勇者は結婚の挨拶に伺う。
この話は、完結してます。
超大国ヘルムート王国。首都の周辺はともかく、豊かな土地をもち、地下資源も豊富で自然豊かな、広大な国土が特徴の国だ。その国民も規律正しく、それでいてユーモアを忘れない人々だ。
その首都から少し離れた屋敷。その周囲に畑がある。その畑を耕す一人の男がいた。
年のころは、ぱっと見て三十後半。鍛えられた身体。畑を耕す姿は危なげなく、どことなく剣士を彷彿とさせる。
その彼に一組の男女が近づいていく。
二人とも、旅人用の外套を身につけている。一人は少年。腰には剣を吊るしている。
もう一人は少女。こちらは長い杖を持っている。ただ玉石が杖の先についており、魔法使いが使う物と思われる。
畑を耕す男が二人を見た。少年は、三通の手紙を取り出し、声をかけた。
「私、ソラ国の勇者アルミ。他一名、ヘルムートの賢者王に面会を望みます。我が祖国を含め、三国の王の推薦状もあります。どうか、確認を」
アルミが持った三通の手紙は、風に乗って男の手元に届く。そして、男は、無造作に手紙を読んだ。三通の内容は、細かいところをのぞけば、同じ内容だった。勇者アルミの願いをかなえてほしい、と。男はささやくように語りかけた。
「ふむ、そろそろ休憩しようと思ったところだ。いっしよに茶でも飲むか」
「はい、お願いいたします」
アルミの他人行儀な言動に、男は苦笑いする。
「おいおい、知らない間柄でもないだろう。少しは砕けても良いぞ。アルミくん」
「いえ、そうゆう訳にはいきません、師匠。要件のこともありますし……」
「ほんと、アルミは頭が固いのよ。困ったものよね」
少女が笑う。
「ただいま、義父さん」
「お帰り、フォウ」
男、いや、バーン ヘルムート。超大国ヘルムート王国の国王。魔法使いと法術使いの頂点として賢者の称号を持ち、ヘルムート流闘術の頂点として、拳聖の異名も持つ。その他の業績に、ついた異名、尊称、悪名、通り名数知れず。この中でも、最も有名でひろまっている名が、
魔王。
である。
その魔王は、穏やかな口調で二人に、いや、フォウにかたりかけた。
「元気していたか?」
「うん、義父さんは?」
「ああ、めちゃくちゃ忙しい。今も仕事に研究にと大わらわさ」
「義父さん、人間やめてるものね」
「酷いな。生粋の人間に。義父に。あんなに父さんだいすきと言ってたのにな」
「だって……今も仕事に研究にと大わらわなんでしょ」
ちなみに魔王は、今並列思考の魔法で10の案件を処理している。普通の人間がやれることではない。
賢者がさっと手を降ると、三人は館の中の応接間に転移した。少し眉をひそめるフォウ。
「また、義父さん、魔力の無駄遣いして。精密さも魔力量もどれだけ要ると思っているのよ」
「はは、この程度、造作もないよ。父さん鍛えているからな」
各自は移動した応接間の椅子に座る。フォウは、その前に勝手知った自分の家だから、と、お茶とお菓子を準備し、皆に行き渡らせた。
バーンは静かに茶を嗜む。アルミは緊張していて動けない。フォウは、そんなアルミの姿を見て、苦笑していた。
「ふむ、フォウの淹れるお茶が一番旨いな」
「ありがとう、義父さん」
にっこり笑うフォウの隣で、アルミはまだ緊張している。その様子をみて、魔王は静かにうながした。
「アルミ、なんとなく要件はわかっている。しかし、言ってもらわんと困るな。何もはじまらん」
アルミは、魔王を見た。その大海とも、大山脈とも思える威圧感。それに飲まれていた。しかし、それでも彼は抗う。そして、要件を話した。
「魔王様、私に、いえ、私と、いえ、私は、フォウさんと、結婚したいと思っています。その、報告と、そのお許しを得たいと思います」
その言葉に、魔王はにこりと笑った。
「ふむ、やりなおし」
「はい? はい」
アルミは、なんとなくバーンが言いたいことがわかったのて、再度今居を正しくした。そして言葉に力をいれる。
「バーン様、私は貴方の義娘フォウと結婚したいと思ってます。その報告に参りました」
バーンは眼を細くした。そして、次のことばをおしだす。
「わかった」
バーンは、ずずず、と茶を飲んだ。それから、アルミに静かに話しかける。
「私としては条件は三つ。フォウを愛すること。次にフォウを守るために武力、財力、権力を確保すること。ただし、その為の手段でフォウを悲しませないこと。三番目に家族を説得すること、だ」
アルミは、はい、と返事をした。
「必ずややりとげます」
ちなみにアルミは第一と第二の条件は何とかできる。あとは三番目の条件だが、フオウと三人の義姉は仲がいい。義父もどうやら問題なさそうた。と考えていた。
「ああ、なら、早速とりかかりたまえ」
笑う魔王。次の瞬間、巨大な殺気が現れた。
「うちのかわいい妹を奪おうとしている愚か者はこいつ?義父さま?」
正面に現れたのは紅。紅の髪に紅の瞳。紅のドレスに蒼白い肌に震い付き労な肉感的な女性。
マリアンヌ。ヴァンパイヤの長女。アルミに治癒術を教える師範代でもある。
「……」
後ろからアルミの頭に大剣をあてているのは、翠。翠のショートカットに翠の瞳。やや細身のスレンダーな彼女には筋肉がついているようにはみえない。
レディ。ハイエルフの次女。アルミに剣を教える師範代である、
「ああ、アルミお兄ちゃんだ。わーい、わーい、遊んでくれるんだよね。いっぱいいっぱい」
アルミの手を握り締めているのは白。白銀の長い髪に青い瞳。ゴスロリ風のドレスに身をつつんだ小柄な少女。彼女のまわりを白い霧が包んでいる。その霧の一粒一粒が高密度の魔力をひめている。
カルーア。ハイドワーフの三女。アルミに魔法を教える師範代である。
フォウもふくめて、魔王が育てた秘蔵っ子の四姉妹勢揃いであった。
因みに三人がアルミの師範代なのは、勇者としてのすべてを統合的にバーンか教えているからだ。彼女たちは、自分の得意分野を教えているに過ぎない。
アルミは、ひきつった笑いを浮かべた。なぜならフォウ三人の義姉らは、笑顔だから。ただし眼は嗤っていない。むしろすわっている。
「え、ええっと、師範代の皆様、おそろいですね。おひさしぶりです」
「あら、この前会ったじゃない? この間の課題、出来たの?完全治癒。ちゃんと腕一本瞬時に治せるようになった?」
「い、いえ」
「ちゃんと叩き切ってから直すのよ。そのほうが後遺症も少ないし。久しぶりにアルミに教えてあげようか。貴方の血、美味しいし」
彼女は治癒法術に長けた神への信仰心厚い聖女である。その治療は独特だ。患部を叩き切り、傷の跡形もなく再生する。そのあと、鮮血を旨そうになめ、血塗れになりながら恍惚とする姿が見受けられる。そこからついた二つ名がブラッディマリー。
「反、遅。怠。怒」
レディは、いらいらしたようすで大剣でぺちぺち叩く。彼女は、ハイエルフだが、それにしても腕力がない。カトラリーより重いものは持てない。それでも創意工夫を重ねて剣技を身に付けた。巨大な大剣を軽やかに、流れる舞を舞うように、それでいて豪胆な剣を使う。その剣技を見て人は青い風と呼んた。そこからついた二つ名がブルーレディ。
「だめだよ、マリアンヌおねえちゃんも、レディおねえちゃんも。一番最初に遊ぶのわたしだからね」
カルーアの回りの霧がゆれる。本来ドワーフの彼女だが、実は魔力がない。それでも創意工夫を重ねて魔法を使えるようになった。極小規模の魔法を天文学的物量で展開。精密さ、威力、範囲指定など、他の魔法使いの追随をゆるさない。
特によく使う魔法は極小サイズの極大氷魔法の複合展開。今纏っている霧である。その姿から、ついた二つ名がカルーアミルク。
魔王が誇る三人の聖女、剣聖、大魔道師である。もちろん他の者の追随を許さぬ実力を持つ。
「で、師範代の方々、私は、フォウと結婚します。よろしいでしょうか」
緊張しているアルミをにこにこしてみているフォウ。
聖女と剣聖と大魔道師は言った。
「あら、アルミさん、私たちより先に結婚できるとおもっているの?せめて私の課題ぐらいできるようになりなさい」
と、ブラッディーマリー。
「私に一回勝ちなさい。ふう、遅いしめんどくさい」
と、ブルーレディ。
「いっぱいあそぼ。せめて、あたしとおなじくらい魔法が使える様になってね」
と、カルーアミルク。
「そのあとは、すこし稽古をつけてやる。生かして帰さん、とは、いわんが、せめて、俺の憂さ晴らしにつきあえ」
と、魔王。
アルミは震えて四人に尋ねた。
「あの、もしかして、私たちの結婚が気に入らないのでしょうか?」
「そんな事はないよ、わたしよら先に結婚するなんて、ムカつい、じゃ、なくて、気に入らないだけよ」
「フォウ、いいこ。アルミ、弱。鍛、実行」
「もう、みんなひどいよ。アルミ、結婚したらこれまでみたいにあたしと遊んでくれないんだから、最後にすんごく遊んでほしいだけだよ」
「アルミ、安心しろ。ほんとはみんなでいたぶる、じゃない、いじめる、でない、修行つけてやろうというだけだ。再起不能にしかしないから安心しろ」
ここで、三姉妹がハモる。
「「「義父さん、本音漏れてるよ。私たちも同じだけど」」」
アルミは、隣のフォウを見た。救いを求めて。
彼女はにっこり笑った。
「がんば」
アルミはわめいた。
「なんでですか、ただ結婚したいつまて、挨拶しに来ただけなのに、なんでですか、国8つの戦力と戦争するはめになるんてすか!」
「うちの娘にそれだけの価値がないとでも」
魔王の、底冷えがする声が響いた。大氷山のような殺気と共に。アルミはその声にのまれた。絶望のあまり涙ぐんで両手をつく。敵は強大。勝ち目はない。
そして、アルミは震える泣き顔で、四人の冷たい顔の前で、か弱い声を出し、呟いた。
「よろしく、おねがい、します。た、たとえ、何年、かけても、フォウと、一緒に、いきるために、がんばります」
アルミは勇気を振り絞って答えた。
「ダメだよアルミ。なるべく早くね。私も姉さんたちみたいにいきおくれになりたくないから」
殺気が重圧を増した。アルミは気を失いそうになりながらも頭をあげ、魔王とその娘たちを見上げた。
「必ず、そこまで、とどいて、みせます」
そして、世界を一年間にわたってゆるがした、アルミの嫁取り物語が幕をあけたのだった。
魔王。
「うおーっ、うちの末娘のフォウを奪いやがって! 三千回殺してやるう。いや、しかし、フォウに嫌われることはしたくない。どうすればいいんだあ。仕方ない、やつを鍛えよう。それで死んでも仕方ない、うん、それならフォウも納得するだろう、うん」
訳。すごい嬉しい。しかし、アルミは少し頼りない。鍛えてやろう。三千回位死んだりしたら度胸もつくだろ。いや、後遺症無しに生き返らせてやるよ。勿論娘たちがなにかしてもな。フォローはしてやる。
かなりねじくれてます。
聖女。
「うそうそ、あたしより軟弱なぼんくらがかわいいフォウと結婚!!う、羨ましいいい。あたしより早く結婚しやがってえ、悔しいい。引き裂こうかしら。あ、でも、フォウが悲しむし、仕方ない。憂さ晴らししよ。アルミで」
訳。きゃあ、アルミとフォウが結婚!嬉しい。あーあ、何で私に縁がないんだろ。ちょっとムカつく。少しからかってやろ。
だいぶひねくれてます。
剣聖
「ひどい。切る」
訳。きゃあ、アルミとフォウが結婚!偉いぞ。でも、アルミ、あんたみたいなへたれがフォウを守れる? 無理よね。ひどいやつ。しかたないからあたしの剣を教えつくす。二人の障害を切り裂きなさいよ。
だいぶこじれてます。
大魔道師
あーあ、、アルミとフォウが結婚しちゃったか。これであんまり無理出来なくなっちゃつた。いいおもたゃだったのに。まあ、いいやフォウのためなら仕方ない。最後にいっぱいあそぼ。ま、アルミも強くなるだろし、問題ないよね」
訳、そのまま。
わりと素直。
賢者
「アルミ、がんばって」
訳
アルミ、頑張って。大丈夫、みんなで応援してくれてるから、少し大変だろうけど、がんばって。
うん、素直。
勇者。
「……邪神や真竜と対峙するほうかましだよ。勝ち目はない、でも、行くしかない」
訳 そのまま。
それでも進む。愛のため。
まあ、このあといろいろありますが、なんとか乗りこえさせてもらってハッピーエンドになるでしょう。
続きは書く予定ありません。書きたいと思う酔狂なかたは、一言あればご自由にどうぞ。