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君が幻影―反逆の心臓編―  作者: だいふく丸
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【第六話 5】

 近藤が瞬きをすると、そこは悪霊が宙を飛び交う、荒廃した闘技場となった。

 破れた旗が腐敗臭を運ぶ風になびき、壁面には血のような赤い歪な紋章が無数に描かれ、床のタイルは亀裂が入っている。

 闘技場の角隅には大きな柱がそびえ立ち、そこからは悪しき魔力が放たれている。

柱からは影が伸び、悪霊が出入し、客人をあざ笑うよう妖しく舞い踊っている。


 古野そなだった女は黒く鋭利な槍を持つ、妖艶なドレス姿となる。

 ピンクのラインが入る、紫色のドレスは体のラインを際立たせるデザインで、スカートはレースで白い 太股が透けて見え、上下の下着が見え隠れするオスの本能をくすぐる。

 右手の人差し指と小指の指輪から、闇の魔道士だと推測するのは容易い。しかし、背中に生えた漆黒の翼から、特殊な力を持つ人間だと察する。


「どうせ戦うなら、こういうサキュバスが好きでしょ?」

 ウサギの声だ。近藤ははっきりと伝える。「めっちゃ大好きです!」

 左腕で鼻を抑えるカウボーイだが、すぐに真剣な眼差しとなる。


「――で、古野そなはどうした? お前の仲間なのか?」

「仲間というより、ファミリーね」

「ファミリー? まるでマフィアだな」

「カグヤさんと一つになれた。これほどの幸せはないから」

 

 古野の声だ。一つの身体に二つの人格があるようだ。

 近藤は闇魔道士が口にした名前を聞き逃さなかった。

「カグヤさん? それがお前の名前か?」

「フフフ。仲間になったらわかるわよ?」


 ウサギのカウボーイの宝石眼がキラリと煌めく。

「誰が仲間になるかよ、誰がッ! 国家アイドルが闇に堕ちたら、誰が赤羽を元気にすんだよ。ようやく災害から復興して平和に暮らしているというのに……」

 銀色の弾丸で襲い掛かる悪霊の浮遊体を撃ち落とす。

「愛で人を助ける、ラブヘルパーこと近藤愛之助、この命が尽きるまで、誰もが夢を叶えられる幸せな世界を目指して、歌って踊って戦い続ける! これがアイドルになった理由にして、オレがこの世界で生き続けるアイデンティティだッ!」


《マジカルエフェクト ゴールデンイーグル・スパイラルショット》

 先手必勝、引き金を引く。銃弾が霊力と相まって近藤の守護霊《金鷲》へと変化し、螺旋を描くよう光速の弾丸がその闇魔道士を襲う。


《シャドウエフェクト アバター・リフレクション》

 金鷲が貫いたのは、その女の分身だ。黒い粒子となって破裂するが、即座にその光が集約すると、同じ金鷲となってカウボーイに放たれた。とっさにマントを広げる。

 

 術式が反応し、対魔結界が張られた。金鷲の銃弾を防いだものの、マントは焼失していく。

「お前ェ……ガイアのアイドルか何かか?」

 カウボーイはガイア共和国の選抜アイドルグループ《エンジェルハート》が思い当っていた。

 彼女たちは精鋭の魔道士で、十二星座のご加護を受けるため、天使の力と翼を持つ。


「仲間になるなら教えてあげる」

「誰がなるかよ」と、虎視眈々と自分を狙う浮遊する悪霊を撃ち落としていく。

「隙あり!」と、その闇魔道士が黒槍で右胸の心臓を狙う。

 

 マントがなくなり、バリアが張れない近藤は格闘術で対応するが、近距離すぎて銃が扱えない。槍使いとの戦闘は霊道学院で何度も演習しており、その経験値で対処するしかない。

 

「なかなかやるじゃん、カクカクフェイス! めっちゃおっぱい見てくるけど」

「バカ、見る余裕なんかねーよ!」

 槍の矛先に集中していた近藤の意識が胸元の谷間に向いてしまう。

「これだから男は弱い」

 槍が近藤の右肩を捉える。少しかすっただけだが、服が切れて血が滲む。


 その女は後方に退いた。カウボーイはその真意に気づく。

「露出トラップは、一撃を浴びせるためだよな。毒の一撃を」

「さすが近藤金之助の息子、サムライの血筋だね」

 近藤は応急処置のため、ガンフォルスターから小さな筒を取り、口でフタを開け、中から浄霊の霊符を傷口に貼る。強力な毒なのか、数秒も経たないうちに霊符が燃えていく。


「サソリの毒をなめないでほしいわね」

 と、ウサギの声で女は小瓶を見せた。「解毒剤よ。仲間になるならあげる」

「誰が……なるかよ……ッ!」

 神経毒のようだ。カウボーイが銃を離し、膝から崩れ、意識がぼやけていく。


「我慢しなくていいのよ。楽になりましょうよ」

 近藤愛之助は、地面に倒れ伏していた。彼の体力は限界に近づき、息も絶え絶えだ。

 しかし、目の前に立つ闇魔道士の白い肌が、その露出度の高いドレスが、危機的状況であっても彼のオスの本能を刺激し、なんとも情けなくさせる。

「ほんと……男って、アレだわ」


 近藤は自身の情けなさを思い知りながら、背に腹は代えられないと一矢報いる決意を固めた。

 両手を重ねる。《犬養流忍法 犬吠共鳴》

 近藤が何かを発すると、遠吠えする犬となる。その声は魔界の外まで届いていた。


「サムライのくせに……そなちゃん、帰りましょう」

「いいんですか? ひん死にして連れ去れば」

「強制では意味がないのよ。彼の意思で仲間にさせる必要があるの」

「そうですか……」と、その女はヒールの踵で男の角が立つエラを何度も踏む。「命拾いできてよかったね、カウボーイ。今度会ったときは、そのキモくてイヤらしい目を潰してあげるから」


《犬養流拳法 砂鉄犬爪》

 メガネの女が力づくで女が去った魔界へと足を踏み入れた。

 悪意に満ちた霊気に血走る眼球は見覚えのある男を捉える。

「キモいな……誰が作った……こ、近藤少佐!?」

 女はすぐに護神庁へと通報した。

 


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