 ちょっと前のドヤ顔を彼女の目の前に持っていったら羞恥に穴を掘って埋まりそうな勢いである。

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