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第十三話 第一王子襲来

 

 それは突然のことだった。


 第一王子アギト=ラギアグルがやってきた。

 それもアリスリリア=ブリュンフィル公爵令嬢に会いに来たと言っているのだ。ここまで何の前触れもないということは秘密裏の訪問ということだろう。


 ……人生に伏線とか何とかそんなものがあるほうが珍しいのかもしれないが、それにしてもこんな特大の展開をいきなりぶっ込んでくるのはあんまりだとアリスリリアは頭を抱えていた。


「こんなのどうすればいいのですわよお!!」


 残り三週間でどうにかパーティーに参加しても乗り切れる程度の技量なりを身につけさせる、という話だった。なのに今この段階でよりにもよってあの苛烈な第一王子(と王女エリシア)の前にアリスリリアの身体を操るシェルファを放り込む? 入れ替わっていることがバレるまではいかなくても不敬だとぶった斬られる展開は十分にありうる。


「あ、あの野郎、パーティーで毎度のごとく絡んでくるだけに飽き足らず突撃してくるとか何のつもりですか? 王族を差し置いて才能に満ち溢れているわたくしに嫉妬して図に乗るなと圧力でもかけているつもりなのですか!?」


 第一王子本人が聞けば膝から崩れ落ちそうな意見だった。まあパーティーで顔を合わせれば『随分と景気がよさそうだな、アリスリリア嬢。色々なところではしゃいでいる様子は俺様の耳にも届いているぞ。はっはは、楽しそうで何よりだ』と(本人的には褒めているつもりなのだが)ハタから聞けば遠回りに釘を刺しているようなことばかり言っているのから仕方ないかもしれないが。


「いえ、そんなことよりどうにかしないと……何をしにきたにしても無視するわけにもいかないですし、しかしこのポンコツメイドが王族をもてなすことができるわけねえーですし完全に詰んでやがりますわよお!!」


「アリスリリアさま」


「何ですわよポンコツメイド!?」


 ぐっと。

 両手を握ってシェルファは一言。


「わたし、頑張るよ」


「…………、」


 嫌な予感しかしない宣言だと、アリスリリアは頭を抱えるのだった。



 ーーー☆ーーー



「はっはは! 久しいな、アリスリリア嬢。学園が休みに入ってからだから一週間ぶりか」


 客間に入ったアリスリリアたちを出迎えた第一王子アギト=ラギアグルはまるで自分こそがこの屋敷の主人であるなのように堂々と椅子に腰掛けていた。


 隣に王女エリシアも座っているのだが、アギト=ラギアグルの存在感が強烈すぎて霞んでしまうほどに。


 どうにか第一王子とアリスリリアの身体を操るシェルファとが邂逅する場にメイドとして紛れ込んだシェルファの身体を操るアリスリリアであったが、正直頭の中は焦りに焦っていた。


(王家は多くの新種で簡易な魔法道具を作り出し、時代を『次』に進めかねないわたくしを警戒しているはずです。利用価値はあってもブリュンフィル公爵家が力をつけすぎて王家を超えるようなことがあってはならないと。それは殿下が執拗にわたくしに絡んでくることからも明らかですしね)


 アリスリリアは王国でも最高峰の王立魔法学園に通っている。その理由は学ぶためというよりは高位の貴族の令息令嬢との縁を結ぶことで将来的な関係性を充実させるためではあるが、同年代に第一王子が存在するせいで時々警告されるのだ。


 景気がよさそうだとかはしゃいているだとか、その言葉の意味は貴族令嬢であれば簡単に読み取れる。


 魔法道具の開発によって莫大な利益が出て景気が良さそうだと、その『価値』でもって王家を越えようと裏ではしゃいでいるのではないかと。


 最終的に王家を打倒して国の頂点に立つつもりなのではないかと、そう探りを入れているのは明らかだ。


 アリスリリアは別に王家を潰そうだとかそんなことは考えていない。自分は誰よりも優れていて、完璧なまでに高みに至るのは当然で、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だからこうして長期休暇の時にまでくだらない腹の探り合いに付き合わされるだけでも面倒なのに、よりにもよって『中身』が入れ替わっている時にやってくるとは本当に面倒だ。


 最悪を想定しよう。

 入れ替わりがバレたら、どうなる?

 そんな突拍子もない話をこうして顔を合わせただけで見抜いてくるとは思えないが、シェルファがアリスリリアの身体でちょっと無礼なことをするよりもそちらのほうが『最悪』なのだから考えないわけにもいかない。


 入れ替わり。

 つまりアリスリリアという個人の知識や能力が公爵令嬢と違って『どうとでもできる平民』であるシェルファに詰まっている。王族としての権威を使って強引に身柄を確保して魔法道具の開発を司る頭脳を手中に収めようとしてくる可能性もゼロではない。


 平民一人であればどうとでもなる、と王家が考えても何の不思議もない。王家を、この国を敵に回すことになったら入れ替わりの解決策を探る暇なんてなくなる。


 そうなるくらいなら最悪の場合、入れ替わりの事実がバレた瞬間に第一王子と王女を──


(ふん。それはわたくしのプライドが許しませんわよ)


 となると、だ。

 やはりどうあっても入れ替わりの事実だけは隠し通さなければならない、ということに帰結する。


(ああもうっ、つまりポンコツメイド次第ということてすわよね! 命運を託すのにあんなにもおっかない者もいないですわよ!!)


 そして。

 そして。

 そして。



「……で、何か用?」


 直球にもほどがあった。

 相手は第一王子、身分的にはあちらのほうが上だというのに『屋敷での』アリスリリアらしく高慢に問いかけるものだから思わず頭を抱えそうになった。



(こんのポンコツメイドお!! 王家と戦争でも始めるつもりですかあ!?)


 言葉遣いとは武器だ。

 わざわざ相手の神経を逆撫でするような武器を使うのならば、その末にそれ相応の利益が見込める場合にのみ用いるべきだ。


 少なくともわざわざ第一王子を怒らせる意味はない。ならば心情はどうであれ礼儀作法に則った言葉遣いで対応すればいいだけだ。


 いつでも、いかなる時でも、構わずに自ままに振る舞うのが強さではない。相手や場に応じた対応ができるのも一つの強さなのだから。


 そしてアリスリリアはあらゆる面で優れていると自負するだけあって必要ならいくらでも相手を気分良くさせる言葉遣いで対応できる。自分に都合よく掌で踊らせるために。


 ポンコツで鈍臭いシェルファにそんなことを求めるのは酷だったかもしれないが、それにしてもいきなりやらかしすぎである。事前に余計なことは言わないように厳命しておいたが、そもそも本人は余計なことを言ったつもりはないのがタチが悪い。


 と。

 ゆっくりと第一王子が口を開いた。



「はっはは。用はもう済んだ。というわけで帰らせてもらうぞ」



 そこからは早かった。

 まるで脱兎の如く客間から出て行ったのだ。



 ーーー☆ーーー



「もう無理限界、アリスリリア嬢可愛すぎる!!」


 ブリュンフィル公爵家の屋敷を出てから、第一王子アギト=ラギアグルはそんな風に叫んでいた。


 何なら学園でも一言、せめて二言交えるのが限界でその後はこんな風に逃げ出しているから当のアリスリリアに変な勘違いをされているのだが、そのことには気づいていなかった。


 ついでに自分で王女エリシアを連れてきておきながら放って出てきたのだが、アリスリリアのことで頭がいっぱいでそんなことに頭が回るわけがなかった。


「しかし、どうにも普段と違った気もするが……気のせいか?」


 そうでなければ。

 あの一瞬で違和感を抱くどころか真相を見抜いていたっておかしくないのが第一王子という男の真髄なのだから。

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